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11.葵の秘密

「思っていたよりも危険な状態だった」

 三日後の朝、カフェで四人そろうなり、シンヤは口を開いた。アキラも苦い顔になる。

「こっちもだ。去年から妙な事件が続いてて、そのどれもが『指揮者』がらみだった」

 アオイが宇宙人とわかって、四人はそれぞれ、アオイや最近の事件について調べていた。

「どうやら、宇宙人に2つの勢力があって、地球で争ってるらしい」

「マシンに残ってた方が『指揮者』を必要としているグループで、あっちこっちにハックして探してる」

 シンヤがバイトしている会社にも、その手が伸びていたらしい。

「捕まった犯人たちにとって『指揮者』は邪魔者らしく、しらみつぶしに探してる」

 続いてる妙な事件は、『指揮者』だと思わしき宇宙人に出会ったら、手あたり次第ケンカになったものらしい。

「つまり、『指揮者』はマシン側のエライ人っぽいんだけど、今は行方不明ってことか……」

「その『指揮者』がアオイ?」

「アオイの話を聞きたいね」

「そうだな……それが一番早いかもしれない」

 四人は放課後、アオイに会う約束をとりつけた。


「なにか……?」

 相変わらずぼんやりとした顔で、アオイはカフェにやってきた。

 シンヤがにっこりと迎える。

「すみません。忙しい中、お誘いしたりして」

「別に……」

 アオイが同じテーブルの空いてる席に座るのを待って、アキラが別の星の言語と宇宙人の伝え方と重ねて言った。

『話をしたいなぁと思って来てもらったんです』

『話?』

 聞き返したアオイの言葉に揺らぎを感じて、やっとアイにもアオイが宇宙人だとわかった。

 宇宙人は宇宙人同士や地球人とすぐに言葉が通じる。

 言葉を覚えるのではなく、ラジオのチューニングを合わせるような感じで、話している言葉に意識を重ねると、言葉が聞こえるし伝えることもできるからだ。文字を読むときも同じで、書くこと以外は言葉を覚えなくても意識さえすればできる。

 今のアオイの言葉は、そのチューニングが微妙にずれていた。

 これは初めて出会う言語に対しての宇宙人じゃないと現れない現象だ。

 アキラは続けての言葉は普通の日本語で話した。

「実は、俺も事故で記憶を無くしたんです。だから、同じ様な境遇と聞いて、話をしたいなぁ、と思って」

 暗にアキラは、自分も宇宙人なんですよ、と伝えたつもりだったけれど。

「……話すことは何もない」

 アオイはカフェを出ていった。

「これは……予想外の展開だな」

「どうする?」

 アイは考えながらも口を開いた。

「もしかしてアオイって、宇宙人の記憶が無いのかも……」

「どうしてそう思う?」

「言葉よ」

「言葉?」

「さっき少し話したとき、シンヤにはすぐに地球語を返したけど、アキラには地球語なのかどうか、っていう迷いがあったの。わざわざアキラの言葉に合わそうとするなんて、地球にいる宇宙人ならしないわ」

「え???」

「また今度くわしく説明してやるよ」

 アキラがぽんとシンヤの肩に手を置いた。

「それに、ショックがひどかったのかもしれないよね。交通事故の傷、深かったみたいだし」

 フミヒコは調べた書類を出した。

「それは私も聞いたわ。全身擦り傷と打撲、火傷、そして深い刃物傷」

「刃物傷の理由はわかった?」

「アオイはどうして刃物傷を負ったか覚えてないらしい。交通事故に合ったのは本当だし、傷もすぐ治ったから、刃物傷についてそれ以上捜査は進んでなかった」

「もしもだよ、もしも……アオイが記憶を無くしている『指揮者』だとしたら、彼女の立場って、すごく危なくない?」

 四人は思わず顔を見合わせた。

 『指揮者』が探されてるのは昨日今日の話じゃない。だけど四人とも胸騒ぎを感じた。

「手分けしてアオイを探そう」

「アイと俺は裏門、シンヤとフミヒコは正門の方を頼む」

「オッケー」

「わかったわ」

「なにかあったら安全な場所へ飛ぶんだ!」

「ラジャ」

 正門付近は人も多いけど、道路に面していて目立つ。ヘタなことは仕掛けないだろう。反対に裏門付近は、人が少ないけど入り組んでて仕掛けやすい。宇宙人コンビの方がいい。そしてどちらにも転移能力者がいる方がいい。

 本当ならシンヤと一緒にいたかっただろうアキラの配慮にアイは気づいた。


「あれ? いないわね?」

「追い抜いた?」

 アイとアキラは息を切らして裏門まで走ってきたものの、特になにも起こっていない。

 なにもないに越したことはないが、追い越していたら話にならない。

「……探しながら戻ろうか?」

「そうね」

 引き返そうとした瞬間、

「アイ! 飛んで!」

 必死のフミヒコの声と、ぐにゃりとした感触と一緒に、フミヒコ、シンヤ、そしてアオイが現れた。

「行くわよ!」

 アイは四人を抱え込むと、自分のアパートのある星に飛んだ。


 焦ったせいか、現れた場所に重なってこけてしまった。

「ごめん、大丈夫?」

 あわてて抱き起こそうとする、アイの手がぬるりとすべった。

「シンヤ?」

 シンヤは青い顔でおなかを押さえている。

「さっき刺されたんだ。向こうにも空間移動能力者がいて、アオイがさらわれるところだった。彼女をかばって……それで急いでアイの方へ飛んだんだけど……」

「シンヤ! しっかりしろ!」

 フミヒコの言葉を最後まで聞かず、アキラはシンヤに呼びかけた。

「大丈夫、ちょっと痛いだけ……。大声出すなよ、響く」

 薄目を開けて笑おうとするシンヤの顔は青ざめていて、ちょっとどころの痛みじゃないのが伝わる。

「……医者を呼びに行くわ。フミヒコ、力を貸して」

「うん!」


「……後は寝ていれば大丈夫ですよ。応急手当が良かったから、ひどいことにはならずにすんだ。誰が応急手当を?」

 四人はアオイを見た。

「そうですか。あなたは『癒しの手』を持っているのですね。大切に使ってください」

「送ります」

 フミヒコの申し出を医者は喜んで受けた。

 有名な名医なのだが、ここからかなり遠くに住んでいる。

「お茶いれるね」

 アイは落ち着くためにもと、熱いお茶をいれた。

 良い香りが漂うと、部屋の空気が和らいでいくのがわかる。

「…………」

 こんこんと眠るシンヤの顔色は回復してきている。

 アイはアオイと目を合わせた。

「あの……いきなりこんな所へ連れてきてしまって、ごめんなさい」

「なんでアイが謝るんだよ? シンヤはアオイを助けて刺されたんだろ?」

「アオイは応急手当をしてくれたじゃないか」

「それについては礼を言うよ。シンヤを助けてくれてありがとう。これでいいだろ? 俺は今、どうしようもなく腹が立ってんだよ! あんたはいったいなんなんだろうってな!」

「それは私にではなく、自分にだろう?」

「なにぃ?」

「助けられなかった自分が、腹立たしいんだろう?」

「コイツ……!」

 止める間もなくアキラがアオイにつかみかかった。

 アオイが鋭く睨む。

「触るな!」

 アオイの肩をつかんでいたアキラの手がぱっと離れ、その手とアオイの顔を見比べる。

「あんたも……接触読心能力者か?」

「私の方こそ聞きたいことでいっぱいだ。いったいなんで私には妙な知識や能力があるんだ? そのせいで狙われるのか? あなた方はなんだ? 敵か? 味方か? だいたいここはどこなんだ? ……っ!」

 突然アオイは頭を押さえると、うずくまった。

「大丈夫?」

「……なんでもない。思いだそうとすると、頭が痛むんだ。だから、なるべく、考えないようにしている。自分が何者なのかをな」

「…………」

(それはとてもつらいことなんじゃないかしら?)

 数限りない世界を歩き、その中で自分を見失わないことは、宇宙人の存在意義と言ってもいいくらいに、とても大切なことだ。もし見失ってしまったら、最悪、消滅してしまうことだってある。

「……悪かったよ」

 アキラは少し落ち着いたようで座り直した。

「確かに俺は自分に腹が立ってる。あんたになんの説明もしてないし……。とりあえず俺たちのことを話すから、それから、あんたの知ってることを教えてくれないか?」

「私たちは、少なくとも敵じゃないわ」

「……わかった」

 アオイはやっと少し微笑んだ。


 その後すぐ、フミヒコも戻ってきて、みんなそれぞれの話をした。

 アイは立ち上がり、今日、何回目かのお茶をいれる。

 長くなりそうな気配に、アキラとアオイは家に連絡をいれて、シンヤの方にもうまく言っておいた。

 四人のことを話し終えアオイの話になって、それも終わりに近づいている。アオイには確かに知識や能力があるのだけど、肝心の所がさっぱりわからない。

 アオイの許可を得て、精神内部を探っていたアキラが顔を上げた。

「……アオイの記憶に『封印』された跡がある」

「そうか、やはり……。『封印』とは難儀だな。問題は『封印』のレベルだ。低ければ術者じゃなくても解除できるはずだが……」

「……」

「……」

「……」

「ん? どうした?」

 アオイは三人の視線に気づき、思考を中断した。

「いや、なんで大学であまり話さなかったのか、わかったよ」

「なんでだ?」

「話し方がね……」

「変か?」

「ううん、変じゃないんだけど……」

「仕方ない。私はずっとこういう風に話すよう教育されてきた。いつも冷静に、物事は全体で見るようにとな。私は……だから……!」

 アオイが頭を押さえる。

「無理すんなって。大丈夫だ。あんたがなんでも、もう俺たちは仲間だ。約束する!」

「やくそく……」

 アオイは頭を押さえたまま倒れて動かなくなった。

「……寝たのか?」

「疲れが一気に出たのかもしれないわ。時間も遅いし、私たちも寝ましょ?」


 シンヤはアイのベッドに寝ている。

 アイは、アキラはシンヤと離れると心配だろうからと、同じ部屋に寝袋を用意しようとすると、アキラもフミヒコも布団や寝袋は不要だと断った。無形宇宙人は基本的に睡眠は必要ないらしい。

「シンヤの様子は俺とフミヒコで見てるから、安心して寝たらいいよ」

 それならとアイはアオイと二人で寝袋を使うことにした。

 寝袋に入ってもらうために一度起こそうとアオイに向き直ると、アオイは寝ながら涙を流していた。

 アイはアオイを起こすのはやめて、布団をかけるだけにした。

(きっと、アオイはどこかの世界の重要人物なんだわ。アオイにはその世界の未来がかかっている) 

 アオイにもわからなかったのは人間の『アオイ』と入れ替わった理由と、『アオイ』が今どこにいるのか。

 アオイが知っていたのは、自分がここにいるべき存在じゃないこと、なすべきことを忘れていること、早く思い出さないと取り返しがつかないこと。

 アイが寝袋に入ってアオイの隣に横になると、アオイは穏やかな顔に戻っていた。

 時計を見ると、まだ2時間ほど眠れる。

(明日のためにも寝なくっちゃ)

 アイはそう言い聞かせて目を閉じた。


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