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手紙

西村 貴子様


 初めてのお手紙を書きます。

今日、みんなで集まり作戦会議をしました。集まったメンバーは


 小林 博幸

 太田 秀樹

 小川 武


 太田は一番背の高い奴です。身長は百七十センチもあります。まだ五年生なのに学校で一番大きいです。ケンカも強いです。

 小川はオレたちひょうきん族みたいなやつです。いつも面白いことばっかり言おうとしています。


 今度、治郎を見つけるために高槻南高校に潜入します。太田が高校生に変装します。新しいことが分かったらまた手紙を書きます。


小林 博幸




 作戦会議があった晩に、僕は貴子お姉さんに手紙を書いた。手紙を書くのは難しくて、何度も書き直した。夜の九時になってから、僕は窓を開けてお姉さんの部屋の窓を見た。ギリギリ手が届かないので、部屋にあったプラスチックの刀で二回ノックしてみた。しばらくすると、貴子お姉さんが部屋の窓を開けてくれた。僕は書いた手紙を手にもってヒラヒラとさせると、お姉さんはニッコリと笑ってくれる。僕が手を伸ばして手紙を渡そうとすると、お姉さんも手を伸ばしてくれて、なんとか届いた。手紙を受け取ると、お姉さんは小さな声で「ありがとう」と言ってくれた。すごく嬉しい。僕は、名残惜しい気持ちでいっぱいだったけど、お互い手を振って窓を閉めた。


 次の日、夜九時になるとお姉さんの方からノックがあった。僕は心をワクワクさせながら窓を開けた。なんだか胸の奥のほうが、ツンと締め付けられる。貴子お姉さんは右手を手刀のようにして顔のところに持ってくると申し訳なさそうにして頭を下げる。僕はそれを見て、右手を顔のとことに持ってくると左右に振って「全然大丈夫」というジェスチャーを送る。貴子お姉さんは手紙を親指と人差し指ではさみ僕の方に向かって手を伸ばす。僕も手を伸ばして、その手紙を受け取る。お姉さんと手紙を通じて繋がったとき、僕の胸はまたキュッと締め付けられた。僕はお姉さんを見つめる。このまま時間が永遠に止まってほしい。僕は本当にそんな気持ちになる。そんな僕の気持ちを知らないお姉さんは、小さく手を振って部屋の窓を閉めた。僕は閉められたその窓をしばらく見つめていた。




小林 博幸様


 今まで近所で挨拶をするくらいの仲だったのに、ヒロ君に目撃されてから毎日なにかしら会っているね。私がお願いしたことなんだけど、こんなにも一生懸命動いてくれて、本当に感謝しています。潜入捜査なんて、まるで少年探偵団みたいね。でも、無理はしないでね。


 私の方からのお願いばっかりで申し訳ないので、私のことについても少し説明します。ヒロ君の捜索の何かしらの助けになればいいなと思います。でも、このことは誰にも言ってほしくないの。ただ、太田君と小川君にはちょっとだけ話してもいいけど、この手紙は見せないで欲しい。約束よ。


 おかしなことの始まりは、五月の終わりくらいに、家の前に停めていた自転車のキーホルダーが無くなったことからなの。家の前だから安心していた私が悪いのだけれど、鍵をつけっぱなしにしていたの。初めは、どこかに落としたんだろうと思っていたんだけど、六月に入ってから、家に無言の電話が何回かかかってくるようになったの。お母さんが出たときは直ぐに切れるのに、私が出たら無言のまま電話が切れないの。そんな電話を二回取った時から、私、気味が悪くなってしまって、家の電話にはもう出ないようになったの。


 学校でもおかしなことがあって、私の体操服が盗まれたの。それが六月の終わりごろ。確証はないんだけれど、たぶんクラブの練習中に更衣室で盗まれたと思うの。練習は専用のウエアを着ているから全然分からなくて、家に帰ってから気が付いたの。次の日に先生に相談はしたけれど、今のところ進展はないわ。もしかすると、誰かからのいじめかもしれないけれど。


 最近の出来事は、七月三日金曜日のあの出来事。ヒロ君が目撃してくれたから、今のところ、それが唯一の手がかりなの。あの時は、犯人が分かるかもと思って、ヒロ君に協力してほしいって言ってしまって、今では本当に申し訳ないと思っています。でも、私の想像以上に、ヒロ君が活躍してくれているから、とっても嬉しいの。私、お姉さんなのに、本当にごめんね。


西村 貴子

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