ツボミのマッドランド 1
しばらく同じような攻防が続いた。
僕は徐々に体力を失っていったが、骸骨は終わりが見えない。 僕の火力を考慮しても、少なくとも僕の数百倍は体力があるんだろう。
更に、骸骨の攻撃は激しさを増して、ツボミたちがどうなっているのかを見る余裕も無くなっていた。
目の前の2本の槍を持った骸骨の周りに、4本の槍が浮かび上がる。
どうやら浮遊しながら飛んでくる槍が、軽い追尾付きの自機狙いだと言う事は見切ったが、骸骨自身の槍は予測射撃をしてくる上、精度がハンパないからタチが悪い。
円を描くように大きく走った僕を追うように次々と槍が地面に刺さっていく。槍は少し時間が経つと消えるようだが、辺りにはまだ消えていない槍が散乱し、槍の墓場みたいになっていた。
そして本体の投擲。大きく体を反らして回避するが、その先に2本目が。
大きく地面を蹴り出して自分を弾き飛ばすように回避するが、槍の側面が脇腹を擦っていった。
先程からこんな風にちまちましたダメージを喰らい続け、そのたびに回復を阻害される。
再び骸骨が大量の槍を出現させた。
僕の額を冷や汗が伝う。 ……そろっと限界だぞ…。
体力自体はまだ大丈夫だが、どんどん動きが鈍くなってしまっている。
一発でもまともに食らったら、追撃を確実に受け、そこで終了だ。
1本、2本、と後方に突き刺さる槍。そして、骸骨からの追撃が来る。
先程までと同じように体をひねって1本目を避け、2本目に備える。
しかし、そこに2本目は来なかった。
真後ろに気配。
そして、僕が振り向くよりも早く、僕の胸から槍が突き出した。
瞬間覚醒で後ろに回っていたのか…。
骸骨が槍を引き抜くと共に、胸に空いた穴から血が噴き出した。
そして、間髪入れずに2本目に槍が体から生える。
激痛を感じるよりも早く、僕の意識は闇に消えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
重い瞼を開くと、どさっと倒れ込むツバキが視界に映り込んだ。
体から槍を生やし、大量の血を流しながら絶命するかのように、崩れ落ちた。
近くではキリエが必死に回復魔法を使用してくれているのが分かった。
どうやら2人が助けてくれたらしい。 それより、ツバキは大丈夫だろうか。
立ち上がろうとしても脚が動かない。 手を伸ばそうとしても腕が動かない。
どうやら私は思ったより満身創痍らしい。 そして、ツバキはどうやら完全に絶命したらしい。
私が落ち着いている理由としては、ツバキは1回だけ復活できるというのもあるが、そこまで考えられるほど意識がはっきりしていないというのがある。
ツバキを完全に仕留めたと思ったのか、オーディンは再び私達の方へと向き直った。
そして、数本の槍を浮かび上がらせ、私達に向かって飛ばしてきた。
コレってもしかしてピンチなのでは?と思ったが、流石はキリエとでも言うべきか、突如として現れた光の壁が槍を阻んだ。
絶対障壁を展開している間、キリエは私の回復が出来ないらしく、回復魔法は中断されている。
絶対障壁で12本目の槍が弾かれた時、起き上がったツバキがオーディンを壁まで吹き飛ばした。
それと同時にキリエは私の回復に戻る。
私には某禁書庫で得た、強力で凶悪で狡猾なスキルがある。
それを使うには精神状態が安定している必要があるが、普段の戦闘時は色々考えたり興奮していたりしてろくに使えていなかった。
しかし、今ならそれを使用することは可能だろう。
このスキルは近くに居る者全て、つまりキリエやツバキをも巻き込んでしまうし、殺してしまう危険性もある。
だが、そんなことはどうでも良い。
私は必ず突破出来ると2人を信じている。信じているからこそ、このスキルを使うのだ。
「………ようこそ、私の世界へ…」
発動のためのキーワードを、かすれる声で紡ぐ。
それと同時に、私の体から溢れんばかりの光が放たれた。
「……歓迎しよう…この狂った世界を……楽しむが良い…」
唱え終わると同時に、オーディンを含めた3人が、急にその場に倒れ込んだ。
さて、私も行くとしますか。
ゆっくりと目を閉じ、私もその世界へと向かって行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……うぅ…なんだコレ…。」
僕が目を覚ますと、晴天の空の下で、草原に横たわっていた。
ツボミがなにやら呟いた後にこうなってしまったから、何かされたんだろうなと言う事は分かるが、それ以外の事が全く分からない。
外に転移でもされたんだろうか。
そう思って起き上がり、周りを見渡す。
すると、ぴょこぴょこと耳を揺らす白いウサギが視界に入った。
不思議なことに服を着て、靴を履いて、杖を持っているが、サイズや顔は間違いなくウサギだ。
………嫌な予感。
すると、そのウサギはちょいちょいと手招きをして、飛び跳ねながらどこかへ向かい始めた。
付いてこいとでも言うのだろうか。
そんな時だった。
「ツバキ、聞こえてる?」
ツボミの声が頭の中に響き渡る。
「ツボミ?これは一体なんだい?」
「いい?1回しか言わないからよく聞いてね?」
ツボミは僕を完全に無視して話を続ける。 と言うか、僕の声自体が聞こえていないかのようだった。
「この世界は私の幻術スキルで作られた、呪われた世界。そして狂った世界だ。いわばマッドランドって訳だね」
幻術スキル…。嫌な予感再び…。
「まぁ途中を省くけど、今この世界に入った3人の内、脱出が早かった2人だけが生き残って、もう1人は死ぬ。だから頑張ってね!」
……頭おかしい…。
頑張ってね、と言われても何を頑張れば良いのかさっぱり分からないんだが、どうしたら良いのだろうか。
「まぁそのための私だから安心してね。ツバキが何を言ってるかは聞こえないけど、見えてるからちゃんとナビゲートしてあげるよ。キリエとも並行だけどね」
……そういえば骸骨もこの世界に居るんだったか。
って事は、完全にチート機能じゃ無いか。ずるいなぁ…ずるい。
まぁ必ず勝つのに手段を選ばない感じ、ツボミらしいと言えばらしいか。
「ちなみに、今は精神体の状態だから、全回復してるよ。 早速だけど、とりあえずあのウサギについて行って」
ここから出るには他に方法が無いんだろう。それに、最後の1人が死ぬんだし、骸骨に先を越されないように急がないとな。
仕方ないからツボミに従うとするか。
全く、どうせツボミのことだからこの先には鬼畜仕様のろくでもない物が待ち受けているんだろうな…。
一度やってみたかったアリスパロになります。
ただ、普通のアリスっぽくないのでご注意を…。
あと、クソどうでも良いですけど遊戯王の新パック箱買いしたらハリケーンのシクとゴキブリ出ました。本当にありがとうございます。ジャックナイツ欲しかったんだけどなぁ…。
次回更新は10月16日(月)の20:00です。