〜プロローグ〜 ハジメテノデスカイ ⑪
「ねぇ、そこまでしてなんでうちらを監禁したいの?それに、私たちを殺したいのならさっさと殺せばいいじゃない」
海ちゃん……?ずっと黙っていた海ちゃんが口を開いた。とても落ち着いている。
でも、その落ち着き方は橋田さんとは少し違っていた。
「ちょっ、やめてよ海ちゃん!」
花ちゃんも驚いた顔をして海ちゃんを止める。
たしかに、これ以上彼女を刺激させたら何をやらかすかわからない。
「それ聞かれちゃうか〜♡仕方ない教えよう♡だって私自分で殺すより、殺し合ってるのを見てるのが好きなんだ♡意外?♡ 意外でしょ?♡」
「そういうことね、じゃあ、貴方を殺せばうちらは助かるのね」
海ちゃんは何食わぬ顔で殺戮ちゃんと会話をする。
この子は殺戮ちゃんが怖くないの?
「ちょ、突っ込めよ♡殺戮ちゃんって名前なのに、殺しあってるのを見てるのが好きなんかい、とかって突っ込めよ♡嘘だよ♡殺す方が好きだよ♡」
「……」
海ちゃんは無視をして冷たい目で殺戮ちゃんを見る。
なんというか、対応がうまいな。
「あーあ、それにしても少しは賢い子もいたなって思ったのに残念だなー♡」
殺戮ちゃんは残念そうに肩を落とした。賢い子っていうのは海ちゃんのことだろう。
でも、残念って……
「貴方たちには私を殺せない理由が3つある♡1つ、出口は私しか開けられない♡2つ、魔法を使える私には敵わない♡3つ、校則で禁止されている♡」
魔法?そんなのどこのファンタジーの話なの?
「貴方、さっき畑山先生の首を爆発させたときに出した杖は魔法よね?」
いや、思えばそうだ。さっき彼女はどこからか杖のようなものを出して、約8メートル先にいる畑山さんの首を爆発させた。なにかのマジックにしては手がかかりすぎる。
だとしたら本当に魔法を?
「もちろん♡あと、暴力を振るったら殺戮しちゃうから♡畑山ちゃんみたいにね♡まあ、生きてるけど♡」
「ひぃっ!」
花ちゃんは震え上がる。この子には敵わない。
たとえ、この中の誰かが肉弾戦であの子に戦ったとしても、あの子には魔法がある。
そんな子に勝てるはずが……
「あと監視カメラとかまだ開かないドアとか壊さないでね♡一番心配なのがそこに転がってる畑山ちゃんだけど♡熱血で体育教師でしょ♡もう壊しそうじゃーん♡」
「……」
畑山さんは目だけがぐるぐると動き、反応する。
あれどうにかならないのかな?
「もう、殺戮ちゃん疲れちゃったから発射準備するね〜♡」
発射?
「なんのことですか〜」
「ここのスローテッドロケットは、宇宙に向かって飛び立ちます♡」
これも本当なのだろうか?私たちは宇宙に行ってしまうのだろうか?
私には、疑うという考えが消えていた。
「そんなまさか、酸素もないのに……」
それは、川山さんもそうだった。
でも、あまりにも非現実すぎて話についていけなかった。
「酸素なら宇宙にもあるから安心してね〜♡」
「そんな非科学的なこと、ありえない」
「どうして酸素がないのに生きていけるって保証できるの?」
彼女たちは質問ばりしていた。この際、酸素がどうとかどうでもよかった。 今、私たちがここにいるというのが問題なのだから。
「どうしてだろうね〜♡」
殺戮ちゃんは話を濁し始めた。
何か、やましい考えでもあるのだろうか。
でも、それを知ったところでこの状況がどうにかなるというわけでもない。考えるだけ無駄なのかもしれない。
「宇宙への修学旅行。11人分って予算がシャレにならねえんじゃねぇか?」
と思っていたけど、橋田さんはもっとどうでもいいことを聞き出した。
社長だからお金のことしか頭にないのかな?こんな時までお金のことを考えるなんて……
「細かいことは気にしない気にしない!♡」
殺戮ちゃんは細かくないと言い切った。
この子はさっきからずっとこんなテンションだけど、本当におかしい子なのかな?
「いや、細かくないでしょ」
彩里ちゃんは苦笑いをして言った。
私は殺戮ちゃんがどこか無理をしているように感じた。
いや、そんなはずはない。
平気で人を殺すような人に無理もしているも何もないか。
あれ?
おかしい。
私は頭の中に不意に疑問が浮かび、ケータイをもう一度開き、(束縛)というところをもう一度見る。
「結衣ちゃんどうしたの?」
それは、最初の項目にあった。
「ちょっと待って。よくよく読み返してみれば束縛1だけど、私たちは11人なのに10人をクズとみなすためってどういうこと? クズってところが気に入らないけど、11人でしょ、私たち」
私はあたりを見渡した。殺戮ちゃんを除いて、この場にいるのは10人。
1人足りない?
「鋭いね〜♡そういう子嫌いじゃないよ♡だから特別に教えてあげる♡貴方たちの中には裏切り者がいまーす♡」
裏切り者?
「何よそれ。誰よ、手を挙げなさいよ」
上村さんもあたりを見渡す。だが、手を挙げる人はいなかった。
「あんたこそバカか? 裏切り者が手を挙げるわけないだろう」
確かにそうだ。もし手を挙げたら、その裏切り者はなんらかの不利益を得ることになってしまう。
そもそも、裏切り者って何?殺戮ちゃん側に付いている人がこの中にいるってこと?
「そもそも、裏切り者がいないって可能性はないんですか〜」
「じゃあ、信じるか信じないかはそれぞれに任せるよ♡」
謎が次々と増える中、その後沈黙が続いた。
裏切り者……
11匹の羊の中に1匹の狼が混ざっている。裏切り者に殺されるかもしれないという恐怖とともに過ごすということ?
じゃあ、クズって何?もしかしたらその逆で11匹の狼の中に1匹の羊が混ざってる?
そんなことを考えていたら、殺戮ちゃんが口を開いた。
「えー、ごほん♡まあ、個人個人思うことはあると思うけど、私も疲れちゃったからこれにて事前指導は終わり♡私もそろそろ休もうと思うわ♡」
「ちょっと、畑山先生を元に戻してよ」
花ちゃんは戻してって言っているけど、普通の人間なら戻す――
バラバラになった身体をくっつけるなんて不可能なはず。
「やだよ、戻せれるわけないじゃん♡一度死んだ人間だよ♡」
「え、嘘……」
戻せないということはずっとあの身体ってこと?
そんなの、あんまりだよ……
「うーそうーそ♡やーい騙されたー♡」
笑えない冗談だ。
そういうと、バラバラになっている畑山さんの近くに行って魔法をかけると、畑山さんのぐちゃぐちゃにかった身体がくっつき、首と頭もくっついていった。
「うおー! 何が殺戮だ! ふざけるなぁーーー! 黙って聞いていればぐちぐちと!」
畑山さんは立ち上がり、大きく口を開いた。
「畑山先生っ!」
「聞こえていたんですね〜」
畑山さんはさっきの会話を全て聞いたいた。
「まあ、顔を爆発させただけで、頭とか目とかは働いてるからね〜♡あ、ついでにさっき壊したドアも直しとこ♡」
殺戮ちゃんはまた呪文のようなものを唱え出し、崩れたブロックが積み重なりドアもみるみるうちに直っていった。
もう、言葉がでなかった。
「じゃあ、殺戮って言ってもすぐに殺戮が起きたら困るから君たちには……眠ってもらうね♡」
どこからかスプレーをかけるような音が聞こえる。しばらくすると、あたりは煙に包まれた。
「なに? なんなの!?」
声は聞こえるが、周りは何も見えなかった。
あれ…なんだか眠くなってきたな…
「催眠ガス……か……」
どうしよう……
頭が働かなくなってきた……
「みん……な……」
煙はあっという間に部屋に充満し、私達は意識を失った。
こうして、私達の地獄のような生活が始まる。
絶望の中に本当に光という名の希望は輝くのだろうか。
これが、絶望。
本当の希望はまだ始まらない。
「本当の絶望すらもね」
プロローグ 〜ハジメテノデスカイ〜 ―END―