第2章 〜欲望と未来のインターセクト〜 ➖探索編2➖ ⑯
大浴場の扉を開け、中に入る。
あれ?なんだあの桶?大浴場を入った入り口のところに桶いっぱいに汲まれた冷水。その中にはいくつかの氷も入っていた。
あんなもの、前にあったかな?
ここに入るのは最初に調べたとき以来来てはいない。誰かがおいたのかな?
「結衣サン!モウ来テイタンデスネ!早速、入リマショウ!」
後ろからミソナさんの声が聞こえ、振り向く。にしても、ミソナさんは42歳と思えないほど綺麗だな……
「そうですね、先に入っておきましょう」
花ちゃんと彩里ちゃんはまだみたい。だから、私たちで先に入っておこうかな。私は脱衣所の扉に手をかけた。
「結衣サン……モシ、私ガ死ンデシマッタ時ハ、ミンナノコトヲヨロシクオ願イシマスネ」
「え?」
ミンナさんの方を向くと、真剣な表情で私に語っていた。
「仲間ヲ信頼シテイナイワケデハアリマセン。デモ、コンナ状況ダカラコソ、マタ誰カガ犠牲ニナッテシマウカモ知レマセン」
それは、みんなのことを誰よりも大切に思っているミソナさんだから言える言葉だった。
もちろん、私も同じ気持ち。
だからこそ、ミソナさんは私に言っているのかも知れない。
「ダカラコソ、ミンナノコトヲ……特ニ、久クンヲオ願イシマス」
「久くん?」
久ってつく人は私たちの中に1人しかいなかった。薄々気づいてはいたけど、ミソナさんと彼には何かある。それを聞くチャンスかも知れない。
「私ト久クンノ関係ニツイテハ私カラハ言エマセン。ソシテ、モウ一ツ」
その瞬間、体に鳥肌が立った。
「久クンハ私タチニ何カ隠シテマス」
「え?それってどういう――」
「結衣ー!やっほー!」
ミソナさんと話していると大浴場の扉が開き、彩里ちゃんと花ちゃんが入ってくる。
「きゃはっ!じゃあ、入ろっか!」
脱衣所で服を脱ぎ、カゴに全て入れる。こうして私たち4人はお風呂場の扉を開けた。
ミソナさんのあの言葉は何だったのだろうか。ミソナさんが嘘をついているようには見えなかった。あの目は本気だった。
まあいっか。また今度聞いてみよう。
石に囲まれた湯に4人で入る。湯を軽く手ですくったが、なぜか滑っとする。こういうお湯なのか?
「あ〜。極楽極楽〜」
「ほんと、いい湯だよね。こんな状況じゃなければもっとだけど」
殺し合い。こんな状況じゃなければ、もっとみんなと楽しめたし、いい友達にもなれたかもしれない。ここを出たら、みんなともっと仲良くなりたいな。
「――ブクブクブクブク……」
「って、花ちゃん!?」
花ちゃんはなぜか顔を赤くして湯の中で泡を拭いていた。すると花ちゃんはだんだんお湯から出てくる。
「ごめん……のぼせた……先に出てるから……結衣ちゃんたちはゆっくり入ってて……うぅ……」
腰を曲げ、お風呂場の扉から花ちゃんは出ていった。
「って、花まだ10分しか入ってないじゃん!」
「デモ、本当ニ具合悪ソウデシタヨ」
たしかに茹でタコみたいに顔が真っ赤になってたからな。一人で行かせて大丈夫だったかな?
「ソレニシテモ、ココハイイ香リデスネ!アロマの香リデショウカ?」
「本当だ!まるで心が安らぐような……彩里はそう感じる!」
ほんとだ。この匂いを嗅いでいるだけでどこか安心感がある。
だけど、この匂いはなんだ?前にこの部屋に入った時はこんな匂いしなかったのに。
お湯の匂いなわけないし。
「それにしても、やっぱり結衣ちゃんはスタイルがいいね!やっぱり、芸能事務所に入ってたからかな?」
「あはは……そ、そうかな〜……」
ここの人に身体のラインまで見られたのは初めてだった。だから、こうやって言われるのも初めて。内心、少し嬉しい。
「そういう彩里ちゃんとミソナさんもスタイルいいと思うけどな〜」
鸚鵡返しみたいになっちゃったけど、思ったことを言う。でも、お世辞ではなかった。本当に二人はスタイルがいい。身長も高いし、くびれだってある。
「え……そ、そんな……結衣ちゃん……は、恥ずかしいよ〜……」
「私ガスタイルガイイ!?ソンナコト言ワレタノ何十年ブリデショウカ!?」
「も〜!驚きすぎだよ〜!」
照れる二人を見てると、少し可愛いなと思ってしまった。でもこれで、みんなとの絆もより深まった気がする。
――こんな時間がずっと続けばいいのにな。
そんなことを考えてしまった。
プルルルル
プルルルル
プルルルル
「なんの音だろう?」
音はお風呂場の奥の扉から聞こえた。電話が鳴るような音。
「私が見てくるよ」
「ワカリマシタ!」
私はお湯から出て、脱衣所の方へ向かう。音のする方向を見ると、そこには黒色の固定電話があった。
プルルルル
プルルルル
プルルルル
鳴り止むことのない固定電話。もしかしたら、誰かが脱衣所に用事があって電話をかけてきているのかもしれない。
でるしかないか。
少し恐怖を感じながらも、私は受話器を取った。
「はい。山本です」
……
5秒ほど経っても返事がない。
「あの、もしもし?」
しばらく相手の応答を待ってみても、返事は返ってこなかった。誰かの悪戯だろうか。私はそっと受話器を下ろし――
バチバチバチバチバチッ
「……っ!?」
首元にものすごい電撃が走る。息が一瞬できなくなるような感覚にまで陥った。
あれ……私……
視界がだんだんと薄れていき、意識が朦朧としていく……
最後に見たのは、ジャージ姿のマスクを被った人がスタンガンを持った人だった……
私はそこで意識を失った。




