ふたつの希望 その14
それでも、まだあの時ならチャンスはあった……。
ユナが連邦軍に入った頃には、既に≪ネオ≫との戦力差は絶望的なものになっていた。それでも、≪ジェンツー≫直前なら各国手持ちの艦隊がまだある程度は残っていた。
その艦隊を使っての逆転の秘策が≪A計画≫だった。
その手段しか残されていなかった。
しかし、失敗の危険が高いという事で採用されず、折角の艦隊は重要拠点防衛に消費され、各個撃破の繰り返しを続けるだけだった。
「≪A計画≫……。実行してみないかね?」
ユナは、窓の外から視点を移し、ガラスに映るグレイナーの横顔を見た。
(私を軍に戻すだけで無く、あの計画を実行するの? まあ、私を軍に戻すという事はそういう事なんだろうけど……)
「冗談は止めて下さい」
「冗談じゃないぞ」
ユナは、窓から目を離さない。
「全て失われたのです。私にどうしろと?」
ユナはガラス越しにグレイナーを睨み付けた。この男は、≪A計画≫の内容を本当に理解しているのだろうか。理解しているなら、現状を見て、そんな言葉を口に出来る筈が無いと思うのだが……。
あの計画を実行するには、相当の準備を必要とする。
(それも生半可な準備や覚悟では収まらない……)
元々、計画自体、現行の戦闘方法を根底から覆すもので、さらに≪A計画≫の戦闘方法は、恒久的な使用を全く考えられていない。
たった一度のチャンスの為の計画だ。莫大な資金・人材・資材を投げ打って、後は強運に任せる作戦だった。
まさに、一発逆転の大博打。誰もが反対する筈だ。
首脳部が採用しなかった気持ちは、ユナにも良く分かる。
自分が提案される立場だったとしても、同じ反応を示すかもしれない。
それ程の劇薬であった。