宇宙の初夏
#深夜のN分小説執筆 2018年 6月 23日分
使用お題:「夏のはじまり」「踏切」「クリームソーダ」
泡があった。外から見ることができたなら、そう言っただろう。
泡がぶつかり、そこに新たな泡が生まれた。その泡は熱かった。生まれた瞬間は冷たかったのかもしれなかった。そしてまた冷えていった。
泡の中に光が見えた。それは恒星と呼ばれるものだった。巨大な光はすぐに消え、多くは名残りを残し、いくらかは暗黒となった。
その暗黒が集まり、その周りに名残りが集まった。その名残りからまた光が見えた。それは銀河と呼ばれるものだった。
ここまでが春だった。
もう一、二世代がたった頃だった。惑星上に、蠢くものが現れ始めていた。蠢くものにとっての、そしてこの泡の夏が始まろうかとしていた。
そこには大きな障害があった。多くの蠢くものは、蠢くまま消えていった。それでも蠢くものは、常に上を見上げていた。だが、その壁はあまりに厚く、上はあまりに遠かった。蠢くもののどれかは、開かずの踏切のようだといったかもしれない。
我々も見上げていた。おそらく数万年は見上げていた。そして、そのあまりの遠さも知っていた。
だから、人々は言い始めた。
「持続可能な世界を」
その世界という言葉には、上は含まれていなかった。上のさらに向こうも含まれていなかった。他の泡も、もちろん含まれていなかった。
私は目の前にあったクリームソーダを一口飲み、思った。
「金の無駄遣いだ」
およそほとんどの人がそう思った。
そうして、我々もほかの蠢くものと同じように消えていこうとしていた。
了