案内人と彷徨人⑥
機嫌を悪くした彼女をなだめるのに少々時間を浪費。
その後は時間の許す限り彼女からセラトスに関する話を聞いた。何せ海外ってレベルではない初めての場所だ。情報はあればあるだけいい。
どれだけの時間、そうしていただろうか。
饒舌に語り続けていた彼女が、ふと目を閉じた。
「……そろそろのようです」
どうしたのかと問いかけると、彼女は時間が来ました、と答える。
時間……ああそうか。
「ここにいられるタイムリミットですか」
「ええ。私にできるのはここまでのようです」
「いや、いろいろと助かりました。地上に行ったら君を女神として信奉させて頂きます」
「やめてください。女神じゃないです」
苦笑いを浮かべているので、まぁこっちが本気じゃないのに気づいているんだろう。
彼女、人間味がありすぎるからな。信仰の対象というよりは推しにしたい感じがする。
そういえば
「名前も聞いてませんでしたね。というかこっちも名乗ってなかったかな」
人に名前を聞くときはまず自分からって奴だ。
「冬住 尚之。この世界に姓の概念がなければただの尚之です。貴女は?」
彼女は少し寂しそうな顔を浮かべて答える。
「フラウベル、です。もう会うことはないとは思いますが……」
ゆるやかに意識が薄くなっていくことを感じる。眠りにつく直前のそんな感じだ。
おりる瞼の向こう側、彼女、フラウベルは頭を下げ
「あなたのこれからの人生に幸いがありますように──」
途切れる。