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本読みクラブ  ー怪人二十面相が好きだった僕らの時代ー  作者: だるっぱ
ファイル3ー本荘先生
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結成式

「おーい、高橋。それから、加藤と坂口も、行くで」


 太田は、教室でランドセルを背負おうとしている高橋哲也と、百合コンビの加藤裕子と坂口直美に呼びかけた。何だか、僕の知らないところで、話が進んでいるようだ。


「私は、直美に付いていくだけ。本は読まないよ」


 加藤裕子は、僕と太田の所に近づいて来ると、そう言った。そんな加藤に、小川も近づいて来て声をかける。


「本は、別に読まなくてもいいよ。肝試し仲間っていう事で」


「何、それ」


 ツンとした態度で横目に小川を睨むと、加藤はそう言った。すると、小川は加藤の前で身をクネクネと捩らせる。


「キャー怖い。私、帰る。帰る」


 そんな小川の背中を、怒った加藤はゲンコツ叩く。


「馬鹿」


 そんな二人のやり取りを見て、僕がクスクス笑っていると、太田が「さあ、行くぞ」と言って、先に歩き出した。それを合図に、僕たちもゾロゾロと、太田の後から付いていく。僕は、この集団の陣容を確認した。


太田 秀樹

小川 武

伊藤 学

高橋 哲也

加藤 裕子

坂口 直美


 僕を入れると全部で七人もいる。何だこれ。僕の横に高橋君がやって来た。


「小林君、これからよろしく。僕も本読みクラブに入るよ」


「ああ、よろしく」


 僕は、今一つ飲み込めていない。夏休みの間に、何があったんだ。


「高橋君は、本読みクラブのこと太田から聞いたの」


「いや、坂口から」


「えっ、坂口さんから。どうして」


 僕は、ちょっとビックリする。


「通っている塾が一緒なんだ。そこで、お祭りでの話を聞いたんだ」


「あー、そうなんだ」


 二人の人間関係については分かった。高橋君はとても勉強が出来る奴だ。坂口さんも勉強が出来る。ただ、どんな風に聞いたんだろう。


「坂口さんから、本読みクラブのどんな話を聞いたの」


「お祭りに怪人二十面相を名乗る男が現れたんだろう。その謎の解明に、本読みクラブが立ち向かったって聞いているけど」


「あー、なるほど」


 僕は、納得したような返事をしつつも、 誤解とは言えないが、ちょっと拡大解釈な気がする。原因はたぶん太田だろう。太田が皆に、どんな風に説明をしているのかが、すこし気になった。ちょっと心配だ。


「でさ、僕も怪人二十面相の本を貸してほしいんだ」


「いいよ、明日、学校に持っていく」


「太田がさ、そのバイブルを読まないと、クラブに入る資格がないって言うんだよ」


 そう言って、高橋君は僕に笑った。ますます、僕は心配になってきた。太田の奴、暴走しないでくれよ。高橋君と話し込んでいるうちに、僕たちは社宅前の破れた有刺鉄線のところまでやって来た。


「これから、あの光の所に行くんでしょ」


 加藤裕子が、太田を見てそう言った。


「そうや、俺たちはあの光の正体を暴こうとしたら、あの部屋で怪人二十面相に出会ったんや」


「あの、端っこの部屋よね」


 坂口直美が、あの日の夜を思い出したのか、加藤裕子に寄り添って部屋を指さす。加藤はそんな坂口の手を握ると、当時の様子を語り始める。


「そうそう、肝試しが終わったー、と思ったら、あの部屋に火の玉みたいな光が浮かび上がるのよ。誰でもビックリするわよ」


 そう言って、皆を見回すと、太田や小川、僕に指を向ける。


「逃げたのは私だけじゃないからね。みんなも逃げたんだからね」


 加藤裕子は、恥ずかしさを隠すようにして、そう言った。そんな加藤に、太田は余裕を見せて語り掛ける。


「確かに、あの時は、俺も怖かった。けどな、その後で、あの光の正体を、俺たち本読みクラブで確認に行ったんや」


 太田は腕を組んで胸を張る。そんな太田に小川が問いかける。


「太田は、あの時、手にバットを持ってなかったか」


「そりゃ、戦いになるかもしれんからな。武器は必要や」


 そんな話をしていると、ジョージがいた部屋の前まで、やってきた。


「みんなが居てくれるから、良いけど。ちょっと、不気味ね」


 加藤裕子は、部屋の前のガラクタが散乱した様子を見て、そう呟く。そんな中、太田はズンズンと歩いていき、扉が空いたままの玄関から、部屋の中に入っていく。僕たちも、その後に続いていく。


「この部屋にな、死にかけていた怪人二十面相がいたんや。俺たちがその命を助けたってん」


 太田は、ジョージが倒れていた部屋を指さすと、自慢気にそう語った。加藤裕子が、そんな太田に確認するように話しかける。


「怪人二十面相って、お祭りでの、あの絵描きさんでしょ。ヤクザから大金を盗んだ泥棒だったって、本当なの」


「そうや、なあ、小林」


「ああ、そうやな」


 太田が僕に振ってきたので、話に合わせて僕は返事をした。だけど、太田、話を少し盛ってないか。太田は更に話を続ける。


「祭りで言ってたで、怪人二十面相は絵を描くことで人間を操ることが出来るんや。ヤクザから百万円もだまし取ったんやで」


 僕は、祭り当時の、ジョージのことを思い出す。確かに、そんな様なことは言っていた。僕はジョージの真相を知っているけれど、今は、とてもそんな話を説明するような空気ではなかったので、黙っていることにした。


「もう、出ようよ」


 坂口直美が、不気味な部屋にいることが我慢できなくなって、そう言った。


「そうやな、今度は裏の秘密基地に行こうか」


 太田は、部屋を後にして玄関から出ていく、皆は慌てたように、その太田の後を追いかけていく。確かに気味が悪いもんな、この部屋は。でも、僕はジョージがいた部屋に一人と取り残されると、なんだか名残惜しい気がして留まった。僕はジョージがいた部屋を見回してみる。あの時は気が付かなかったけれど、部屋の中には、クロッキー帳や鉛筆、鉛筆を削るためのナイフ、また、後から購入したのであろう、油絵に関する道具らしきものが散乱していた。貴子お姉さんの肖像画の一件では、ジョージとお姉さんの関係性ばかりに気を取られていたけれど、あの時のジョージは、絵に対してだけは本当に真剣だったのかもしれない。そんな風に感じると、この部屋から、ジョージの無念さを感じた。


「何してるねん、早く来いよ。部長」


 僕が少し遅れてバスに到着すると、中から、太田が僕を呼びつける。バスの中に入ると、皆はそれぞれの椅子に座って寛いでいた。皆の視線が僕に集中している。部長ってなんだ。


「えー、では、只今より、本読みクラブの結成式を行います」


 小川が立ち上がると、かしこまって、そう言った。僕は、皆の流れに全然付いていけていない。結成式って、どういうこと。


「小林部長から始まった、この本読みクラブは、今まで非公式に活動を行っておりましたが、今日、正式にクラブとして活動を始めたいと思います」


 僕は、いきなりの展開にかなり驚く。


「えっ、僕、聞いてないんだけど」


 自分を指さして、一人呆けていると、太田が近づいてきた。僕の首に腕を巻き付けると、僕の耳元に囁いた。ちょっと体重が重い。


「良いんだよ、俺に任せておけって。面白いやないか、本読みクラブ。謎を解明するクラブの結成や」


 僕は、首をねじって、太田を見る。


「ここにいる皆って、そのつもりで来ていたの」


 太田は、ニンマリと笑う。


「そうやで」


 僕と太田のやり取りを見ていた坂口直美が、口を開く。


「私は、小林君たちから本を借りたいだけよ。ちょっと面白そうだし。本当言うと、本読みクラブは、どっちでもいいの。太田君たちの、おふざけに付き合っているだけよ」


 今度は、高橋君が口を開く。


「部長は小林君だけど、真の部長が中学生のお姉さんだって、本当?」


 僕は驚いて、また太田を見る。太田は、そんな僕の視線を無視して、高橋に話しかける。


「本当や、貴子さんていうねんけどな、ほら、そこに怪人二十面相が描き残した絵があるやろ。それ、貴子さんやねん。祭りでの二人の対決は、凄かったんやで。いま思い出しても、痺れるわ」


 太田が遠い目をして、そう語る。加藤裕子が、そんな太田の話に乗ってくる。


「私たちも、絵を描いてもらったんだよ」


 そう言って、加藤は坂口の手を取る。高橋がそんな二人を見て言う。


「伊藤君のカメラ屋に飾ってある絵のことやんな。見た、見た。お前たちって、そういう関係なの」


 加藤裕子は高橋の言葉に、少し顔を赤らめる。坂口直美は高橋を見ると、


「裕子は、私の嫁だから」


 と言った。僕たちは、驚いて二人を見る。そんな僕たちを、坂口は反対に面白そうに眺め返す。どこまで信用したらいいんだ、坂口。底が知れない奴だ。


 夏休みが終わったかと思うと、急に、僕の身辺が忙しくなり始めた。本読みクラブのメンバーが七人になり、いつも間にやら、僕が部長ということになってしまった。それというのも、全ての原因は、太田なんだが、悪い気はしない。僕が舞い上がっているとか、そういう意味ではなくて、バスの中で皆が楽しそうな様子を見ていると、友達って、ありがたいなそって、僕はそう感じたんだ。

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