僕と彼女の放課後
どうも、もち米というものです。今回は頑張って恋愛小説のようなものを書いてみました。最後まで見てくださると嬉しいです。
今は冬始め、段々と冬の寒さが押し寄せてくる時期だ。高校生だと、三年生はそろそろ進学や就職するなど個人個人で考えているだろう。かく言う僕、垣原壮馬もその一人であり、どちらにしようか未だ悩んでいる。
登校中では、周りから様々な声が聞こえる。どこの大学に行くだとか、どこの会社に就職するだとか。皆もう決めているらしい。けど、僕はまだそれを決められそうにない。もう時間は無いと言うのに。
学校に着くと、真っ先に僕に会いに来る人物がいる。
「おはよう垣原くん。今日も寒かったわね。そろそろ防寒具を身につけて来た方がいいかも知れないわね。」
彼女の名前は篠川美桜さん。僕の同級生だ。彼女とは二年の頃に面識をもった。教室で本を読んでると、彼女が本の題名を聞いてきたのだ。そこからは色々と本について二人で話すようになっていた。時には篠川さんの友達も交ぜて。
さて、彼女が僕に挨拶をしに来ると、前々からなのだがよく思わない者が多い。何故なら、彼女はこの学校で一番有名なのだから。
容姿端麗、頭脳明細、運動神経もいい。そんな彼女は
学校から沢山の人気を得ているのだ。
僕は何度も周りから嫉妬や不満を感じさせる視線を受けてきたが、流石に慣れてしまった。
「うん、そうだね。僕も登校中結構寒かったよ。風邪にかかったら今の時期大変だしね。」
そう彼女に返しておく。僕が挨拶を返すと、篠川さんはまたね、と言って僕の席を去った。ホームルームまでやる事は無いので、僕はいつもの様に一人で本を読み始める。
僕が一番好きなのは本を読むときだ。この時間はいい。篠川さんの他に親しい人物がいる訳でもないから、誰にも邪魔されずにただ静かに一人本を読む。本の面白さをより感じられ、更に少しリラックスも出来る。これが好きな理由だ。
ホームルームの時間までくると僕は本を仕舞ったのだが、教室に担任ではない教師が入ってきた。
「今日は担任の橋下先生が風邪で休まれたので、代わりにホームルームをやらせてもらいます。では、起立。」
どうやら今日は担任の橋下先生が休みらしく、他の教師の号令でホームルームが始まった。連絡事項は無かったらしく、直ぐに終わった。
今日はそう言えば六限目に避難訓練があるらしい。少し面倒だ。僕はそれまでの授業はなるべくのんびりと受けようと思った。そう思っていると、篠川さんが再び僕の席にやってきた。
「垣原くん、最近本選びに悩んでいるのだけど、おすすめの本は無いかしら?」
おすすめの本か。今までも聞かれてきたが、今回はあまりおすすめ出来る本がない。いや、一つだけあった。
「『冬の空』っていう最近出版された本かな。あの作品を書いたのが有名な田中先生っていう事もあるし、何より実際に読んでみたら、感情表現が豊かになっていて、主人公の日々に苦悩する姿が背景を交えてしっかりと表現されていたんだ。今の時期出てる本の中だったらこれがおすすめかな。」
因みに田中先生というのは有名な作家の先生のことである。数々の名作を書いてきた大作家だ。この田中先生の本は基本的に完売するのだが、僕はいち早く購入しに行って手に入れた。今の時期ではあれば、そろそろ入荷されている事だろう。
「ありがとう。買いに行ってみるわ。説明も聞いてる限りとても面白そうだわ。そうだ、前薦めてくれた『夏夜に輝く月』。読み終わったから感想を聞いて欲しいのだけれど、頼める?」
毎度の事だが、彼女は自分が読んだ本の感想を僕に聞かせたがる。単純に僕だけしかこういうのが聞けないというのが大きいのだが。
「うん。今日の放課後だったら聞けるよ。それでいいかな?」
「ええ、それでお願いするわ。じゃあ、また放課後に会いましょう。」
そう言って彼女は再び僕の席を離れていった。取り敢えず放課後に彼女から感想を聞くとしよう。
僕は一限目の授業の為に準備をし始める。さて、頑張るか。
六限目からある避難訓練も終わり、今僕は掃除をしている。この時間は正直暇だ。掃除という面白味の無い事を十五分も続けるのだ。めんどくさい等とは思っていないが、この時間が一番退屈である。
キーンコーンカーンコーン......
掃除終了のチャイムが鳴る。漸く終わったようだ。これから帰りのホームルームが最後にある。それが終わったら帰るか部活に行くか。僕の場合今日は篠川さんの本の感想を聞くのだが。
「起立、これでホームルームを終わります。礼。」
代理の教師の号令がかかり、ホームルームが終わった。
僕はホームルームが終わってから、篠川さんと一緒に空き教室へと行く。毎回篠川さんから感想を聞く時は空き教室でやっている。
「毎回ごめんなさいね。」
「いや、いいよ。僕も自分が薦めた本の感想聞けるのは嬉しいしね。」
そう話していると、空き教室についた。ドアを開けて、中に入る。中に入って椅子に腰掛けると、篠川さんが感想を言い始めた。
「じゃあ、言うわね。先ず、一番いいと思った場面は_____」
そこから十五分位篠川さんは感想を言っていた。良い点について語った後、どこに着目して読めばいいか等を言っていた。
篠川さんは頭脳明細という事もあり、本の良い点を挙げ、そしてどこに注目すればいいのか等しっかりと要点を纏められている。彼女の感想を聞く度に、自分がまだまだだと言うの感じられるのだ。
「改めて、非常に面白かったわ。次の『冬の空』も読み終わったら感想を聞いてもらえるかしら。」
「うん、わかった。じゃあそれまでにまた新しいおすすめの本でも探しておくよ。」
「助かるわ。」
こうして、僕と彼女の二十分程度の時間が終了した。その後はお互いに軽く挨拶をして別れた。
どうでもいい話だが、僕が帰り道を一人歩いていると、唐突に雪が降ってきた。こんな冬の始めに雪が降ってくることなんて、珍しい。今年の冬は寒そうだ。
家に着くと、僕は一人だ。両親は三年前、高校受験の時に交通事故で亡くなってしまった。その為、炊事洗濯までは当然ながら僕がやっている。掃除がつまらないというのは変わらないのだが。
さて、夕飯の準備で今日のメニューは何にしようと考えていると、ある人物からメールが届いた。スマホのメールの所を開いてみると、篠川さんだった。
『件名:今度の休日について
From:篠川美桜
本文
今週の休日はお暇でしょうか?時間があれば、教えてください。丁度今度の試験があるので、とある問題が分からないので解説してほしいのです。』
そんなメールだった。でも、篠川さんに解けない問題.....僕に解けるんだろうか?恐らく、僕が本を読んでいて読解力があると思っていて、とある文章問題が解けなかったからどういう解き方をすればいいのか聞くつもりなのだろう。前も同じような事があった。
僕としては断る理由は無かったので、了承のメールを送っておいた。
さて、メールを確認するついでにメニューを考えたので取り掛かることにしよう。因みに今日のメニューは肉を使った料理だ。
休日となり、篠川さんの試験勉強に付き合う日がやってきた。あのメールのあと、集合場所など送られてきたため、今僕は図書館の近くの公園で彼女が来るのを待っている。
そうこうしていると、私服の篠川さんがやってきた。何時もは制服なのだが、今回は私服のようだ。かく言う僕もそうなのだが。
「ごめんなさい、待たせてしまったかしら。」
「いや、大丈夫だよ。僕もさっき来たばかりだから。」
「なら、集まったし、図書館に行きましょうか。」
「うん。」
行くと言っても、図書館はこの公園から十五メートルも離れていないのだが。
「ところで、教えて欲しいって言ってた問題って何かの文章問題だよね?僕に聞くようなことなんでそれ位だし。」
「それであってるけれど、毎回思うのだけど謙遜しすぎでは無いかしら?だって、何時も私を褒めるけれど、こと勉強に関してなら貴方の方が上じゃない。」
彼女の言う通り、これでも僕は基本的に学年首席だ。でも、そこまで実力に差がある訳じゃない。単純だ。毎回のテストで僕は前日に普段より多く学習時間をとっているのだ。これにより、前日で覚える事の方が危機感をもってる為多いのだ。かと言って、テストの後は知識が無くなるわけでは無いが。
「そうは言ってもだよ。じゃあ、取り敢えず今日も初めにどこに着目すればいいのか教えるね。その後に解く時の注意点とか教えるよ。」
「ええ、それで頼むわ。」
今日の日程を話していると図書館に到着した。中に入って適当な席に座る。
「じゃあ、始めようか。」
僕の合図で勉強会は始まった。
「まず、ここなのだけど....」
「この問題なら、先ずここの一文に注目してみて。そしたら_____」
二時間程僕と篠川さんは勉強をしていた。
「そろそろ終わろうか。」
「そうね、終わりましょう。」
勉強会が終了した。その後は普通に別々で帰ったのだが、そう言えば篠川さんがこんな事を言っていた。
「今日はありがとね。それで、今年で最後なのだしそろそろお互いに名前で呼ばないかしら?私は壮馬くんって呼ぶから。」
篠川さんからそんな言葉が出てきたのは今までで初めてだった。特に気負う事は無かったので、美桜さんと呼ぶ事にした。僕がそう言うと美桜さんは何か呟いていたが、気にしないようにしていた。
帰り道での僕は自分らしくも無く、鼻歌を口ずさみながら上機嫌で帰っていた。どうやら予想以上に美桜さんとの名前呼びが嬉しかったようで。
そんな帰り道の夕焼けは何時もよりも眩しく見えた気がした。
休日が終わり、今日は学校へと行っていたのだが、少し驚くことがあった。
「えー、今日は篠川は風邪で休みだそうだ。皆も気をつけるように。では、ホームルームを終わる。」
担任の口から、そんな言葉がでた。驚いた、あの美桜さんが風邪をひくなんて。家を知ってるし、一応見舞いにでも行っておこうか?いや、流石に図々しいだろうからやめておこう。
その日の一日はいつもより早く過ぎた気がした。僕がふと気付くともう六限目が終わっていた。ただし勘違いしないで欲しいのは、僕は寝ていない。
ホームルームを終わらせてさっさと帰ろうと思っていると、終了後に担任からこんなことを言われた。
「垣原、良かったら配布物とか篠川の家に届けてやってくれないか。あいつと仲のいい女子が今日帰っててな。頼めるか?」
断る理由もないので承諾した。
さて、今僕は美桜さんの家の前まで来たわけなのだが。前にも来たことがある筈なのに妙に緊張していた。
取り敢えずインターホンを鳴らすことにした。鳴らすと直ぐに声が聞こえてきた。
「どちら様でしょうか。」
「篠川さんのクラスメイトの垣原です。配布物などを届けに来ました。」
そう言うと、扉が開いた。出てきたのは美桜さんだった。
「来てくれてありがとう、壮馬くん。折角だから上がっていって。」
「いや、流石に悪いよ。篠川さんも風邪なんだし、安静にしとかなきゃ。」
流石に風邪をひいている相手の家に上がらせてもらうのは悪いので、遠慮しておく。
「来てくれたのに悪いわ。上がっていってくれないかしら?」
ここまで言われると上がっていった方が良さそうだ。せっかくだから上がらせてもらおう。
「じゃあ、お言葉に甘えて。でも、長居は悪いから早めに帰るよ。」
「わかったわ。」
そうして、僕は彼女の家に上がらせてもらった。
「来てくれて嬉しいわ。ちょうど暇をしてたところだから、本の話でもしてくれない?」
「いいよ。」
美桜さんがそう言うので、話し始めることにした。
「田中先生近々が新しい本を書き始めるらしいんだけど、今回のは今までに比べて最高傑作かもしれないって噂されてるんだ。少しだけ本の概要を田中先生が公開したんだけど、今までのに比べて話の重厚感、そして話の展開も遥かに広がる、そんな作品だったよ。概要の一部だけでこれだけ分かるから、現物は凄い出来なんだと思う。」
僕の話を聞いた美桜さんは、目を輝かせて楽しみにしている様子だった。
「それは楽しみね.....是非読みたいわ。因みにいつ頃出そうなの?」
「来年らしいよ。正月が少し明けたときに出版するって田中先生は言ってたよ。」
「受験の時期ね....でも、どうにか本は手に入れたいわね。取り敢えず、楽しみにしておくわ。」
「だね。」
聴き終わった美桜さんは満足そうにしていたので、僕も嬉しい限りだった。
「じゃあ、僕はそろそろ帰ることにするよ。」
「ええ、話をしてくれてありがとね。」
「どういたまして。じゃあ、お大事にね。なるべく早く元気になってね。」
「ありがとう。じゃあね。」
そう言って僕は美桜さんの家から出た。こうやって美桜さんと本の話をしたりするだけでも楽しいので、配布物を持ってきて正解だった。
美桜さんとの会話を少し思い出したながら帰る帰り道は、少し空の明るい雪景色だった。降ってくる雪は心無しか、冷たい筈なのに暖かさを感じたような気がした。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
作品はあと4話ほど出そうと思っています。二人の関係の変化を楽しみにしていて下さい。
では、また次回。