「はいこちら異世界転生カスタマーセンターです」「悪役令嬢に転生した上に自分が敵にならないと世界が滅びてしまうのですがどうしたら良いですか? あと、前世は男でした」
こんな感じのものを書いてみたいなーって思って書いてみました。
というか、息抜きに書きました。
「おいおい、うそだろ……? じょうだんだって、言ってくれよ……」
目の前の四歳児ぐらいの少女を見ながら、俺は茫然と呟く。
俺が見る少女は普通に美少女だ。いや、四歳だから美幼女か?
枝毛などを切るだけで抑えているからかキラキラと輝く金色の髪は美幼女の腰辺りまで伸びている。そしてぱっちりとした瞳はエメラルドのように輝いていて冗談抜きでかわいい。
しかも美幼女の可愛さをわかっているのか、着せられている服装はヒラッヒラとしたスカートのいわゆるロリータファッションといった風だ。
そんな美幼女がかなり、いやすこぶる残念な表情を浮かべながら自らの顔をペタペタと触っている。
掌にぷにぷにとした感触が伝わり、髪を触るとさらっさらの触り心地を感じた。
ついでに服も触ったけれど……すべすべとした触り心地だからどう考えても安物ではない。三着1980円の安物の触り心地とは大きく違う。
「ま、まちがいない……。げんじつだ。これ……」
目の前の現実を理解し、俺はがくりと膝をつく。
すると鏡に映る美幼女も情けない感じに膝をついた。
何故鏡に映る美幼女も膝をついたか? 答えは簡単だ。
俺は今、目の前の鏡に映る美幼女となっているからだ……。
いや、正確に言うと急にポンっと前世を思い出したといったのが正しいだろう。
「……とりあえず、おれがてんせいしたのはわかった。でも、なんでマルちゃんなんだよ!」
ふかふかとしたベッドの縁に座り、自分が転生してしまった少女の名前をつぶやく。
――マルール=フェイト。通称マルちゃん。
それが転生した俺だ。
マルールことマルちゃんは定価9870円ほどする『宿命狂詩曲』というパソコンゲームに登場するヒロインのライバルキャラ筆頭……いわゆる悪役令嬢ポジションの女性だ。
魔王を倒す勇者と任命されて物語の舞台である学園に入学した主人公にマルちゃんは一目惚れをしたために、事あるごとに主人公の前に登場しては主人公と仲の良いヒロインを邪魔すべく家の権力を使って苛めたり、相手が気にしていることをネタにして貶めたりと見た目は可愛いけれど、厭味ったらしいことこの上ないキャラである。
さらに……主人公が各ヒロインと結ばれて個別ルートに入ったら、裏切られたと怒り狂って主人公を奪ったヒロインをどうにかすべく……裏ギルドに依頼を出したり、主人公のことを嫌っている相手やヒロインに一方的な片思いをしていた男を唆してヒロインが一人のところを狙っての監禁からの精神や肉体を調教といった18禁な凌辱Hが何度も行われていた。
ヒロインが泣きながら主人公の名前を叫ぶところなどは一部純愛以外を求めていた男達には素敵なオカズであった。俺もそうだ。
更にそこから進むバッドエンドでは各ヒロインは最終的に心が壊れて廃人となるか、異国の奴隷となるか、調教され寝取られるとかいう酷い終わりばかりであった。
……ちなみにそれらのエンディングでは主人公は助けられなかったために腑抜けたり、ヒロインを壊した者達に復讐を行うこととなったり、ヒロインの言葉で人を信じられなくなって自身が魔王となったりとか酷い結末ばかりなのだが……必ず最後の一文はこの文字で締めくくられている。
――そして、世界は消滅した。
もう一度言おう、世界は消滅した……だ。
その一文を最後に物語の舞台である大陸の世界地図が表示されてセピア色に変わっていくスチルで終了するのだ。
ちなみに各ヒロインのハッピーエンドではマルちゃん達によって誘拐され監禁されたヒロインは無事に助けられて、汚されずに綺麗なままだし、諸悪の根源であるマルちゃんは断罪されてしまう。(主に廃嫡とか、断頭台とか、奴隷送りとか)
だけどそんなハッピーエンドの最後でも『彼らの未来を祝福するかのように、世界は光に包まれた。 ~終~』と締めくくられていた。
主人公とヒロインとの結婚式シーンとか、一緒に冒険するシーンとか、一緒に料理屋を開業したり、そんな感じの幸せそうなシーンの最後に上の一文からの画面はゆっくりと白くなっていくというものだ。
……こんな終わりばかりだと普通にシナリオ担当が飽きたか? と思ってしまうだろう。
だが、真相はすべてのヒロインをクリアしてのメインヒロインから進む真ルートで明らかとなり、俺は愕然としたね。
シナリオライター馬鹿だろ! ってマウス投げたくなるぐらいにさ……。
「というか、しんルートにすすまないとせかいも、てんせいしたおれもやばい……。でも、しんルートだとマルちゃんって……うっわ、すっごくいやだ……」
苦虫を噛みつぶしたかのように眉を寄せながら、俺はつぶやく。
真ルートに進まないと世界はやばい、だけど真ルートに進んだらマルちゃん……というか俺は廃嫡された上に一応は温情で平民になるけれど、裏ギルドの恨みを買ってたから寝込みを襲われて強制的に奴隷にさせられて安宿で毎晩男の世話をさせられるという底辺まで落ちるだけ落ちていって、精神的に擦り切れつつもどろどろとした怒りと怨みを宿しているのに興味を抱いたマッドサイエンティストな魔族に拾われて触手に体中を改造させられて人間を怨み殺すマン……じゃなかったウーマンになってしまう。
しかも、化け物っぽい見た目になったマルちゃんはラスボス前の幾らでも再生し続ける最悪なモンスターと化してしまう……。だけど主人公とヒロイン達への執着はそのままという鬼仕様。
更に、それを乗り越えなければ主人公とヒロイン達は覚醒をせずにラスボスを倒すために力を手に入れることができない。というか十中八九負けて、世界消滅で終わってしまう。
正直どうすればいいんだぁ……!
「あ~~……こんなとき、もんくをいえるせんようまどぐちとかあったらよかったのに! ……え?」
こう、目の前にスマホとかあったら間違いなく電話を掛けるね。
そう思っていた俺の前にぽとりとそれは落ちてきた。……この世界には絶対に存在しないはずの、スマートフォンが。
「え、ど……どーいう、こと? と、とにかくどこかにかかる?」
戸惑いつつもスマートフォンを手に取り、操るとホーム画面にはメールと電話というアプリなんて入っていないのが見えた。
とりあえず、電話帳を開くと……一件だけ登録されていた。
【異世界転生カスタマーセンター窓口】
「え、えぇ……? うそー……」
確かにクレームを言える窓口を求めたよ? けど、そのまんまな……しかもスマートフォンも出されて掛けろといわんばかりのこれは……。
「けどまあ、かけてみよう」
何が出てくるかわからない。だけれど、文句の一つや二つは言いたい。
そう思いながら登録されている窓口に電話を掛けるために画面をタッチする。
――プププッ、プププッ。
聴き慣れた。けれど少し懐かしいと感じる発信音が耳に届き、ガチャリと電話の向こうで受話器が取られる音が聞こえた。
『はい、こちら異世界転生カスタマーセンター窓口です。ご用件は何でしょうか?』
っ! つ、繋がった……!
繋がった声に驚きを感じつつゴクリと唾を飲み込む。
『もしもし、えっと通信先は……、ああ、数年前に転生を行った○○様ですね?』
「あ、は……はい」
○○、名前は聞き取れなかったけれど、それはきっと俺の前世の名前だろう。
多分聞き取れないのは転生した際にうんだらこんだらとかいう理由だと思う。
そう思いながら返事を返すと窓口の人が声をかけてきた。
『こちらに電話が行われたということは、『ある程度の年齢になると前世が覚醒プラン』が適用されたみたいでなによりです。それで本日のご用件は何でしょうか?』
「えっと、その……ですね。おれがラスボスまえにたちふさがらないと、このせかいって……しょうめつしたりします?」
『世界が消滅、ですか? 少々お待ちください』
聞こえてくる声に戸惑いつつも何とか声を出し、質問を行う。
すると、向こう側で窓口の人が何かを調べているのか少し間隔が開いた。時間にして3分ほど……短すぎず長すぎない時間を経て、再び話しかけられた。
『……お待たせしました。えっと……何というか、そのような世界に転生を行いまして、申しわけありません』
「ふぁっ!? もんだいありぃ!?」
『はい、結論を申しますと、貴方が最後に立ち塞がったとしてもこの世界は○○様が思っている世界とは似て非なる世界のようで、鍛えに鍛えてもラスボス……いわゆる最後に勇者が戦う敵に勝てるかと聞かれたら難しいところです。というか、90%負けます』
「ま、まじでしゅか……」
……せ、世界消滅、確定?
あまりの衝撃に頭の中が真っ白となり、世界消滅まで惰性で生きていけばいいのだろうかとか思い始めていたその時、向こうから声がかかる。
『ですが、10%! その10%を何とかして底上げして勝機を上げるんですよ!』
「いや、そうはいってもむりでしょー? おれはぐっちょんぐっちょんにあなというあなをいろいろとされて、さいごにはむだじにするんでしょー?」
もう半分、いやかなり諦めた。突然親から何か起きたのかとか医者に診てもらおうとか言われたとしても、もう食っちゃね食っちゃねの自堕落で過ごしてやるー!
諦めモードで俺はベッドに寝転がるけれど、スマホからは一生懸命にこの世界を存続させるための方法を語る窓口の人の声が聞こえる。
『ですから、貴方が頑張って底上げするんです! いいですか? 10%は貴方が主人公に一方的に恋焦がれて、ヒロインを下種な男達に送り付ける為に起きるんです! ですから、こっそりと裏で色々と立ち回って自らを鍛えたらいいんです!』
熱心に語り始める窓口の人にはーんと言った気持ちを抱きつつ、生前読んだ投稿小説でそういうのよく見かけたなー。と思った。
こう、表では馬鹿丸出しな行動を行っているというのに、実は裏では色々と細工を行って最終的には諸悪の根源とか倒したりとかするタイプの……って、よく考えると今の俺ってそれができる環境にいないか?
むくりと体を起こし、熱心に語る窓口の人に声をかける。
「ちょっといい?」
『それで最後は……はい、何でしょうか?』
「じぶんだけでがんばれっていうのはムリ。だから、だれかはけんして。それとほごしゃにははなしをとおしておくべきだっておもうの。うん、やっぱりだれかはけんして」
『……つまり、ボディーガード役で補佐が欲しいということですか?』
「うん、ちょーできるしつじかメイドちょうだい。というかくれ」
頭の中でボンキュボンなお色気キャラな有能メイドが浮かび、それを従える俺を置くと……うん、超バカっぽい!
そう思いつつ、黙っている窓口の人にもう一度聞く。
「むり? でないと、おれはひきこもる。おやがなんといっても、ヒキニートぶんかのだいいちにんしゃになってやる」
『……わ、わかりました。でしたら、○○様担当の私が派遣申請に応じます』
「まかせた」
『それではいったん通話を切らせていただきます』
少し疲れた風に聞こえる窓口の人との通話が切れ、静まり返った室内で俺はこれからのことを考える。
まずは両親に荒唐無稽だと思われるだろうけれどこれから起きる出来事を語る。
当然信じる可能性が低いだろうから、派遣される窓口の人が話に混ざってくれることに期待しよう。
次に俺自身の強化だ。SLGな世界観とは違って窓口の人の説明だとRPGな世界観と考えたほうが良い。
戦って戦って経験値を手に入れて、魔法やスキルを上げる。一応隠ぺいする方法も身につけておかないといけないのも課題だ。
「あとは……おんなのこなしゃべりかたも、まなばないとなぁ……」
ゲームのマルちゃんのように「○○さまぁ~♥」といった甘ったるっこいぶりっ子全開なしゃべり方じゃなくても良いから、男っぽいしゃべり方をやめておかないと。
ああ、考えたらキリがない。
だけど、とにかく生きるためにガチめで頑張らないと! 俺……じゃなかった、私の明日は私自身にかかっているんだから!
こうして、私は生き残るために努力することを誓うのだった。
だけど私は知らない。
この努力をする過程で、各ヒロインに一途に思いを寄せることになる男達の人生がまともになって……主人公+ヒロイン+主人公に敵対するポジションだった者達という混成パーティーでラスボス戦を挑むことになるなんて。
ついでに言うとラスボス前に自分が立ちはだからないといけないと理解したために、マッドサイエンティスト魔族を逆に洗脳して着脱可能な皮というか巨大な肉鎧を作ってもらい、それを着て主人公達の前に立ちはだかることになるなんて……。
そして、ラスボス撃破後は世界が滅びる心配はなくなったために、貴族の位……というかマルちゃんという存在自体が死んでいるために新しい人生が送れると思ったら、更なる危機が迫ることになるだなんて……。
今の私は知るはずもなかった……。
あと値段からわかると思いますが、このゲーム世界はエロゲーの世界です。
基本主人公との純愛ルートだけれど、間違えると寝取られとか普通にある胸糞ルートいくタイプのSLG