13.エアバイクレース
「こんなに人がいたんだ」
シンヤのつぶやきももっともなくらい、受付には意外なほど人がいた。
そんなに広くはない湖のまわりには、すでに借りたエアバイクを走らせている人でいっぱいだ。
「おもしろそうだね」
「俺たちも出るか?」
「いいぞ、私に異存はない」
みんなレースはともかく、エアバイクに乗ってみたいということで、5人そろって受付を済ませた。お代はフミヒコがチョコレートで払ってくれた。
「いいですかー? エアバイクの操縦は簡単です。ハンドルで左右に移動、左のハンドルを回すと高度が上がり、右のハンドルを回すとスピードが上がります。止まるときは右のハンドルを離して下さい。エアバイク同士がぶつかりそうになったり、湖から離れると勝手に止まります。そんな時は間隔を空けたり、正しい道に戻ると、再び動くようになりますから、もし止まっても焦らないでくださいねー」
タイヤのないスクーターの様なエアバイクに乗り、五人は練習を始めた。
高度を上げると、微妙な浮遊感がかかる。
「変な感じ~」
アイはゆっくり進めている。砂利道のせいか、浮いていながらも軽く振動する。
「ここらへんが限界か?」
アキラはできる限り高く高度を上げていた。5mくらいまで浮かび上がっている。
「湖の上でも浮くんだ」
シンヤは湖の上に浮いていた。高さは1m程で、それ以上は上がらない。方向転換すると水しぶきがあがった。
「スピード上げたら目が痛そうだね」
シンヤの横に並んで走りながらフミヒコがつぶやくと、横に並んでいたアオイが不思議そうにいった。
「『風よけ』を渡されると思うが」
「アオイ、乗ったことがあるの?」
「ああ、カタチは違うが、似たようなものに乗っていた」
「じゃあレースも余裕なんじゃない?」
「そうだな」
「ただいまよりー、予選を開始いたします。番号ー、1番から10番の方はー、スタート地点に並んでくださいー」
五人は70番台で、全部で150人ほどが参加している。
「観戦できて良かった」
「どんな感じに走るのか見ときたいもんな」
湖畔には、小さな光るボールがいくつも現れ、コースを作っていた。
一望できる湖とはいえけっこう広い。
五人はスタート地点近くで観戦することにした。
「位置について-」
スタート地点に並んだ人たちは、皆ゴーグルのようなものをつけている。『風よけ』らしい。
パアン……といきなりすごい音がしたと思ったら、どうやらそれがスタートの合図だった。
エアバイクに乗った10人がいっせいに飛び出した。
「え?」
「速いぃ」
風を残してあっと言う間に小さくなる影は、やがて高低差ができ、抜きつ抜かれつのレースとなった。
「もう半分か……」
湖の向こう側を走る姿が、上下左右に動いているのがわかる。
「これって1周するのにそんなにかからないんじゃ……」
「ゴール!!!」
言ってる間に、もう先頭の人が戻ってきた。
タイムボードに記録が出て、予選タイム通過者以外の人は、エアバイクを返している。
「これ……予選タイム、2分くらいだな」
アキラはタイムボードの時間と自分の腕時計を見比べて言った。
「え……そんなに速いの?」
「遅くとも3分で1周できるよ」
「じゃあすぐに出番だね」
「楽しみだ」
30番台のレースで、エアバイクが接触を防ぐため自動停止したアクシデントがあった以外は、特に異常もなく、レースはテンポ良く進んだ。
「いよいよ次だね」
「はぁ~どきどきする」
私たちは、走っている60番台を見ながらスタート付近に集まっていた。
シンヤが架空のマイクをアキラに向ける。
「今の心境は?」
「初めてだし、ケガしないように頑張ります!」
「またまた~、実はけっこう気合い入ってるくせに」
「わかる?」
「当然だ。やるからには、勝ちを狙わなくてはな」
「よしっ、勝負だアオイ!」
「望むところだ」
アキラとアオイ、意外に気が合うようだった。
「70番台、スタート地点へ並んで下さいー」
手渡されたゴーグルをかけると、薄く水色がかって見える。
「ほお、これはなかなか良いモノだな。これなら安心して飛ばせる」
「え?」
「位置についてー」
どう安心なのかアイがアオイに聞き直す間も無く、パアンとスタートの合図が鳴った。
ちょっと出遅れたアイは、ぐいっとハンドルをひねり加速する。
「ひあぁぁぁぁぁああ」
想像以上のスピードに、アイは周りの景色なんて見る暇がない。なんとかみんなに追いついて、そばにいる人とぶつからないように、方向や高さを少しずつ変える。
湖上の風は気持ちよく、スピードに慣れてくると、まわりを見る余裕も出てきた。
アイの前に見える影から、1つがすぅっと先に出た。
さらに続いてもう1つ出る。
アイからは離れすぎていて誰かはわからない。
「ゴール! ゴールです!! 信じられません!!!」
大きなざわめきと一緒に、スピーカーから驚愕の響きが大音量で流れた。
それに遅れて、アイを含める最尾ブループが戻った。
ゴーグルを外し、そばにいたフミヒコに聞く。
「ねぇ、いったい誰が1位だったの?」
「アオイだよ。今、タイムが出る」
みんなが見上げるタイムボードが、タイムを表示した。
どよめく会場。
「なに? 何分だったの?」
「すごい。1分切ってる」
「ええ!?」
歓声に答えるように、アオイはエアバイクに乗ったまま、くるりと1回転した。
わきあがる観客。
「うっひゃぁーー」
「エンターテイナーだなぁ」
結局、本選も通過したものの、アキラは決勝に残れなかった。
シンヤとフミヒコは予選を通過したものの、本選には残れなかった。
アイは予選落ち。
「いいの! 私はエアバイクに乗りたかっただけだもん」
「ずるいよ、アオイ。経験者だったんだろ?」
「まあな。カタチは違うが同じ仕組みのモノを使用していた。ただ速くゴールするだけなら簡単だ」
「~~~~」
平然と言い切るアオイに、アキラは悔しそうだ。
1分切るのはプロレーサーレベルらしい。
「一泊無料になって良かったよね」
アオイが順調に優勝したことで、エアバイクとゴーグル、『湖畔の家』1泊券がもらえたのだ。
『湖畔の家』は1階建ての平屋で、木のぬくもりを感じる造りになってる。さっそく五人は中に入り、くつろいでいた。
「くっそーー! 俺も練習してリベンジするぞ!」
「それは楽しみだ。アキラは筋が良さそうだから、すぐ上達するだろう」
「今度は簡単に負けないぜ!」
「盛り上がってるとこ悪いけど、そろそろ僕たちバイトに行くよ」
「アキラ、しっかりね」
シンヤとフミヒコが立ち上がったので、アイも腰を上げる。
「あ、アイ……」
アキラが私にごにょごにょと囁いた。
「頼むよ」
「わかったわ」
アイは頷くと、シンヤとフミヒコを連れて地球に飛んだ。
「じゃあ、オレ仕事終わるの22時くらいだから」
「僕は21時」
今は16時前で、二人はいつも17時からバイトに入っているらしい。
「どこかで待ち合わせする?」
「じゃあ、僕のバイト先の喫茶店は?」
「いいよ。あそこ意外に遅くまで営業してるんで、マスターのお気に入りだよ」
「マスター?」
「あー、バイト先の会社の上司。オレにマシンを叩き込んでくれた人」
「そのマスターってもしかして僕、見たことあるかも。あの、なんていうか」
言葉を濁すフミヒコにシンヤは苦笑した。
「たぶんその人で合ってる。見た目は微妙だけど、かしこい人だよ」
シンヤはまず家に戻って荷物をまとめると言って去って行った。
夕焼けも終わり辺りは暗くなってきて、街灯がぽつりぽつりと灯りだしている。
もう少し暗くなれば派手なイルミネーションが明るく町を彩るだろう。
アイがイルミネーションを見たいと言い出し、フミヒコと一緒に喫茶店に向かってゆっくりと歩き出した。
吐く息が白く浮かんでは消える。
「さっき、アキラはなんて言ってたの?」
「あぁ。私にアオイの世界を探してほしいって」
「……」
「アオイの記憶の封印、すぐには解けないでしょ? 味方にも連絡できないし、それならアオイの世界に行けばなにかわかるかもしれない。もしかしたら、解き方もわかるかもしれないから」
「いい方法だと思う。あと、僕もアイに話したかったんだ」
「なに?」
「アオイの『癒しの手』。うまく使えたら、僕やアキラを分離できると思う」
「ほんとに?」
「うん。でもアオイに協力してもらわないとできないから、まずはアオイの問題から片づけよう」
「そうね」
フミヒコと別れたアイは自分の部屋に飛んだ。
あちこち探した中でも、アイの力を使うのに最適な星であり場所だ。
夢中になったら時間を忘れてしまうので、地球から持ち込んだ目覚まし時計を21時にセットする。
アイは気持ちを広げる。
大きな空間に浮いてるような気分になったところで検索開始。
今までアイが行ったことのある世界は1万以上。その中でヒトタイプがいた世界は半分以下。
まずはこの中からアオイの世界があるのか調べようと思ったものの、絞れる要因が欲しい。闇雲に1つひとつ行ってもいいけれど、しんどいし時間がかかる。
(あ、そう言えば、エアバイクと似たのを使ってたって言ってた)
エアバイクのあるなしで絞ると、数が千くらいに絞れた。エアバイクは意外と科学の発達がいるようだ。
(あとはー……。ほめてたっぽい、『風よけ』もやってみる?)
百くらいになった。『風よけ』の方が科学力がいることに驚きながらも、アイは検索条件を探る。
(アオイは他になにを言ってたっけ? あ、『封印』はどうかな? あれもかなり高度な技っぽいんだけど)
「見つけた!」
(絞ってる最中だけど、この感触はアオイと同じだ。どうしよう? 今すぐ行ってみる? 私だけで?
危険かな? でも、いつもは1人で飛んでるんだし……)
アイは飛んだ。
もう少しで終わります。




