4.魔王登場
『魔王』アキラは朝の小鳥の歌にうっすらと目を開いた。
街全体が華々しい活気に満ち溢れる中で、アキラの十五歳の誕生日はひっそりとその幕を開けた。
七十五歳の間違いではない。彼は間違いなく、一週間前には十五歳の少年であった。
傍らには黒猫が寄り添うように丸くなっている。
この土地では珍しいアキラの黒髪によく似合う漆黒の毛皮を持ったスマートでなかなかの美猫なのだが、ぐうたらさはアキラを勝る。なぜか飼っているわけでもないのにいつもアキラにくっついている。
その黒猫が、なぜか今日に限って湿った鼻面を執拗にアキラの顔に押し付けてくる。
仕方なくアキラは薄目を開いた。
「朝か……」
朝日が差し込む中に目を覚ますことは、アキラにとって非常に稀なことである。
階下ではせわしく動く家族の気配がする。
宿屋とパン屋の朝は早いのである。
「……寝るか」
朝日に背を向け寝返りをうつアキラに黒猫が声を上げる。抗議の声だろうと毛布を引き上げようとしたアキラだが、ふいにその毛布が引っぺがされた。
「……うわっ!」
「うぐっ!」
爽やかな朝の外気が肌を撫で、同時に聞き覚えのない叫び声が聞こえてアキラはようやっと身を起こした。
「な、な、な……」
戸惑いの声にごしごしと目をこするアキラ。
毛布を手に目を丸くしてベッドの傍らに立ち尽くしているのは、見覚えのない薄汚れた少年だった。
アキラ擦り寄ってきた黒猫を撫で、立ち上がろうとし……。
「あ」
足元に垂れていた毛布に気躓き、
「う……うわっ!」
目の前の少年を押し倒した。
「……」
「……」
無言の時間。
ようやく視界の焦点があってきたアキラは、鼻が付くほど近くにある少年の顔をまじまじと観察した。
煤や埃で汚れてはいるが、なかなか整った顔立ちをしている。
目は大きくきらきらと輝いており、少し太めの眉毛が意思の強さを感じさせる。
鼻はすっと通り薄い唇はしっかりと引き締められ、若干頑固そうだ。
手足は細いがしっかりと筋肉がついており、鍛えられている印象だ。
年齢は自分と同じくらいだろうか……という思考までたどり着いたとき、アキラはなぜか少年が顔を真っ赤に紅潮させていることに気が付いた。
「……あんた、誰?」
「それよりも……」
わなわなと小刻みに震えると少年は拳を握り締めた。
「さっさと服を着ろー!」
拳が頬にクリーンヒットし、アキラは素っ裸のままベッドに吹き飛ばされた。
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