国の様子
活気のある町、とは言いがたいような中心部を、透明なまま歩く。
そこを歩く人々は皆、どこか怯えたような、そして殺気立ったような表情を浮かべ、市場もあまり安定してはいなかった。
まるで話に聞く戦前のような、戦時中のような、そんな感覚だ。 まさか民衆も既に戦闘態勢に入っているのか?
いくら何でも早すぎるんじゃ無いか? 戦争が起こるのは数年後だったはずだ。
未来は分からないから、とかそんな話を抜きにするならば、ラネシエルの一件が過剰な刺激になって、予定が急激に早まったのだろうか。
とりあえず鍛冶屋、武器屋、道具屋辺りをしらみつぶしに見て回って、複製アーティファクトが出回っていないかを確認するんだ。 と言うわけで既に雫&忍者とは別れている。
他にも色々と調べたいし、雑貨屋なんかも手当たり次第に回ってみますかね。
………少ないな。 干物や乾燥食なんかの長期保存に向いている食料品がどこもかしこも品薄だ。
マジで災害時みたいになってるな…。これからここで何が起こるって言うんだ。
それに、男性や若者の割合が少ないような気もする。
鍛冶屋なんかでも、店番をしていたのはおばさんだったし、町中を歩いていてもあまり見当たらない。
しかし、数軒回ってみたが、複製アーティファクトを扱っている店は無かった。 まだ一般流通していないのだろうか。
とにかく、集合場所に行って雫と忍者を待った方が良いだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「首尾はどうよ?」
「無かったよ。まだ出回ってないみたいだね」
「こちらもです。やはり大本に侵入するべきでしょうか?」
まぁそうは言っても国の中央部を探しただけだからな。もしかしたら辺境の地では流通しているのかもしれない。
そして、忍者の言うとおり、本拠地に乗り込まないと詳しいことは分からなそうだ。
「そうは言っても本拠地の場所とか分からんからなぁ…」
目星ならば付いている…と言いたいところだが今回はマジで分からない。
まぁ大体この辺りでは無い事は確かだろうが。
この辺りは王城周辺だ。そんな場所で兵器開発の実験をするか? 冷静な考えが出来て、尚且つ正常な頭の持ち主ならしないだろう。 原子力発電所なんかが良い例だ。
だからと言って、場所まで特定できるような甘い流れで進むはずも無く、途方に暮れてしまったわけだ。
さてさて、どうしたもんですかね。
「なんとなくだけど、秘密の研究所って森の中にありそう」
「地下という可能性もありますね」
ふむ。ならば私は、森の中に入り口があるけど本拠地は地下っていうパターンに賭けるとするか。
「まぁ今取れる行動は三つくらいある訳だな?」
「……?」
「手当たり次第に探す、ってのと、バレる危険覚悟で聞き込みするのと、諦めて帰るの。どれが良いと思う?」
私としては二つ目が良いなぁ。むしろ、わざとバレたら話が早いのかもしれない。
考え込む二人。しかし、その結論は以外に早く出たようだ。
「探しましょう。無駄に刺激するよりは良いと思います」
「……私もそう思う、かな」
……まぁ、こいつらならばそう言うか。
仕方ない。ちょっと地図でも買ってくるか。あまり気乗りはしないが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
バサリ、と地図を開く。
勿論さっきのように立ち話というわけにもいかないし、近くの森に戻ってきている。
宿を取るのは危険だ。 この国は入国制限をしているわけだし、宿なんか取ったら怪しまれる事この上ないだろう。
「私達は南から来て真ん中へ行った訳だ。ならば残りは北、東、西。どこだろうね」
「まぁ正確には北東、北西、南東、南西も含まれてるけどね…」
「……まぁ悩んでいても仕方ありませんし、南西からぐるっと時計回りしますか?」
「良いんじゃ無いかな。まぁそれ以外に手が無いんだけど」
……ハァ、しらみつぶし作戦か…。 もう少し頭使おうぜぇ…脳筋じゃあるまいし…。
しかし文句も言うまい。なんせ、マジでそれしか無いんだから。
さてと、見張りや巡回に見つかる前に、作戦決行といきますかねぇ。
休みは…私の休みはどこですか?
私の…休日はどこですか…?
次回更新は11月5日(日)の20:00です。