幻視の少女
#深夜のN分小説執筆 2018年 5月 12日分
使用お題: 「ジムノペディ」「文学少女」「独り言」
「飽きた」
プロット構築用に開いた表計算のシートが埋まらなかった。他のネタ帳としているシートも開き、眺めてはみたものの、惹かれるものはなかった。
「作風を変えてみようか」
新たにワープロを開き、しばらく眺めていた。
真っ白な画面に、少女が踊っていた。
「女性が主人公になるものは少なかったな」
自分が書いたものを思い出してみた。
ディスプレイ上に幻視として現れている少女のダンスは、派手でも激しくもなかったが、目を離せなかった。
ふと、着想が湧いた。
わたしは幸せではなかったと思う。なぜって、学校も本もみんな嫌いだったから。嫌いっていうのはちょっと違うかな。学校はほんとに嫌いだったけど。本は、教科書のほかにはあんまり読んだことがなかったし。
学校のみんなは、体のどこかにスロットを埋め込んでいて、そのスロットは頭の中に繋がっていて、みんなはスロットにチップを入れて教科書を読んでいた。わたしも、スロットが欲しかったけど、お父さんもお母さんも、もっと大きくなってからって言ってばかりだった。お父さんもお母さんもスロットを着けてるのに。そりゃぁ、そうやって教科書なんかを読んでるみんなは、ちょっと気持ち悪いと思うこともあったけど。でも、ゲームもできるし、ほかにもいろいろできる。まぁ、みんなはそう言ってる。
お父さんとお母さんの言ってることも、あんまりいい言い訳じゃないと思う。だって、早い内にスロットを着けたほうが、脳みそとうまく繋がるって聞いたことある。
だから、今度の誕生日には絶対にスロットを着けてもらうって約束した。
「せっかくの誕生日なのに、病院で過ごすの?」
お母さんはそう言っていた。だけど、わたしは絶対に絶対に絶対にって譲らなかった。
手術が終わって、誕生日も過ぎて、それから退院した。遅れた誕生日パーティで、お父さんが一つのチップをくれた。スロットとチップのマニュアル。やっと本物のチップを試せる。嬉しかった。病院は退屈だった。病院では毎日毎日、頭の中に配線を伸ばす訓練ばっかりだった。
パーティが終わってすぐに、わたしは自分の部屋に戻った。ベッドに寝っ転がって、家の中の接続ポイントに接続した。それで出てきたのは、検索画面だった。
「へんな感じ」
眼の前に出てくるんじゃなくて、なんかおでこのとこに見えてるみたいだった。
でも、なにをしたいっていうこともなかった。とりあえず、学校の図書室を見てみようかな。いろいろありそうだし。
学校の図書室に繋げると、不思議な感じだった。図書室の中に居るみたいだった。
わたしは、図書室の中を歩いた。正直、なにを読めばいいのかわからなかった。だって、こんなにいっぱい本があるんだから。
「あ、これ、教科書に出てたの」
本棚から一冊を取り出した。
わたしは、ベッドの上に戻っていた。でも、さっき引っ張り出した一冊は、おでこのところに見えたままだった。わたしは、その本を読み始めた。
「こんなのばっかりなの?」
何冊も読んで、わたしは思った。だって、ぜんぜんつまない。なにが面白くて、名作って言われてるんだろ? わたしにはわからなかった。何時間も無駄にしたように思えた。
「もっとおもしろいの、ないかな?」
1ページめくった時、思いついたことがあった。
「わたしが書いてもいいんじゃないの?」
ここは不思議な世界。みんな、つまらない本を面白いって言う、変な感じにあべこべの世界。
「あれ?」
どうしよう。この後、なにを書けばいいんだろ?
だから、つまらないものが面白くて、面白いものはつまらないって言わないといけない世界。
なんか書けるかも。
面白い物語はたくさんあるのに、み〜んな、面白い物語はつまらないって言う。子供の読むものだって言う。
じゃぁ、大人が読む、面白い物語ってなんだと思う?
それはね、役に立つ物語。どうやったら人を自分の言いなりにできるかとか、どうやったら人を騙せるかとか。そんな物語。
本当にそうなのかな? 学校の図書室にも、面白い物語があるんじゃないかな? まだ、わたしが読んでないだけで。だったら、教科書に出てくるような物語じゃない本も読んでみようかな。
「そうだよ」
展開はまだ見えていないが、少女と面白い物語を出会わせてやらないと。
幻視の少女は、静かに踊っていた。幻視の少女は、わたしにそれを祈っているのだろうか。それとも、出会ったお礼を踊っているのだろうか。
少女の舞いを幻視しながら、私は筆を進めた。
了