ふたつの希望 その16
『特化型機動部隊編成構想』
それが、≪A計画≫の原点である。
≪ネオ≫は、機械である。人間のようにひとりひとりが判断して行動するものではない。AI艦隊は≪ネオ≫の命令通りに動いている。さすがに、距離が遠方になるとダイレクトな送受信は不可能だが、それでも重要拠点毎に設置されているコンピューター群が≪ネオ≫の思考を再現している。
その思考の中心が地球から最遠方にある惑星≪ニューフロリダ≫にある。
≪ネオ≫が出す指令は、全て≪ニューフロリダ≫から発信されている。という事は、≪ニューフロリダ≫の中枢を襲えば≪ネオ≫は停止する。算数のように分かり易い計算式だ。
勿論、それは誰もが知っている。
だから、連邦軍も兎に角≪ニューフロリダ≫の陥落を第一目標として作戦計画を立てて来た。
しかし、劣勢の状況では、艦隊運用に限界があった。
≪ニューフロリダ≫が位置する連邦西方宙域に向かうにはふたつのルートがある。
連邦支配宙域の真ん中を貫く、中央航路である≪ワシントン=ルート≫は、主要な惑星基地が並び、≪空間遷移域図≫が整備され、最も安全かつ早く、低費用で通る事が出来る。その途上に≪ケープタウン≫がある。
只、そのルートは、当然AI艦隊の主力が押さえている。まともに立ち向かって勝てる筈が無い。
もうひとつの航路は、副航路である≪マンチェスター=ルート≫。こちらはこちらで、難しい問題がある。このルートは、船乗りの間で寒冷航路とも呼ばれている。遠回りのルートになる為、その呼び名の通り、船の通行量は少ない寒々とした状況になる。停泊地間の距離が遠く、基地のレベルも下がる為、突発的な事故に対する準備を前以て整えておかねばならず、≪ワシントン=ルート≫よりもコストが数倍かかってしまう。今の連邦軍にその余裕は無いし、もし≪マンチェスター=ルート≫で苦戦をすれば、援軍も補給もままならない中、勝利は覚束ない。
つまり、≪ケープタウン≫での敗北以降、AI艦隊を押し返す術を持たない連邦軍に≪ニューフロリダ≫を攻撃する余裕は全く無かったのだ。