ツボミのマッドランド 4
「まぁクリア条件だし、ちょっと黙って殺されてくれや」
ツボミから慈悲のない発言が放たれる。なんだかよく分からないが、慈悲のないことだけは確かだ。
周囲の兵士達がその武器を掲げるよりも早く、白い閃光が迸る。
突如として現れた白銀の獣は、弾き飛ばされたハートの人の頭部を踏み砕き、周囲の兵士達を蹂躙し始める。
爪、翼、牙、尻尾、その全てが凶器となり、周囲の生命を喰らい尽くす。
全ての兵士が倒れ伏したとき、その獣は巨大な咆哮を轟かせる。
しかし、獣はその臨戦態勢を崩さない。 その鋭い眼光で睨み付けるのは、周囲に転がった死体達だ。
ほんの少し時間が経った頃、死体達の内部から、金属の擦れる音が響く。
全身から棘が突き出し、歯車や機械が顕になり、機械音を放ちながら立ち上がる。
「あぁ、そうだった、近接効かないんだわ…めんどくさいな…」
ツボミは再び魔神の姿に戻り、己を取り囲む機械兵士達を牽制しつつ、私に向かって叫び出す。
「キリエ!!目ェつぶってて!絶対開けないでね!!」
なんだかよく分からないが、加勢は必要なさそうなので言われたとおりに目をつぶる。
直後、私の肌を驚異的な熱気が襲い、爆発の入り交じった激しい燃焼音が響く。
ツボミの加護のおかげで、温度によってどうこうなることはないが、一体何が起きているのか気になるところだ。
空気がチリチリと灼けたように変化し、かなり激しい炎だったことを……いや、違う。コレは崩壊の魔力だ。
激しい炎と崩壊のミックス、恐ろしいことこの上ないなぁ……。
「目、開けて良いよ」
視界に映り込んだのは、焼け爛れた大地と、その中心に浮かび上がった、赤い光を放つ扉だった。
「私はツバキ助けに行かないといけないから、先帰ってて。あと、私の体直してくれてると助かる」
手招きするツボミ。
そう言う事なら、一足先に帰って治療を再開するとしよう。
「………待ってる…」
手を振るツボミに見送られ、私は扉をくぐり抜けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さーて、2人は逃がしたわけだ。
コレで死亡はオーディン……という事になる訳がないよね。 そう簡単にいくなら、いつもそうしてるさ。
まぁ、私も残ってるわけで…。残りの扉は1つ。 私かあいつ、どっちかしか生き残れないわけだ。
先に扉をくぐった方の勝ちなんだが、もう一個の扉の場所、私でも知らないんだよね。
と言うわけで先にオーディンを潰しにかかるわけだ。
で、オーディンの居場所に向かったんだが……。
どう見ても骸骨じゃないんだよね……。
私の視線の先、テンパの若い青年で、武士みたいな服を着ている男が、そこに居た。
その男は、近づいてくる私に気づいたのか、バッと振り返ると、私に向かって手を振り始めた。
「………アンタ、誰……?」
「拙者は凰雅武と申す!先程は名乗ることも出来ずに申し訳ない!」
えぇ……まさかの日本人名……。オーディンどこ行った……。
「拙者、先程まではあの迷宮に操られておったのだ。いや、気づいたら死んでいてな、アンデットとして、モンスター扱いよ。全く、失敬な事じゃ!!ヌハハハハ!!」
なんか……底抜けに明るい若武者って感じ……。 絶対頭のネジ取れてるけど……。
「……じゃあ、アンタがオーディン?」
「む?確かに、拙者が得た異世界の神の力はそんな名前だが、拙者は凰雅武である。オーディンではないぞ?」
……よく分からんな……。まぁ、ダンジョンに操られてたって事は、コイツに害意は無かった訳か。
確かに、ダンジョン内のモンスターは、ダンジョンが操っているという説もあるらしいし、間違いではないだろう。 コイツに全くと言って良いほど敵意が無いのがその証拠だ。
「貴殿、かの有名な不死鳥の英雄殿であろう? 拙者、お会いできて感激の極みである!今日は素晴らしい日だな!ヌハハハハ!!」
「オイ待て、アンタ、私を知ってるの?」
「うむ!元々我々は貴殿と同じく大戦の終わりを望み、活動していたのだ。戦場で何度か貴殿の戦う姿を見たことがある。あれは素晴らしい物だった」
………コイツもしかして、古の時代から生きてるのか? いや、気づいたら死んでたって言ってたな。
マジかよ…私とツバキ以外にも、古の大戦を知ってる者がまだいたのか。
これは深く話を聞いてみる必要がありそうだな…。
結構改稿作業に着手出来るようになってきました。
きっとこのマッドランドも、いつか統合されるんだろうなぁ…。
あ、私明日誕生日です。
次回更新は10月22日(日)です。