1.愛meets文彦
日も沈みかけた夕方、駅前は家に急ぐ人であふれていた。ゴールデンウィーク明けのなんとも言えない気分が漂う。いつもの日常を複雑な気持ちで過ごした人々が、疲れからか無表情で改札機を通っていく。
一つしかない改札近くの柱にもたれ、ジーンズにチェック柄のシャツといったどこにでもいそうな青年が、通り過ぎる人々を見つめていた。
青年がここに立ってそろそろ半時間ほど経つ。青年が行ったここ一ヶ月の地道な調査によればもうすぐ『彼女』が一人でここを通るはずだ。友達の多い『彼女』は途中まで誰かと一緒に帰るのだが、このローカルな駅に着く頃には一人になっていた。
それから数分後、ようやく目当ての女性がたくさんの乗客と一緒に改札から出てきた。青年は何気なさを装い女性の少し後について歩き出した。
ジーンズに白いシャツ、赤いカーディガンを肩にかける小柄な女性は若く、肩を越す長い黒髪はさらさらのストレートだ。しばらく青年はその美しい髪に見ほれるように歩いていたが、人通りの少ない道に入るとついに行動にうつった。
「あの!!」
振り向いた女性の髪が夕日に輝く。
青年は顔を上げることもできないまま一息に言った。
「あの僕あなたのファンなんです!!」
「……」
女性は青年を上から下まで見て少し考える。眉を寄せる様子から、知り合いの知り合いでもないらしい。
「ずっとずっと前からあなたのことを……」
女性は青年の言葉が続くのを待たずに歩き出した。
「ちょ、ちょっと待って……」
足を止めない女性を慌てて青年は追いかける。追いかけながらも青年は話し続ける。
「やっぱりいきなりだったから……。すみません。でも、あの、手紙書こうにも住所は知らないし……電話番号も知らないし……。こんな形で伝えるのもちょっとアレかな、とは思ったんだけど……それでもどうしても伝えたかったんです!! あなたの……」
青年は声のトーンを上げた。
「あなたのそのきれいな髪、響く声、透明な瞳、かわいい口、器用な指、すんなりした足……ああ、あなたのすべてが僕の……」
もう耐えきれない、とばかりに女性がくるりと振り返った。
「ちょっと!! さっきから黙ってればなんなのよ! ついて来ないでっ!」
女性は全速力で走り出した。
「あ……」
追いかけようかためらった青年は、走り出した女性の前に一瞬で移動した。
「!?」
思わず立ち止まる女性。
「すみません……。前置きが長かったですね。僕、僕も宇宙人なんです。あなたのすべてが僕の身体と共鳴を感じていました。宇宙人としての共鳴。ファンだって言ったのは、あなたがちゃんと地球で生きていることに対してだったんです。僕、今ちょっと落ち込んでいて……そんなあなたがいるのをとても嬉しく思ってたんです。それだけ伝えたくて……」
目を合わせずに話す青年を女性はじっと見ていた。
「驚かせてすみません。じゃあ……」
「待って!」
駅に戻ろうとした青年の足が止まる。
「どこで私を見たの?」
「大学で」
「同じ大学なの?」
うなずく青年に女性はいきなり笑い出した。青年はどうしたものかとおろおろする。
「ごめんなさい笑って。びっくりしちゃったのよ。まさか同じ大学にまた宇宙人がいるなんて」
「また?」
思わず顔を上げた青年。その目に女性の笑顔がうつる。
「そう。その人ともこの前知り合ったばっかりなの。明日にでも紹介するわ。とりあえず、どう? 今から少しお話しない?」
「喜んで!!」
笑顔になる青年。
「私はアイ、よろしくね」
「僕はフミヒコ……よろしくお願いします!」
照れながら頭を下げるフミヒコにアイはくすくすと笑う。
「大げさねぇ。じゃあ行くわよ!」
「え……!?」




