マッドランドからの帰還
断界奥義をぶちかまし続けた結果、辺り、いや、その世界は見るも無惨な姿に成り果てていた。
山々がマグマを噴き出し、空は暗黒に染まり、雷鳴が轟き、大地は焼け爛れ、砕け散っている。
実はこのマッドランドだが、特殊な仕様が存在し、いくら使っても魔力が減らないのである。
よって、現実世界では数発使えば自分が死んでしまうような攻撃でも、アホみたいに連発することが出来るわけだ。
しかし、流石の私も疲れてきたな。熱いし。
そろそろ、終わらせようかな。
ここまで世界が壊れてしまえば、後は強烈な崩壊を一発ぶつけてやれば良い。断界奥義も必要ないわけだ。
大鎌を高く掲げる。明滅する雷光や溶岩に照らされ、妖艶に輝く死神の武器に、赤黒い、崩壊の魔力が集まり始める。
体内に存在する魔力だけで無く、空気中に存在する魔力すらも汚染し、浸食し、飲み込んでゆく。
次第に集まっていった魔力は、その濃度から赤い球のようにも見えるようにまでなっていた。
肥大化していく球体。しかし、その巨大化は唐突に終わりを迎えた。
鎌が、ふらりと動く。それに伴って、紅玉は鎌の軌道をなぞるように動き始めた。 大きく反動を付け、ついにそれが振り下ろされる。
直後、世界は砕け散った。
赤く染まった鎌、そしてそれをなぞる濃密な崩壊が地面へと叩き付けられた瞬間、世界は白く染まり、大地が弾け、その存在すらも“崩壊”した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
………パチリと、瞼を開く。体が重い。視界の先には、遙か上まで伸びる螺旋階段が。
どうやら戻ってきたらしい。 世界をぶち壊すとかいう狂ったやり方だったけど、以外となんとかなったな。
まぁ、実はもう一つやり方があって、1年ちょいをあの中で過ごすって言う裏ゴールがあったんだけど、そんなの待ってられないからね。っていうか、待ってたら増え続ける殺戮機械に飲み込まれて死ぬわ。むしろそっちの方が死ぬわ。
「して、息の根を止めるかの如く、がっしりと私の体をホールドしているキリエさんはどうしたの?」
「………つぼ…み……よか…った……心配……した……」
おや、予想外に半泣きだ。視界の端に写るツバキもほっとした表情を浮かべている。どうやらマジで心配されていたらしい。
「なんか、心配かけちゃったみたいでゴメンね。体、ありがとね。ツバキも、守ってくれてありがとう」
反応の鈍い体をなんとか動かして、キリエをなでながら素直にお礼。
私らしくないかもしれないが、キリエさんにここまでさせてしまったからね。お礼を言わなきゃバチが当たるよ。ただでさえキリエを泣かせたなんて切腹ものなのに。
「まったく、本当だよ。ツボミはいつも頭がおかしいんだから、ちゃんと僕らが監視してないといけないね。」
……でも、ツボミだからそれでも無理なんだろうねぇ。 というニュアンスが表情から読み取れる。
「で、さ。そこに簀巻きで転がってる奴はどうしたの?」
ツバキの足元。踏みつけられるようにして簀巻きの武が転がされていた…。
「ん、いや、何か起き上がったら骸骨じゃ無くなってるけど、ツボミを回復させるとかいってたから、縛っといた。ちゃんと回復はしてくれたけどね。」
「ヌハハハハ!!黒龍殿、お主万全の状態ならもの凄く強いではないか!以前、不死鳥殿にくっついていた時とは比べものにならんな!!」
それを聞いたツバキはぎょっとして、その足を放す。
そして、私からツバキへの説明フェイズだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「へ、へぇ。そうだったんだねぇ。」
「ヌハハハハ!!そういう事になるな!!」
うむ。なんとか伝わったらしいな。
というか、ツバキさんって、万全の状態ならコイツを転がせる位にまで強くなってるんだね…。……恐っ…。
「で、武はここから出たらどうする気?まさかここにこもり続ける訳でもないんでしょ?」
「うむ!仲間達の死地を巡ることにしようと思うのだ!拙者の他にも、異世界の神の力を手に入れた仲間が居てな、連中がどうなったかが気になっておるのだ!」
たまにマトモなんだなコイツ…。
私達も早く戻って皇帝さんに無事の報告しないとな。ダンジョンの変質も、武のせいだろうし、コレで収まるだろう。
そういえばアーティファクトの研究部はどうなっただろうか。
まぁ、それとは別に、全く関係ないが、今回の件から、私は先制攻撃に対して弱すぎるということを学んだ。
コレは特訓が必要そうだ。弱点を一つ一つ潰していくのが大切なんだと思う。
ツバキもだいぶ強くなっているみたいだし、協力して貰おうかな。
とにかく、まずは帰ろう。なんだか疲れとダメージで眠くなってきてしまった。
そんなこんなで、私達は武に別れを告げた後、ダンジョンを後にするのだった。
武くんはまだまだ出番があります。エドワードさんやセリアさんのような立ち位置の準レギュラーキャラですね。
まぁ、そんなことは置いておいて、皆さん、台風大丈夫でしたか?
作者の家は、6時間程度の大規模な停電に襲われました。
危ないですね。災害には気をつけようがないので、前もって準備をしておくべきだと、改めて実感しました。
次回更新は10月26日(木)の20:00です。