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夏休み

♪キーンコーンカーンコーン


 チャイムの音が鳴り響くと、教室の中は急に色めき立った。生徒たちの興奮度がいつもと違う。そう、明日から夏休みだ。ランドセルを背負って帰ろうとする生徒を、教室の出入り口で身長が百七十センチもある太田が仁王立ちになって塞いでいだ。


「みんな、今晩、肝試しをやろうぜ」


 太田に通せん坊をされた生徒はもちろんのこと、教室内の他の生徒たちも太田の言葉に振り向く。


「肝試しって、どこでやるんや」


 興味をそそられたのか学級委員長の二宮誠が、教室の端から太田に近づいていく。


「学校の前の壊れた工場や」


 工場と聞いた瞬間に「あー」という納得の空気が広がり、興味を示す者、眉をひそめて嫌がる者と二分された。


「私、行きたい。直美、一緒に行こうよ」


 女子の中で珍しく声をあげたのは加藤裕子だった。クラスの人気者で誰とでも気さくに話をする女の子だ。親友の坂口直美の手を持つと「行こうよ」と引っ張っている。直美は、裕子の親友だがかなり天然な女の子で、その言動が時々面白い。


「肝試し、、、日記の宿題ができるね」


 さすが天然直美。言っていることは間違いないのだが、ポイントはそこなのか。肝試しの女の子の参戦が明らかになると、帰りかけた男子の足が止まる。よく見ると、太田の横で小川が参加者の名簿を作り始めている。


「小林も行くやろ」


 小川が僕の方を見て問いかけた。


「ああ、行くよ」


 僕は返事をして、太田と小川のそばに近づいていく。


「ねえ、最近、小林ってさー、太田と小川とよく遊んでいるよね」


 加藤裕子が、近づいてきた僕に不思議そうに言う。僕は何と答えようか考えていると、加藤の言葉が続く。


「なんか、小林ってさー、あんまり喋らないし。ガラの悪い太田と遊ぶように見えなかったから」


「ガラが悪くて悪かったな」


 太田は、加藤裕子に文句を言っているがどこか嬉しそうだ。


「俺たち、小林と一緒にクラブを作ったんや」


 参加者の名前を書いていた小川が横から説明を始めようとする。その小川を制して太田が口を開く。


「その名も、少年探偵団」


「何それー、」


 加藤祐子が、ツボにはまったのかゲラゲラと笑いだす。よく見るとつられて坂口直美も加藤の腕を掴みながら苦しそうに笑っている。二宮も笑いながら、太田に突っ込みを入れる。


「俺たち小学生やで、探偵って、おっかしいやろ。面白すぎるで太田」


 太田は笑われて少し不満な顔をする。そんな太田の背中をポンポンと叩きながら小川が説明を再開する。


「正式な名前は本読みクラブ。俺たち、小林から本を借りて読んだりしてるんや。その本が特殊でな、古い本やねんけど江戸川乱歩の怪人二十面相っていうねん」


「へー、聞いたことある。読んだことはないけど」


 珍しく坂口直美が関心を示す。


「俺たち、本を読んでいるだけやないんやで。この前なんか、高槻南高校に潜入捜査に行ったんや」


 太田が自信満々に武勇伝を話そうとする。「へー」とか「うそー」とか、皆が盛り上がりそうになったので、僕は慌てて口をはさむ。


「太田」


 太田は僕を見ると、察したようで開きかけた口を閉じた。


「まー、そのー、この話は秘密やから、内緒」


 内緒と言われると人間は気になるもので、皆は消化不良になる。そこに小川がフォローを始めた。


「本読みクラブに入ったら、そんな秘密を話すことがあるかもしれへんで。怪人二十面相が読みたくなったら、俺に言ってや」


 そう言って、小川は笑いながら本読みクラブの勧誘をしつつ、話を続ける。


「さてと、本題は今日の肝試しについてやけど、集合場所は学校の門、時間は夜の七時。問題は、親に何て言うかやけど、そのまま肝試しだと特に女子は難しいやろ。だから、肝試しが終わったら皆で花火をしようぜ。これなら、親も許してくれるやろ」


「キャー、花火ーーー」


 みんなが一斉に歓声をあげた。太田と小川はニコニコと皆を見ている。いつの間に、こんな計画を立てていたんだろうと感心した。本当に仲が良い二人だ。話を聞きながら僕は気になったので質問をした。


「花火はどうするの」


「花火はな、太田の兄貴がくれたやつがあるねん。打ち上げ花火とかもあるねんで」


「場所はどうする」


「場所はな、ダイエーの横にどぶ川があるやろ、その向こうにでっかい空き地があるから、そこでやろうと思うねんけど」


 花火というおまけがついた肝試しの計画がまとまり、僕たちはそれぞれ家に帰ることにした。小学校の正門を出ると、目の前に壊れた大きな工場がある。二階の床が抜けているし、窓ガラスが割れている。昼間でも薄気味が悪いのに、夜になったらどんなことになるのか。僕は想像しただけで背筋が寒くなった。


登場人物


小林 博幸  主人公、語り部、怪人二十面相の本が大好き、ちょっと人見知り


太田 秀樹  大柄な小学生、喧嘩に強い、いつも威張っているが、ヘタレな一面も


小川 武   面白いこと大好き、冷静な状況判断が出来る、太田と仲が良い


伊藤 学   大人しい、太田に逆らうことができない、工作が大好き


二宮 誠   学級委員長、正義感が強く、生真面目、ただ大雑把なところがある


加藤 裕子  クラスのヒロイン的存在、人懐っこくて、明るい


坂口 直美  しっかり者だが社交的ではない、かなり天然で、斜め上の発言が面白い


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