ふたつの希望 その11
≪A計画≫。
それが、ユナの運命を変えた作戦の名前だった。
現在の大型艦中心の戦闘方法を否定し、艦隊編成の在り方を根本から引っくり返した問題作だった。
しかし、当然ながら、まだ若手のユナが持ち込んだ奇想天外な案に耳を貸す者はいなかった。それに、ユナの提案する内容は、ほぼ一回限りの大博打な作戦で、もし、失敗すれば、元の状態に戻すのは極めて難しくなる程の危険極まりないものだった。
満足に検討される事無く、≪A計画≫は、あえなく退けられてしまった。
それでも、ユナは根気強く周囲を説得し続けた。
そもそも、今の作戦が≪ネオ≫に通用していないのは明らかだ。それなのに、どうして固執しているのか、ユナには理解出来無かった。
人は、どうしても自分が置かれている状況を甘く見がちな面がある。
参謀本部内でも、現状の作戦計画は上手く行かないとは気付いていても、失敗だとは受け入れ難い者が多いのだ。
彼らは、AIが自分達を凌駕しているとは考えていない。逆に、人間の柔軟性を持ってすれば、機械に勝るのは当然だと思っている。
しかし、実際は、自分達が己の決め付けにこだわっていて、AIの方が人間を嘲笑うかのように柔軟に対応していた。
連邦軍は、敗北する度に戦術を変え、戦略を変えていたが、≪ネオ≫はそういう人間の発想と膨大な情報を照らし合わせて変幻自在に動いていた。
エリートである自分達が前提としている基本条件が全く意味を成していなかったのだ。
それに気付いていたユナは、正面からその事実をぶつけて、みんなの目を覚まそうとした。だが、人間はストレートに自分の弱点を攻められたら余計聞く耳持たなくなるという生き物だ。
正論を吐く者が避けられる状況。ユナを既視感が襲った。
参謀本部では、次第に自分の考えに固執するユナを避ける雰囲気が生まれた。数年後、ユナは、ついに≪アカツキ≫自治政府軍に出向となってしまう。
体の良い左遷である。
只、それでもユナは落ち込む事無く、≪アカツキ≫でも自分の計画に同調する者を募り続けた。結果、ジャパン艦隊本部でも手に余るユナを手放さざるを得ないとの判断を取る事になる。
やがて、ユナは、≪A計画≫を諦めるか、軍を去るかの二者択一を迫られた。