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1.魔王爆誕

 荒地には雷鳴が轟き、暗雲が世界を覆う。


 吹きすさぶ風の中、カイは大剣をかざし『それ』と対峙していた。


 女性の胴体ほどもある刀身には、握りこぶし大の七色に光る宝玉がはめ込まれている。


 それらが雷光を照り返し、七色にカイの顔を暗闇に浮かび上がらせる。


 眼前には海のような巨大な湖が広がり空の色を移し、まるでこの浮島が天空に浮かんでいるかのような錯覚を覚えさせる。


 巨大な角を蓄え、赤い目を爛々と光らせた小山程もあろうかという黒牛が白い息を吐き、一つ目の鬼が大斧を構えてこちらを見据えている。


 半人半馬の騎士が守るその後には、黒い龍に乗った男がカイを睥睨していた。


 カイと同じ漆黒の闇色の髪に黒い瞳。


 短髪でクセっ毛のカイとは異なり、真っ直ぐな癖のない髪を肩で切り揃えている。


 黒に近い真紅の外套に星のような小さな石が明滅していた。それら一つ一つが、魔王の力の欠片である。


 荒地で静かにカイを見下ろすと、魔王は厳かに言った。


『勇者カイよ、汝何故に我と我が同胞に刃を向けるか』


「知れたこと!」


 一歩踏み出すと、カイは高らかに答えた。


「勇者である私が魔王であるお前を倒すに理由がいるか!」


『愚かな』


 あくまで涼やかに、静かに笑うと魔王は小さく指を動かした。


 途端に空を縦横無尽に駆け巡っていた雷が一本の柱となり、カイに襲い掛かる。


 カイは振りかぶった大剣でそれらを受け流すと、逆に炎の柱を剣に宿して魔王目指して駆け寄った。


『汝の信じる未来と我の信じるこの先。どちらが正しいのか、決してくれようぞ!』


「これで最後だ! 魔王!」






 物語は五年前に遡る。


 切り立った崖の上に立った少年は、竹刀で肩を叩きながら声を張り上げた。


「遅い! 気合が足らん! あと三往復!」


「ちょ、ちょっと待った……」


 蜘蛛の様に地面にへばりつき、必死の形相で浮かべて男は声の主を振り仰いだ。


 男は頑健な鎖で巨大な岩を背に縛り付けられ、足には鉄球をぶら下げている。


 ちょうど五寸釘ほどの大きさのクイを指が固まるほど握り締めているのは、それでようやっと垂直に近い崖を上ってきたからだ。


 耳が千切れるほどの冷気をはらんだ強風が柳のような体に容赦なく叩きつけられる。


 寒さにガチガチと歯を鳴らしながらも、顔を真っ赤にして男は声を絞り出した。


 苦悶にその表情は歪んでいる。


「な……なんで、なんでこんなことを……」


「理由を問うのか」


 崖の上の少年は、まだ幼さの残る顔に威厳を漂わせている。


 しかしこれは齢七十を超えるだろうと思われる男に対して行っている所業とすれば、まさに「虐待」でしかない。


 しかし少年は、いっそ荘厳とも感じられる口調で崖にへばりついた男に言った。


「お前に定められた運命を知っていながら、その疑問を私に投げかけるのか」


「知っているから……こそ……聞いているんだけど……」


 老人とは思えないほど幼い口調で彼は答えた。


「千里の道を走りきる胆力と千尋の谷を上りきる腕力がなくて、七十齢にして魔王を目指すことができるとでも思っているのか!」


 ダン! と竹刀の先を地面にめり込むほど突き刺すと、少年は浪々と言い放った。


「それでは、この勇者カイの相手にならんではないか!」


「元から魔王になりたいとか思っとらんし、こんなこと続けていたら魔王になる前に寿命が尽きるわ!」


 老人・アキラはクイを地面に叩きつけた。

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