3話 いろいろと残念です…
オッサンが謁見云々を切り出してから、2時間程で都合がついたみたいだ。曰く、
『今回は、やけに早い。いつもは段取りだけで丸一日かかったりするのにな。』
だそうだ。
オッサンが思っていたより早く事が進んだため、今俺達と言うか、馬車馬は全速力で走る羽目になっている。
「おい、オッサン。」
「なんだ。腹でも減ったか?」
「ケツが痛い。穴が空きそうだ。」
現代のアスファルトやコンクリートのような均された道ではなく、ただ畦道を圧し固めて整備しただけのようで、しょっちゅう小石やら轍やらを踏んで、かなり揺れる。
「こればっかりは慣れだからな。俺にはどうにもできん。座って痛いんなら、立ってたらどうだ?」
俺が困るのはそんなに楽しいか?ニヤつきやがって気持ち悪い。
だが痛い。擦りきれそうだ。
「仕方ない、立つか。」
「おい。」
「なんだ、オッサン。」
「なんで普通に立っていられるんだよ。」
「立てば良いって言ったのはオッサンだろ?」
「いやな、不規則に揺れる馬車の中で立ち続けようにも、普通の奴なら直ぐにしりもちつくぞ。そこを笑ってやろうと思ったのに、計画が台無しじゃないか。」
最低だ。けど、立てないことも無いだろ?
「オッサン、立ってみろよ。」
「おう。」
オッサンのしりもち見て、多いに笑ってやるよ。
「転べよオッサン!」
「俺はこう見えて普通じゃないからな。しりもちなんざつかねぇよ。」
普通じゃない?まぁガタイは良いし、力も強かったな。と言うか、普通じゃないオッサンと一緒に立ってる俺も普通じゃないのか?
「俺は普通だぞ?」
「揺れるぞ。」
お?
後ろに顔を出し、地面を見てみる。どうやら畦道から石畳になったみたいだな。
「馬車はここまでだ。後は城まで歩くぞ。」
「なんで城まで馬車で行かないんだ?そっちのが速いだろ。」
「馬の足に石畳は良くないんだよ。行くぞ。城は目と鼻の先だ。」
そう言ってオッサンは、指を指す。
「近いな!。」
ホントに近い。300メートルくらいか?石畳はかなり狭い範囲で敷かれているんだな。
「おい、行くぞ。」
宿舎の時よろしく、また一人でツカツカ歩いていく。自分勝手な中年め。
「一人で行くな!」
━━━━━━━━━━━━さて、今場内の中央、玉座の間の前にいるんだが、城の作りが余りにも単純過ぎる。玉座の間まで、最初に門を2つくぐって、あとは直線とかダメだろ。オッサンの住んでる宿舎の方が、まだ複雑だったぞ
石畳からの城の距離といい、攻め込まれたらどうするんだろう。
「パック=フレアバードだ。謁見の準備は終わっているか?」
オッサンの分際で偉そうに
「滞りなく。」
「ご苦労。中には陛下だけか?」
「はい。陛下の命でして、警護の兵士も閉め出されてしまいました。」
今は部屋に国王一人だけってか?どうなってんだこの国。
「おい、ミズホ。」
「なんだオッサン。」
「国王と謁見するんだ。くれぐれも、くれぐれも無礼な態度は取るなよ。」
「分かってるって。国王相手にバカやるほど愚かしくないぞ。」
「じゃあ入るぞ。」
そう言って呼吸を整えるオッサン。緊張してんのか?
「魔道兵士隊総隊長パック=フレアバードです。お告げの人物、ミズホ=ワカウチを連れて参りました。拝謁願います。」
『入れ』
「はっ。」
オッサンが扉を開き堂々とした振る舞いで部屋に入り、跪く。俺もそのまま真似して跪いて見る。
『パック隊長、ご苦労。もう下がっても良いぞ。』
「はっ。」
あぁ、あぁ、出てっちゃった。普通、国王と二人きりにするか?
『ミズホ=ワカウチ』
「はっ。」
オッサンの真似して言ってみた。
『近くに』
「はっ。」
顔は上げない方が良いと思って、中腰の変な格好で移動する羽目に。恥ずかしいぞ。
「ミズホ=ワカウチ」
「はっ。」
「顔を」
「はっ。」
どう上げるべきか分からず、カクカクとした動きになってしまった。
「久しぶり。つってもそんなに時間経ってないな。8時間くらいか?」
「は?」
「なんだよ、もう忘れたのか?神ぞ?俺は神ぞ?」
良く良く見ると、そこには確かにマフィアな神が立っていた。
白スーツは着てなかったが