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本読みクラブ  ー怪人二十面相が好きだった僕らの時代ー  作者: だるっぱ
ファイル3ー本荘先生
37/49

勝つために

♪キーンコーンカーンコーン

 

「起立」


 日直の加藤裕子が、凛とした声で叫んだ。それに合わせて、僕たちは立ち上がる。


「礼」


 本荘先生は、僕たちを見てほほ笑む。


「さようなら」


 学校が終わり、ランドセルを背負って皆が帰っていく中、本荘先生は太田を呼んだ。僕も小川も、その様子を教室の隅で遠巻きに見ている。


「太田君、落ち着いたかしら」


 太田は、そっぽを向いて黙っている。本荘先生は、そんな太田をじっと見て話しだす。


「矢沢先生の暴力もいけないけれど、太田君も反省すべきところは反省しなくちゃね」


 先生は太田の顔を覗き込む。太田は、拗ねているのか、更に横を向いた。そんな太田に、先生が一つの提案を持ちかける。


「やられっ放しも悔しいから、今度の運動会で、頑張っちゃおうか」


 本荘先生の、そんな言葉に太田が振り向く。すると、先生は右手を斜め上にあげて、上を向く。


「宣誓、我々はスポーツマンシップにのっとり、正々堂々と戦うことを、誓います。なんてね」


 そう言って、顔を赤くした本荘先生は、恥ずかしそうな仕草を見せて、太田を見る。


「明日、ホームルームで騎馬戦の組み合わせを決めるから、みんなで話し合いましょう。太田君、協力してね」


 そんな本荘先生の言葉に、太田は少し考えた後、


「分かった」


と、言った。本荘先生は、そんな太田に微笑んだ後、遠巻きに見ていた僕たちにも笑顔を見せて、教室を出ていった。僕と小川は太田のところに駆け寄る。


「今日は、大変やったな」


「あ、あ」


 本荘先生が出ていった教室の入り口を見つめて、太田は、考え事をしているのか、気のない返事をする。


「どうしたんや」


 小川が、そんな太田に声をかける。太田は、ゆっくりと小川の顔を見る。


「ちょっと、今から秘密基地に行こうか」


 そう言うと、太田は難しそうな顔をしてカバンを肩にかけると、一人で歩き出す。僕と小川は、顔を見合わせる。


「ほんまに、どうしたんやろ」


 僕もそう言って、二人で太田を追いかけた。学校の正門を出たところで、やっと太田が口を開く。


「なあ、林間学校で本荘先生が包帯を巻いていたって言ってたよな」


「ああ、そうやな」


 小川が返事をする。


「夜中のキャンプ場で、誰か、おったよな。そいつ、矢沢ちゃうか」


「えっ!」


 僕と小川は、歩きながら大きな声を上げてしまう。太田は、畳みかけるように、自分の考えを口に出す。


「だって、そうやろ、あんな暴力教師やで、そうに決まってる。あの時は、本荘先生は襲われそうになったんや」


「でも、、、」


 太田の気持ちは分からなくもないが、ちょっと無理があるんじゃないのかなと思い、僕は疑問の言葉を言いかけたが、口ごもってしまう。太田は、さらに続ける。


「俺たちに気が付いたから、矢沢はその場から逃げた。本荘先生が俺たちを見つけた時、怒らんと、優しかったやろ。あれは、俺たちがやってきたお陰で、助かったからや」


 小川が、口を開く。


「なるほど。理屈は通っている。太田らしくないけど」


「うるさいな。俺も怪人二十面相を読んでるねん。少年探偵団やしな」


「まだ、それを言う」


 小川は、そう言って、クスクスと笑う。話し込んでいたら、いつの間にか、僕たちは秘密基地のバスに到着した。バスに乗り込むと、それぞれの指定席に座る。太田は、また、僕たちに話しかける。


「今日、本荘先生が、やられっ放しじゃ悔しいやろって言ったやろ」


 太田は、ひと呼吸おく。


「復讐や。やっつけろっていう意味や。本荘先生の為に、俺たちは騎馬戦で矢沢の四組に、絶対に勝たなあかん。そういうことや」


 太田の気迫に何も言えなかったが、ちょっと暴走気味に感じた。でも、騎馬戦で勝ちにいくことは変わらないので、口を開くのはやめた。それよりも、僕なりに話をしたいことがあったので、話題を変えることにした。


「よし、騎馬戦、頑張ろうか」


 僕の言葉に、太田が頷く。僕は、更に続ける。


「ところで、今度、伊藤の誕生日が来るねんけど、また、プレゼントをしたいねんけど」


 太田が、僕を見る。


「そうやな、また、本をプレゼントしようや。みんな百円づつだしたら、ええんやろ」


 太田は、なんだかんだ言って、伊藤には優しい。無茶ぶりも凄いけど、根は面倒見が良いのだ。


「あいつの誕生日って、いつやった」


「十月一日や」


「じゃ、加藤にも声をかけて、段取りを進めといてや」


 僕は、太田の言葉に頷く。今度は、小川が口を開く。


「話を戻すけどな、絶対勝利を目指すんやったら、太田が入る馬は最強のメンバーで揃えんとな」


 太田が、あごに手を付けて考える。


「そうやな、小川は一緒にいて欲しいし、小林はちっこいから俺たちの馬に乗るとして、あと一人やな」


 太田の言葉に、小川が意見を述べる。


「体格的に、大きないと釣り合わへんから、高橋に頼むか」


「そうやな、ガリ勉でケンカが出来ん奴やけど、体はデカい方やしな、そうするか」


 太田は、そう言うと、本読みクラブのメンバーで固められた騎馬を想像して、上を向く。暫くそうしていて、また太田は口を開く。


「でも、俺たちの馬だけが強くても、三組として勝てないと意味ないからな。騎馬戦って、どんなルールや」


 僕は、太田に説明する。


「男女別で競技は行われる。クラス対抗で、全員が参加や。一クラスから馬が六頭出来るから、全部で三十の馬が運動場で一斉に戦うみたいやな」


 太田は、また考える。


「勝つだけを考えたら、他のクラスが潰しあってくれたら楽やけど、そう簡単にはいかんな」


 太田の話に、小川が興味を示す。


「こんなんどうや。攻撃型の馬を二頭と戦わない馬を四頭に分ける。四頭を守るようにして、二頭の馬が周りに目を光らせる。もちろん、こちらから潰しにも行くこともある。でも、四頭の馬を守ることが最優先」


 僕も、頭をひねる。


「強い馬がいるっていうことは、それだけで強みや。太田の馬は、みんなが怖がって近づこうとしないかもしれないから、威嚇するだけでも効果はある。面白いかもしれんで」


 太田は、僕たちの話を聞いて、口を開く。


「それでいこうか。明日のホームルームで、その作戦も説明して、馬を決める。本荘先生を、一番にするんや」


 次の日のホームルームは、太田の独壇場だった。クラスの皆に、絶対勝利を呼びかけ、馬の組み合わせだけでなく、勝つための作戦まで説明する熱の入れようだった。本荘先生は、太田の熱を帯びた話が脱線するたびに調整に努めていたが、概ね子供たちの決定を尊重していた。太田は、ホームルームが終わると、びっしょりと汗をかいていたが、清々しそうな瞳が印象的だった。

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