15.桜の後に
連続投稿しています。最終話です。
サークルと部室だけの棟、通称『マンション』の一室で、シンヤは相棒のマシンに向かっていた。
(なんでオレがこんな文章を打ってんだか)
止まらぬ早さで書かれているのは、月刊活動紙の記事だった。
『花見速報! 意外な穴場は近くにある! 大学近辺のツツジの状況は下の地図でバッチリだ! 一緒に食べたいお弁当屋さんは、おにぎりマークで示しているぞ! 彼女と一緒なら手作りがいいけど、たまには俺が作ろうかなっていう彼氏のために、花見弁当のレシピもつけたぜ!』
「シンヤ、レシピ完成したよ!」
「OK、『フミヒコ』。ん、いい感じ。これ、どうしたの?」
「彼女に教えてもらったんだ~」
「へえ、あのOLの?」
「そう。おかげで俺も料理にハマっちゃったよ」
「助かるよ」
(フミヒコも、あんないい彼女置いていっちゃって)
「シンヤ、弁当屋のデータそろったよ~」
「サンキュ、『アキラ』。じゃ、こっちの地図におにぎりマーク描き込んで」
「わかった」
(アキラも1回くらい活動紙を書いてみれば良かったんだ)
ノックが響き『アオイ』が入ってきた。
「シンヤ、ツツジの絵、描き終わったわよ」
「早いね『アオイ』。うん、相変わらず繊細な絵だね。OKだ」
「それじゃ、私はこれで失礼するわね」
「ありがとう。またよろしく」
(『アオイ』はすぐに戻ってきたのに、顔も見せないんだからな!)
シンヤの隣でノートパソコンを打っていた少年が顔を上げた。
「シンヤ、怒ってる?」
「べつに」
「怒ってるよ」
「怒ってない!」
「怒ってるって」
「しつこいぞ。オ・レ・は・お・こ・っ・て・な・い。わかったらさっさと編集しろ」
「はいはい。ったく鬼編集長なんだから」
ぎろり、と少年を睨むシンヤ。
「やりま~す」
(ったく、しかもアイは大学にいないようなもんだから、人数合わせに苦労したぞ。マスターの息子って聞いた時は驚いたけど、こいつが暇してて本当に良かった)
はぁ、とシンヤの口からため息がもれる。
(別に今のメンバーに不満があるわけじゃない。オレがアキラと同じ立場なら同じ事をしただろうし。地球人を巻き込みたくなかったのはわかる。わかるんだけど……)
シンヤがキーボードを打つ手が止まっていた。
(「きっと戻ってくるよ」って、アサヒ兄さんは言ってたな。オレも信じたい。きっと、きっと無事に戻ってくるって。戻ってきたら覚えてろよ? まずはアキラを思い切り殴って……)
ノックの音がシンヤの思考を遮った。
「はい?」
「すいませ~ん、見学したいんですけど」
「どうぞお入りください」
営業スマイルで、シンヤはドアへと向かった。
新入生が入ったばかりの今は勧誘のピークなのだ。
(あいつらが帰ってくるまでは、部活に昇進することを目標に頑張るしかないな)
シンヤの目の前で、勢い良くドアが開いた。
「ただいま~。じゃなかった、初めまして~」
そうして、黄昏の時間はまだまだ続く。
読んでいただき、ありがとうございました。
これで完結です。




