9話 試験開始
「これより!第1回魔法兵士隊新兵選抜試験を始める!」
神が高らかに宣言する。訓練棟グラウンドにはオッサンと俺、恐らく隊長か副隊長だと思われる10名ほどがグラウンドのヘリに疎らに立っている。
お前らの国王が宣誓してるのに、集合もしないとは。
あ、声と顔だけ美人のサラ副隊長もいるな。
「受験生、魔法兵士隊見習い候補ミズホ=ワカウチ。前へ。」
「はい。」
オッサンに魔法を教わった後、時間が余ったから、オッサンにいろいろと聞いておいた。
「試験官、王城警備隊副隊長、ライズ=ヘンフ。前へ。」
「はっ!」
真面目そうな人だな。さわやかイケメン!って感じで、肉付きはあまりよろしくない。
本当に副隊長か?強そうに見えん
オッサン以上に強いらしいが、体格はオッサンの方が良いしな。
オッサン、訓練サボってんじゃないか?
「ミズホさんですね?よろしくお願いします。」
「御丁寧にどうも。ミズホ=ワカウチと申します。見たところまだお若いのに副隊長とは、素晴らしい才能をお持ちとお見受けします。どうか、お手柔らかに。」
こう言っておけば手加減してくれるかな?
「ははっ、手加減させていただきますよ?あくまで試験ですので。」
「では、胸を借りるつもりで戦わせていただきます。」
「でも、あっさり負けるつもりはありませんよ。」
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「ミズホ…緊張感持てよ!談笑してる場合か!?」
陛下は勝てると仰り、ミズホも勝てる算段が付いたと言うが、正直不安だ。
魔法をミズホに教えたあと、いろいろと質問してきたが、どう使おうと水と地は戦闘に向かない。
下手に魔法を使うより、そのまま戦うべきなのだが、ミズホは恐らく使うだろう。
それが俺の不安を余計に掻き立てる。
『両者、礼!始め!』
始まってしまった。声くらい掛けてやったら良かったな。
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この人は何がしたいんだ?武器も持たず、構えず、ただ立っているだけ。
礼もした、号令もかかった。普通、もっと気持ちが前に出るはずなんだけど。
「構えないんですか?」
「構えているかも知れませんし、構えていないかも知れません。」
これは、構えていると取っていいのかな?
「じゃあ、遠慮なく。行きますよ!」
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剣の切っ先が全くぶれない、美しい突きが迫って来た。
「っと」
左膝の力を抜いて、上体を左に傾けかわす。
本当に遠慮ないな。頭狙って来やがった。
けど、やっぱり手加減してくれてるみたいだな。そんなに速くない。
けど剣が鬱陶しいな。
もらっておくか。
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かわされた?多少手加減したとは言え、それなりの速さだったのに、まるですり抜けた様にかわされた。
とりあえず小手打ちで様子を見ようか。いや、受験生相手に様子見なんて、副隊長のすることじゃないな。
不可避の速度で、上段から叩き潰す。もとい寸止め。
これなら怪我もさせないし、副隊長にふさわしいかな?
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ライズ副隊長が上段の構えを取る。
お、おいしいな。
待ってましたと言わんばかりに、接近する。
『ふっ』と短く息を吐く音と共に、さっきの突きより、幾ばくか速い袈裟斬りが迫って来る。
息づかいが聞こえるほど近かったら余裕だ。副隊長、手加減しすぎ。
振り下ろされる副隊長の左肘の外側、ファニーボーンって言ったかな?そこに軽く右拳を当てる。
反射運動で左手が開く。後は残った右手を、剣ごと外側に捻れば…
「貰いましたよ。副隊長。」
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何が起きたんだ?左手は痺れ、剣を奪われた。
魔法か?でなければあの速さの袈裟斬りをかわして剣を奪うなんて出来ない。
「魔法…使えるんですか?」
「ん?何がです?」
「僕の剣を奪うのに、魔法使いましたよね?」
「いえ、魔法はまだ使ってませんよ。それよりも副隊長さん、手加減しすぎです。勝たせていただけるのはありがたいのですが、不審がられますよ。」
言うほど手加減なんて出来ていない。さっきの大上段袈裟斬りも、寸止めをしようとは思っていたけど、振り下ろす時は全力だったし、踏み込みも浅くはなかった。
「ははっ。そうですか…」
笑うしかなかった。
でも、剣を奪われたって僕には、拳がある。