8話 試験の前に初体験
昨日は、どうもオッサンの機嫌を損ねたようで、異世界初のメシが、鞄の中に入っていたツナ缶とマヨネーズだけだった。
チョコレートも入っていたんだが、滝壺のせいか、ぐちょぐちょになってしまっていた。代えのパンツがまっ茶っ茶だ。
「オッサン。」
「………」
「おーい。」
「………」
「メシないの?」
「ん………」
喋った!喋ったよ!動くオッサン。キッチンに向かう。
「ほれ。」
手渡されたのは小袋の中には茶色い種。
「なにこれ。」
「麻の種。」
「どうしろと?」
「食え。」
「え?」
「栄養あるぞ。」
知ってるけどさ。行軍向きの保存食だけどさ。
「オッサン、毎日これ食ってんの?」
「もちろん。朝はこれしか食わんぞ。」
「健康的な不健康さだな。」
「やらんぞ?」
「食う。」
空気が重い。緊張で口が乾く。乾いたところに乾燥した麻の種を放り込むもんだから、余計ボソボソする。幼児、老人なら窒息しかねんぞ。
この空気を打破せねば。やっぱり昨日の武器云々のせいだろうな。
謝っとくか
「オッサン。」
「なんだ。」
「昨日はスマン。」
「………」
「せっかくオッサンが奨めてくれた武器、録に話も聞かずに断ったのは悪かった。でもな、」
「わかってる。試験とは言え、実戦だ。命の保証が出来るとは言えない。ましてや副隊長だ。初めての武器を使わせようなんて、俺の思慮が足りなかった。悪かったな。」
両方が頭下げることになるとは。まぁいいか。丸く収まったし。
「それで、もう訓練室行くのか?」
「いや、その前に素質の開花を済ませておく。」
「なんで?」
「適性のある魔法なら直ぐに使えるようになるからな。ミズホの場合、直接、戦いに使えるような魔法じゃないが、注意を反らす位は出来るだろ。」
「ふーん。使えないより使えた方が便利ってだけか。なら、始めてくれ。」
「おう。昨日も言ったように、ちょっと圧迫感があるからな。」
「はいはい。」
「やるぞ。」
オッサンは、そう言うと、俺の胸骨の辺りと臍の下辺りを押さえた。
なんか普通だ。もっと大層な儀式的なものをやるのかと思ってたが、拍子抜けだ。
「圧迫感、来るぞ。」
「お、おう。」
キュン、キュンと来た気がする。
例えるならそうだな、臍の下の方は小便を我慢しようと力を下腹部に込めた感じ。
胸骨の方は、目一杯深呼吸して肺を膨らませた感じ。
やっぱり拍子抜けだ。
「終わりか?」
「おう。痛くなかっただろ?」
「まぁな。それより魔法、もう使えるようになってるんだろ?使い方、教えてくれよ。」
「もちろんだ。とりあえず訓練棟行くぞ。ここで魔法なんか使ったら、部屋が汚れる。」
「おう。」
片付けるのは勘弁だしな。
━━━━━━━━━━━━ 訓練棟グラウンド
「魔法って言うのはな、簡単に言うと想像力の具象化だ。」
「簡単じゃねぇよ。簡単にし過ぎて分かりにくい。」
一言で纏めるな。こっちは概念も何も無いんだぞ?
「そうだな…例えば、俺は火と風に適性がある。これは、火と風を頭で思えば実際に火と風を出すことが出来る。見てろ。」
そう言うとオッサンは、右手の人差し指を立てた。
オッサンの指先には火が灯る。そして左手の人差し指を火に近づけると、火は揺らめき、空気を取り込んでどんどん大きくなっていく。
「で、この火をもっと大きくして、さらに強い風を送って弾けさせると……」
オッサンがグラウンドの中央に膨らませた火を投げ、さらに膨らませると
『ドンッ』
低い破裂音が辺りに響き、地上に花火が上がった。
「…すごっ。…こわっ」
なにこのオッサン。あり得ねぇよ。
「これが火と風の破壊力だ。基本でこの威力だ。魔法兵士隊が欲しがるのもわかるだろ?」
「うん。十分過ぎるくらいに分かった。」
基本でこれかよ。
「さっきも言ったように、要は想像力だ。明確に頭に浮かべた物を出す。明確に頭に浮かべた様に操る。それが魔法だ。考え、学習し、応用する事の出来る、人間だけの技だ。」
じゃあなんで
「なんで適性なんてもんがあるんだ?頭に浮かべた物を出すだけなら、適性なんて関係無くないか?」
「明確にってのが重要なんだ。適性ってのは、その人が生まれ持って想像しやすい物、って言えばいいか。だがな、」
オッサンが言葉を一旦切り、手を広げると、オッサンの手のひらから、おびただしい量の水が溢れてきた。
「適性が無い魔法でも明確な想像さえ出来れば具象化出来る。だがな、適性が無いからこれ以上の水の想像は難しい。水に関すれば、これが俺の限界だ。」
想像さえしっかり出来れば適性の無い魔法でも使える。けど適性のあるヤツよりは使えないってことか?
「つまり俺でも火と風が使える、と?」
「そうなるな。だがな、恐らく使えるようになったとしても基本が出来るくらいだし、さっき俺が出した火と風の複合はかなり難しいだろうな。」
オッサンは続ける。話長っ。まぁ聞いたのは俺なんだが。
「適性無しの魔法を練習するよりも、適性有りの魔法を練習するほうがより早く強くなる。ミズホも今は火と風の事は忘れろ。その内俺が教えてやるから。それよりも水と地だ。」
「おう。イメージ…想像すればいいんだな?」
「そうだ。想像した物が明確なら、直ぐに出てくる。」
何をイメージしようか…。漠然と水って言われてもな。分からん。雨、川、海、雪、雪?雪って水か?違うよな。井戸、水道、湧き水。温泉、噴水、水溜まり。違うよなぁ。
間欠泉、滝、消防車。
ん?滝?滝か。滝だな。滝に落とされたからこっちに来たわけだしな。良いかも。
出ろ!
「出た!」
あっさり出たな。こんなもんなのか?
「なぁオッサン。こんなに簡単で良いのか?あっさりオッサンが出した量くらい出たぞ。」
「出せて当たり前だ。ミズホは適性有りなんだからな。それに、この世の人間の恐らく全員がなんらかの魔法が使えるんだ。難しい訳が無いだろ。それに、火や風と違って、水と地は触る事が出来るんだ。想像もしやすいし、適性持ちも多いんだぞ。」
「ふーん。じゃあオッサン。地の魔法見せて。」
「おう。」
オッサンは膝を着いてグラウンドに手を当てた。
オッサンの手の周辺の土がみるみる崩れて砂になっていく。
「俺は水以上に地が苦手でな、触っていないと想像出来ないんだ。だからこれくらいが限界だ。」
オッサンの手があった場所には、20センチ弱程の蟻地獄が出来ていた。
「オッサン。これ、凄いな。」
「気を遣っているのか?そんなもんはいらんぞ?俺には火と風があるからな。」
「違う違う。俺が気遣いなんてするかよ。普通に使える魔法じゃないか。」
オッサンの蟻地獄をイメージして、手をグラウンドに着ける。
「とうっ!」
ベコッとグラウンドがへこむ。オッサンの2倍位の蟻地獄が出来上がった。
「オッサン。」
「なんだ。」
「ありがとうな。俺、余裕で勝てるかも知れん。」
だって、水と地。案外使えそうだもん。