ある日の飲み会
今日は珍しく、ドラム担当の大原がバンドメンバーで居酒屋で呑もうと誘ってきた。ギターを一人暮らしのアパートに丁寧に置いて、待ち合わせ場所へと向かった。そもそも、今日は無性にお酒を飲みたかった。
「いつもの居酒屋でいいか?」
大原が聞く。
「俺はいいぜ! あそこの焼き鳥めっちゃ美味いから」
ベースの三沢がうるさい声で答える。
「俺も賛成」
俺が答える。
「私も賛成」
バンド内唯一女性の、ボーカル由奈が答えた。
「由奈は酒癖悪いからなぁ。いっつも愚痴こぼすからなぁ」
三沢が由奈に向かってちょっかいを出す。由奈は頬を膨らまして三沢につっかかった。
「うっさい! あんただって、この前一人で飲みまくって吐きまくってたくせに」
俺はその様子を唯々、何も生まない無意味な会話だと思いながら横目に見た。周りからすれば、いたって普通な大学生の会話だと言われるものだとは知っている。だけど、それを冷たく見てしまうのが俺だった。直さないといけない癖だと分かっているのに、中々直らない。いや、すぐに直せるものならば癖にはならないか。
「どっちもどっちじゃね……?」
無意識に口から言葉がこぼれていた。さっきまで言い合いをしていた二人は同時にこっちを向くなり、口を揃えて俺にこう言い放った。
「お前は飲み会の時くらい明るく話せ!」
「おーい、そろそろ飲むぞー」
大原はずるずると由奈と三沢を引きずって居酒屋へと入っていった。
「おい、まだ話は終わってねぇぞ」
「今日は三沢に愚痴ってゲロッてやる!」
「由奈のゲロなんて死んでも浴びたくねぇ」
まぁ何がともあれ、こんなメンバーでバンドをやっている、二十一歳の学生だ。