112話 骸の神
虚空に光が現れる。
その光は次第に形を形成し、大きな光り輝く扉となった。
「な、何だ…。アレは…」
誰かが、そうぽつりと呟いた。騎士達は異様な光景に呆気にとられている。
そして、その扉がゆっくりと開き始める。
「狼狽えるな!!武器を構えろ!!」
団長の怒号が轟き、騎士達は我を取り戻したかのように武器を構え始めた。
正直な話、これはかなりヤバいかもしれない。 空間をビリビリと震わせるかのように、空気中の魔力が乱れている。
扉が完全に開く。
そして、中から、ゆっくりと、騎馬に乗り、黒い槍を携えた、骸骨の騎士が現れる。
その槍を一薙ぎ。 大気が振動する。 ぞわぞわと、鳥肌が立つのを感じる。
本能がこれはヤバイと言っているようだ。一体何だコイツは…。
久しぶりの魔眼、か。
【オーディンの骸】
異次元の神の名を持つ戦士の骸。詳細、不明。
オーディン?北欧神話か…。
伝説の槍、グングニルを携え、スレイプニルと呼ばれる馬を駆る、戦いと死の神だったはずだ。他にも様々な伝説があったと思うが…詳しく覚えてはいない…。
で?詳細、不明だ? 魔眼先輩でよく分からないとか、ますます大丈夫かこれ。
オーディンは私達を見つめ、そしてその槍を掲げた。
やるしか、無いか。
「皆の者、相手の実力は未知数だ!あまり迂闊な行動を取るなよ!!」
再び轟く団長の号令。
脳筋らしからぬ采配だが、ここで特攻なんてしていたら間違いなく全滅だ。良い判断だろう。
先に動いたのはオーディン。骨の馬を駆り、その槍を振り回しながら突進してくる。
狙いは…私か。
なるべく騎士達から遠ざけよう。正直、守りながら戦える自身が無い。
突進してくるオーディンの真後ろへ絶影で瞬間移動。そのまま後頭部へとカースオブキングでノーマルバレットを乱射する。
オーディンは鬱陶しそうにその突進を止め、私の方へと向き直った。
その空っぽの目に見下ろされると、とんでもない威圧感が私の体を駆け巡る。
なんとか騎士達の退路を確保すればまだ可能性はある。 …ここから出るには正規ルートだったあの入り口の扉か。
しかし、その扉もボス部屋の光の壁が覆っており、無理矢理破壊するのは難しそうだ。 まぁ、難しいだけで出来ないわけでは無いが。
白夜の崩壊の力はどんな物でも消し去る。しかし、やはり時間はかかってしまう。
それはつまりオーディンに背を向けると言うことで、私もかなりの非ダメを覚悟しなければいけないだろう。
いまこの場において一番勝率が高い方法は騎士達を見捨てることだ。
しかし、そんなことをしたら、いろいろな人に顔向けが出来ない。そして、皇帝さんには私がリスクを減らす的なことを言ってしまっている。
それに、私もアイリスとくっついてから、どことなく人間らしい心を持ってきた気がする。まぁ魔物だけど。 …とにかく、胸糞悪くなるのは勘弁だし、私自身やりたくない。
しょうがねぇ、死ななきゃ安いもんだ。
「私が退路を開く!!そこから撤退しろ!!」
騎士達にそう伝え、白夜を赤熱状態に。そのまま真後ろにあった扉に斬りかかる。
障壁とぶつかった刃が火花を散らす。
オーディンが、背を向けた私を仕留めに馬を走らせてくるのを感じる。
頼む!出来るだけ早くぶっ壊れてくれ!!
少し離れた場所で馬の足音が止まる。 だが、振り向けない私はどんな状況なのかよく分からない。
「避けろ!!」
団長の声。しかし、それはあまりにも遅すぎた。
私の腹部を、オーディンが投げた槍が貫いたのだ。
血が逆流し、口から吐き出される。足がふらつく。視界がぼやける。
だが、それだけだ。死んでない。なら、まだ私は終わらない!!
「ぶっ壊れろオォォッ!!」
白夜に膨大な魔力を込める。
刃が輝きを増し、ついにその障壁ごと、扉を切り裂いた。
「私がコイツを引きつける!!その隙にここから逃げるんだ!!」
かすれる声で必死に叫ぶ。
「しかし、それでは貴様はどうするのだ!?」
「タイマンなら、まだ可能性はある。正直、お前らがマトモに戦えるような相手じゃ無い!!」
団長は悔しそうに、無言で頷いた後、騎士達に撤退を促す。
私は腹部の槍を無理矢理引き抜いた後、オーディンを出来るだけ遠ざけるために、ケイオスアクセルを発動し、跳躍する。
オーディンは私以外に興味が無いのか、素直に私を追いかけてきた。
「絶対に生きて合流するのだぞ!!」
そう言い残し、最後尾についた団長が部屋から出る。
どうやら撤退は完了したらしい。
後はコイツを倒すだけだ。
重い一撃を食らってはいるが、それも時間が経てば回復するはず。
そして槍は私が持っている。
この状況のタイマン勝負、負けるわけには行かない。
クッソ、腹の穴が痛んでろくに動けねぇ…こんな時に限って…。
「来るなら来い!!」
私がヤケクソで叫ぶと、オーディンはそれに答えるかのように、手の中で炎を出現させた。
やはり魔法は使えるか…。よく見極めて避けるしか無いな…。
オーディンの手の中で燃え上がる炎はどんどん細長くなっていく。 ……あれ?嫌な予感が…。
オーディンが大きく腕を振り、炎を振り払う。
炎の中から現れたのは、私の手元の物に類似した黒い槍。 ヤバイこれ無限生成かよッ…!
黒い槍を携えたオーディンは、その槍を再び大きく掲げ、金色のオーラと共に、有り得ないような速度で投擲を行う。
必死で横に飛ぶが、腹部のせいで行動が大幅に遅れ、ふさがり始めていた穴の横を槍がかすめ取っていく。
痛みが声となり、血しぶきと共に吐き出される。
クソッ、分が悪すぎる…。
このままじゃ、体力を削りきられるだけだ…。
鬼殺を使うか…? それならば傷の治りは促進される…。 しかし、持続的なダメージも合せて、一発喰らったら確実に死ぬ。 いつもなら避ければ良いが、今回は傷か治るまではろくに動けない…。
どうしたら良い…。どうしたら…。
断界奥義は、私がマックスで力を使えるときにしか使えない…。大鎌も同じだ…。
今の私に、この場を打開できる力はあるか…?
ダメージは酷く、仲間も居ない。攻撃は避けきれない…。
こんなの…絶望的すぎるじゃ無いか…。
次回更新は10月6日(金)の20:00です。
前回に書いた書き直しですが、連休などが来たときに一気にやってしまおうと考えました。
まぁ、それで終わるかは分かりませんが…。