2話 決して変人ではありません
「おい!」
なんだよ、あの自称神様。タチ悪すぎだろ。
「おいってば!」
世界平和とかスケールデカ過ぎだよなぁ
「誰か!医者を呼んで来てくれ!」
にしても良くできた夢だったな。
「おい!しっかりしろ!医者呼んで貰ったからな!絶対助かるからな!」
滝壺に落ちて、死んで、マフィアな神に会って、死んでないって言われて、世界を平和にしてくれるなら生かせてやるって言われて、えっさっさーいって飛ばされて
「医者はまだかよ!」
あら?おかしいな。
滝壺は事実だな、うん。死んだ?うん。マフィアな神にあった。これは夢だな。 うん、おかしいな。死んでも夢って見るのか?
「医者ぁ!」
にしもうるさいな。静かに死なせてくれ…
「違う!死んでない!俺死んでない!マジかよ!夢じゃないのかよ!」
「生きてた!おーい生きてたぞ!」
「うるさい!黙れ!」
考えが纏まらないだろうが。なんだよこのオッサンは
「なっ…黙れとはなんだ!黙れとは!」
あら?
「ちょうど良いところにオッサンが!聞きたい事があるんだ!神はどこだ!」
「………は?」
「神はどこだって聞いてんの!」
「おーい早く医者連れて来てくれ。アタマ打ったみたいだ。」
「俺は正常だ!頭なんて打って…無くもないと思うが至って正常だ!」
バカにすんなよな。
「どうどう。落ち着け。な?すぐに医者が来るから、な?みんな見てるし、な?」
クソっ。バカにしやがって。けど、確かに周りが騒がしい。オッサンと俺の二人きりって訳じゃなさそうだな。一体なんなんだよ。祭りか?
「っと失礼。取り乱してしまいました。2、3聞きたい事があるのですが。」
こう聞いておけばおかしいヤツには思われないだろう。
「いきなりなんだ?変なヤツだな。気持ち悪い。」
「気持ち悪いとはなんだよ!せっかく丁寧に喋ってやってんのに!人間関係は最初の会話が大事なんだぞ!」
「それより前に、バッチリ会話したじゃねぇか。最悪な形でよ。」
そうだった。うるさい!とか言っちゃった。
「ならいいや。普通に喋る。とりあえずオッサン。今、どういう状況だ?」
「ああ?まぁ待て。医者が来たみたいだ。とりあえず診てもらえ。それからだ。」
オッサンの視線の先を追うと、白衣っぽい服を着た老人が居心地悪そうに立っていた。
「だから、俺は正常だって。」
「いいから診てもらえって。」
そう言って、オッサンは俺の肩を押さえつけ、無理矢理寝転ばせた。なかなか力がある。
寝転ばされた俺に対して、医者がもぞもぞと触診する。腹部、胸部、頭部、と順に押さえている。
「大きい傷も内出血もありませんし、問題ないと思いますよ。ただ…」
ただ…ってなんだよ。気になるじゃないか。
「ただ…、ってなんだよ。気になるじゃねぇか」
オッサンが代弁してくれた。やるじゃないか。
「珍しい服と武器だな、と思いまして…」
あン?あぁ、確かにスローイングダガーとアーミーナイフを携行してるヤツは珍しいわな。そっか、ベルトに提げたままだったか。
「言われて見れば珍しいな。ゴッツイ短剣にちゃっちい短剣、それに固い生地のズボンと不自然に真っ黒い…これはチュニックか?。靴もやけにゴツいし、底に針まで付いてる。たぶん背負ってたカバンにも何かあるだろうな。やっぱり変なヤツだな、コイツは。」
オッサンが考え込み、押さえつけていた腕が外れた。
「珍しくもないだろ?確かにナイフは珍しいかも知れないけど、服は普通だぞ?ジーパンにTシャツと登山靴。」
「何を言っているんだお前は。登山靴以外、全く理解できん。なぁ医者。ジーパンってなんだ?Tシャツってなんだ?」
「さぁ?私にも分かりませんよ。どこか遠い街なり国の服なのでは?」
「そうなのか?」
俺にフるなよ。
「いや、オッサンらが何で知らないのかが分からんよ。まさか先住民!…ではないな。ちゃんとした医者いるし。」
「俺の方が全くわからん。なんなんだお前は。どっから来た。」
「日本」
「なぁ医者。大丈夫なのか?こいつ。」
「ええ。頭部にはコブ一つ見当たりませんでしたよ。」
二人してまた変人扱いしやがる。バカにすんなよな。
「オッサン!」
「なんだ?」
「さっきも言ったけど聞きたいことがあるんだ。俺の疑問に全部答えてくれ。まずは…」
「まぁ待てって。ここじゃ落ち着かん。周り見てみろ。」
さっきよりも視線が痛い。騒ぎを聞き付けた野次馬が集まって来たって所か?
「な?とりあえず宿舎に来い。話はそこで聞いてやる。」
━━━━━━━━━━━━
オッサンが言う宿舎に向かう道すがら、簡単に状況を知ることが出来た。
と言っても、オッサンが一人で喋ってただけだが。 曰く、俺はどうも川から流れて来たらしい。カバンが不自然に浮いてるところを見た人がオッサンに言いに行ったらしい。
それで引き上げたら俺がくっ付いてた、と。俺は桃太郎かよ。
けどペットボトルをカバンに入れといて良かった。あれがなかったら発見されずに溺死してたな。滝壺では役に立たなかったみたいだけどな。
「おい、着いたぞ。部屋に行くぞ。早く付いてこい。」
なんか宿舎って言うより校舎だな。大学みたいだ。
「待てよ、オッサン。先に行ったらわかんねぇよ。」
「ここだ。」
オッサンの部屋は最上階4階の東奥にあった。
「まぁ入れ。」
促され入る。土間がないみたいだ。オッサンを見ると土足で普通に入って行ってる。オッサンに倣い土足で入る。
「で、だ。」
オッサンが椅子に座り、テーブルに肘を乗せてこっちを見ながら言ってきた。座れって事か?
とりあえずオッサンの正面に座る。
「質問。あるんだろ?」
「ん?ああ。あるぞ。まずは、そうだな…。ここはどこだ?」
「ランシア国のランシアの町だ。平たく言えば城下町だな。なんだ?ランシアを知らんのか?」
「知らんのか?って聞かれてもな、聞いたことすらないぞ?」
「……まぁいい。他は?」
言っていいものだろうか
「なぁ、オッサン。」
こうなったらダメもとだ
「質問では無いんだがな、俺が違う世界から来たって言ったら、信じるか?」
「は?なんて言った?」
やっぱ、信じないよな。
「いや、いいや。忘れてくれ。」
「いいから!なんて言った!?」
なんだよオッサン。えらい前のめりだな。
「どうせ信じてないんだろ?」
「いいから!」
なんだよ。
「違う世界から来たって言ったんだよ。何でそんなに食ってかかるんだよ。信じてないくせに。」
「いや、信じる。思い返せば聞いた特徴に合致しているしな。」
は?
「まさか本当に呼ばれる人がいるなんてな。」
なに言ってんだ、オッサン
「おいオッサン。」
「あ、そうだ。ちょっと来い。会わせたい方がいる。」
「なぁオッサン!」
「なんだ?」
「なんでこんな突拍子も無い話を信じるんだよ。頭おかしいのか?」
「酷い言い種だな。これから会わせたい人から、お前の事を聞いてたんだよ。『神からのお告げだ。異世界の男を平和の使者として呼び入れた。おかしな武器と変な服を来てるからすぐに分かる。発見次第、連れてこい。』ってな。」
神って言うと、あのマフィアか?そんな回りくどい事せずに、直接送ってくれれば良いのに。
「といわけだ。ついて来い。」
「拒否権は?」
「無いこともないが、拒否してもお前に良いこと無いだろ?」
うん。確かに無いかもな。見知らぬ土地、文化、何の後ろ楯も無く一人で生きるのは苦労するからな。多少なりとも人脈作っておかないと。
「それもそうだな。で、どこに連れていってくれるんだ?」
「お前、遊びだと思ってるだろ?俺にとっちゃ仕事なんだぞ?それをお前は…。」
「ん?どうした?」
「お前の名前。今思うと聞いてなかったな。一応俺が謁見させる訳だし、名前知らない訳にもいかんだろ?ほら、言えよ。」
唐突だな、オイ。しかし謁見って。貴族とか有力者か?これは美味しいぞ。
「若内 瑞穂だ。」
「ワカウチ ミズホ?変な名前だな。」
「オッサンは?」
「あん?」
「名前!」
「あぁ名前ね。そういや俺も名乗ってなかったな。パック=フレアバードだ。」
英名チックだな。
「なぁ、オッサン。ファミリーネーム…家の名前はどっちだ?」
「名前教えたんだから名前で呼べよ。家の名前って言うとフレアバードだな。なんだ、そんなことも知らんのか?」
「うるさいな。俺の居た世界の、俺の居た国は勝手が違うんだよ。家の名前、個人の名前って順番なんだよ。」
「じゃあミズホ ワカウチか?」
「そうなるな。」
「よし、ミズホ ワカウチ!」
「瑞穂で良いぞ。」
「なら、ミズホ!」
「おう。」
「これより、王宮に向かい、国王陛下と謁見をしていただく。寛大なお方ではあるが、くれぐれも無礼の無いように!あと、なぜ名前で呼ばん。」
「ある程度高貴な人と予想してたが…限度があるだろうが!」
名前では呼んでやらない。パックとか、オッサンには似合わん。ずっとオッサンはオッサンだ。あと、なんでちょっと可愛い名前なんだよ。気持ち悪い。