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図書館住まいの知識喰らい  作者: 花炭 白
第一章. 終焉と奇跡の書
2/20

叡知

目を開けると見慣れた天井、毎日のように寝泊まりしている研究室の天井だ。

さて、今日も本たちに囲まれながら作業を....


「――――っ!!」


昨晩の出来事がフラッシュバックした。あれは...夢か?

痛みはない。痺れもない。


だがその考えは俺のすぐ側にあったあるものによって打ち砕かれた。


「――っ、うわっ....これは...」


俺が昨晩着ていたシャツだ。ご丁寧に血痕まで付いている。


「夢、なんて甘いものじゃないよ」

「シオリさん...いたんですか」

頭が追いつかない。状況が整理できない。

「...なんで俺、生きてるんですかね」

「これだよ」

そう言ってシオリさんは、1冊本を投げた。

それを受け止め、表紙を見ると昨日の出来事がまざまざと思い出される。


「これって、本物なんですか?」

その本には『叡智サピエンティア』と記されている。

「ああ、正真正銘の“魔導書”だよ」

「一体どういうことですか、いや、その前に、賊の正体は?というか俺刺されましたよね、傷が....」

「落ち着きたまえ。私だって全容は把握していないんだから」

「...すいません」

「まあいい」


「...私が来た時、君は既に背中を一突きされていた。傷の状態から、おそらく毒性のある得物だろう」

「ならますます、俺が生きている理由がわかりません」

「その本のおかげだよ」

「魔導書ってそんな効果があるんですか...」

「いや、魔導書そのものに治癒能力というものは無い」

「じゃあなんで...」

「魔導書は、本来生命が持たざる超次的な力を与えるからね。能力を取得させるために、一時的にその者の生命力を活性化させるんだよ。代謝や自然治癒力が底上げされ、毒素の分解スピードが速くなったのさ。あくまで副次的な効果ってことだ」

「それじゃあ、俺は」

「そう、君はその『叡智サピエンティア』の力を得たんだよ」

説明をされる前より、むしろ混乱した気がする。僕が魔導書を?世界に10冊しかない、人智を超えた力を手に入れたというのか?俺はただの司書だぞ...

「まあ信じられないのも無理はない」

「『叡智サピエンティア』の能力って...」

「君が今持っている、それにすべて書いてあるよ」

「そうですか...」

「.....見ないのかい?」

「今見ても頭が追いつかないでしょうし」

「賢明だな」

「.....ところで、賊の正体は分かってるんですか?」

「軍が目星をつけている反乱分子のブラックリストの誰かだろうな」

「あの場には、元老院の徽章が落ちてました」

「うむ、後で確認しておこう」

「なんで保管庫にいたんでしょうか」

「あそこには機密文書がたくさんある。クーデターやテロを起こす上で役立つものも沢山あるさ」


「シオリさんは...どうしてあの場にいたんですか」

「.....。」

「帰ったはずでしたよね?」

「ああ」

「何故ですか」

「...」

「シオリさん」

「分かった分かった。実はあの晩の図書館の監視法具には複数人の生体反応が確認されていたんだよ」

「賊は監視法具を潰していなかったんですか?」

「いや、幻惑の霊術がかけられていたよ。反応を確認したのは私がこっそり設置していた法具だ」

「なんでそんなものを?」

「...言わなきゃダメか?」

「状況を察してください」

「...毎晩のように泊まり込んでいた君が心配だったんだよ」

「...へっ?」

「これ以上言わせるな」

「はい」


「まあ、ありがとうございました。でもいいんですか?魔導書を使って」

「いい訳ないだろう。あの時、君を助けるためにはあれしか方法は無かったからな」

「はあ」

「このことはしばらく他言無用にな」

「わかりました」

「じゃあ私は軍の本部へ行くから、また後で」

「...はい」


シオリさんは行ってしまった。正直一人でいるのは怖いが、まあだいぶ落ち着いた。30分ほどぼーっとした後、俺は自分が握っている本を開いてみた。


その本には“力”の詳細が書かれていた。


「他人の知識を、奪う...?」


まとめるとこの本の能力は、他の生命体が持つ知識、情報を奪取するものらしい。普遍性のある知識、情報のみを奪い、そのものの記憶は奪えない。記憶が絡んでいる知識は、その部分のみを切り取り、自分のものにする。

奪う知識の量は対象に触れる時間に比例し、10秒触ることで対象の持つすべての知識が得られる。知識は対象が新しく覚えた順に奪っていく。

また、能力所有者の忘却機能は変わっていないので、奪った知識を忘れることも当然の事ながらある。


「なるほどねえ」


一つ気になるのは、この本の終盤に書かれていた内容。

(■■■■■■■■■■■■■■。■■■■■■■■■■■。)

黒く潰されているのだ。

ここには何と書かれていたのだろうか。

シオリさんの『高潔ノビリターティス』にはこんな項目あったのかなあ。



とりあえず、自分の置かれている状況を整理しよう。


俺は昨晩、賊(恐らく元老院関係者)に襲われ、生死をさまよった。シオリさんのおかげで命を取り留めるも、魔導書所有者になる。力は他人の知識を奪うこと。


「....はぁ」

そりゃため息も出ますよ。だって俺、ただの司書ですよ?疲れましたよ。17歳にはきつい所業だ。


――二度寝しよう。


その日の仕事はすっぽかすことにした。



目を覚ますと窓からは夕日がさしていた。もう夕方か。

枕元には分厚く、そして豪奢な装丁の本があり、あの出来事が夢でないことを否が応でも信じさせられる。


「シオリさんが帰ってくるまで、読んでおくか」

自分の解釈の錯誤や見落としがないよう魔導書を何度も熟読した。


2周目が終わった頃、シオリさんが戻ってきた。



「お疲れです」

「うん、だいぶ落ち着いたようだね」

「ええ」

「軍へ報告を済ませてきた。それと例の徽章の持ち主についてだが」

「はい」

「元老院のアーノルド・グレームという男が目をつけられている。奴の良くない噂は軍の間でもよく聞くが、国に対する多額の上納金で今の地位を維持しているらしい」

「そうですか」

「.....まだ不安か?」

「ええ。そいつが、俺が生きていることを知ったら、また襲われるんじゃないかっていう恐怖が...」

「そうだな。私の監視法具は個人を判別が出来ないから証拠として弱い。軍の将官が盗撮紛いの行為をしたというのも、おおっぴらに言えることではないからな。徽章は持ち去られているし、君を死亡扱いにすることも出来ない。元老院である奴が君の生存を知るのも時間の問題だな」

「一番手っ取り早いのはそいつを捕まえることなんでしょうけど」

「事実、保管庫から何冊かのの機密文書が持ち去られている。軍としても放っておける問題ではない」

「ええ」


「...どうだ、今夜はうちに来るか?」

「また冗談ですか?」

「冗談なものか。君の安全のためだ」

「それじゃあ、まあ...是非」

その時のシオリさんはどこか嬉しそうだった。


その日の勤務時間が終わり俺とシオリさんは彼女の家に向かった。


彼女の家は王国西側の貴族街にあった。軍が用意したものらしい。


「お邪魔しまーす」

「どうぞー」

家に入るといい匂いがした。香水とかそういう添加した匂いではない、優しい香りだ。

「なんだか照れくさいな」

「一人で住んでるんですか?」

「そうだよ」

「へえ」

廊下を過ぎリビングに入った。

「適当に掛けて」

「あ、はい」

(変に緊張してしまう...ぶっちゃけさっきまでの恐怖とかどっかに飛んでいっちゃったよ。平常心だ、平常心を保て俺。)

「お腹減ったでしょ?夕食準備するまで待ってて」

「分かりました」


30分程して、シオリさんは料理を運んできた。どうやらアクアパッツァのようだ。


「うわぁ、普通に美味しそう」

「普通にって何、普通にって」

「いや、シオリさん、料理するイメージなかったから」

「これでも毎日自炊してるわよ」

「すごいですね、では....」

「.........どう?」

「うまい」

オリーブや香辛料の風味とトマトの酸味、そして魚から出ている旨みが絶妙に絡んでいる。

「そ、そう。よかった」


夕食を済ませた俺たちはその後風呂に入った。


ひとりで住むには大きすぎる家で、バスルームが二つあったので別々のを使った。嬉しいハプニングは残念ながら起きなかった。


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