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新曲

 久々のドラム、久々のベース、久々のボーカルの音が耳に入ってきて心地よかった。このメンバーで奏でる音楽はやっぱり俺の好みだなと思いながらギターをかき鳴らした。

 大学生ってこんなものなのかと今は思っている。みんなで酒を飲んで、お互い好きな音楽紹介して、彼氏彼女が出来ないかなって喚き、そして気が付いたら社会に出なければならなくなる。嫌なことも考えないといけない時も来るはずだけど、今はこうやって無心に音楽に没頭出来る。恐らく、社会に出た後で、「大学生って結局良かったなぁ」とか言ってるんだろう。

 色々な考えが頭の中で巡っていたら、もう一曲弾き終わっていた。何だか今日の練習はいつもよりも楽しく感じた。それが、俺の心が理由もなく前向きになったからなのか、はたまた、久々の練習が楽しくなってきたのかは、分からないが。

 理由もなく楽しくなる時が昔よりも減った気がしていたが、こうやって久々にその感覚が味わえていることにまた、楽しくなっていた。

 この後も今までやった事のある曲を幾つか合わせた。オリジナルの曲からメジャーバンドのコピーまで、色んな曲をやった。一時間ぐらい弾いた後に、新曲の打ち合わせを始めた。

「今回の曲なんだけど、今までのオリジナルではなかった由奈にギターボーカルをしてもらおうと思ってる。それで、今回は由奈にギターを持ってきてもらった訳だけど」

 俺は取り敢えず曲全体の流れの説明に取り掛かった。まずはイントロのコード進行、その後のAメロへと繋げる各楽器の動き、そして盛り上がりを見せながらのサビへの移行。いつもオリジナルを作っている時のように事細かに説明をしていく。

「そう言えば」

 三沢が口を開いた。

「今回の曲にも、前に作った曲と同じコード進行を入れてるんだな。でも、全然その後の展開が違っていて、それはそれで面白いけどな」

「あ、ほんとだ。これって松本の癖てきなやつだよね!」

 三沢に言われるまで全く気付いていなかった。確かに調が違うだけで、同じコード進行を入れている。俺の主観でしかないのだが、このコード進行に俺は何故か懐かしさを感じてしまう。それが何故なのかは分からない。だが、このコード進行を弾いている間は昔の記憶が戻ったような錯覚になってどこか安心してしまう。

「そうだな。俺の癖ってやつだよ。まぁ、悪くはないだろ?」

「歌詞の青春感も相まって最高って感じじゃね?」

 三沢の調子のいい返しで結局、今回の曲も俺の意見が殆どそのまま通ることになった。

 由奈は早速ギターを取り出し、ギターボーカルの練習をする。俺も自分で作った曲といえども、入念に構成に間違いがないか確認した。曲を作るとどうしても、自分のイメージを違ってくる時がある。俺はその幅をなるべく狭めたいと思った。

「よーし。取り合えず、歌詞なしで楽器だけで合わせてみっか」

 大原の掛け声で個々の練習が終わった。今まで弾いた曲よりもテンポはかなり遅めだ。前の楽曲のテンポに引っ張られずに、余裕をもって弾くことが求められる。

「いくぞ」

 最初はベースとドラムの掛け合いから始まった。そして、ギターが入り、本来ならば途中から由奈の声が聞こえてくる。俺の予想していたよりもかなり良かった。実際に合わせてみないと分からないものである。

 一回合わせ終わったあとの顔はみんな晴れ晴れしていた。基本的に「暗い」と言われ続けている俺も、無意識の内に笑みがこぼれていた。

「この曲、案外良くね?」

 三沢が周りをキョロキョロしながら言った。俺もそれにはすぐに頷いた。今までスタジオで鳴らした曲の中で一番記憶に残るような曲が出来た。そんな気がした。

「よっしゃ。これはガッツリ練習して、今度のライブに間に合わせようぜ」

「何かやる気湧いてきた! ギタボ頑張んないとな」

 スタジオ「A」の空気が急激に良くなった気がした。

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