111話 嫌な予感
「ツボミ、と言ったか?貴様、装備は大丈夫か?まさか素手ではあるまいな」
そう問う騎士団長には、腰につけた銃とマントのナイフをポンポンとして、大丈夫だと伝える。
まぁヤバくなったら白夜使うけど。 まぁダンジョンならこんな装備でもいけるんじゃ無かろうか。
よし、と頷くと、騎士団長は「行くぞ!」とかけ声をかける。
それに乗じて騎士団の皆さんが馬に乗り始めた。
「ツボミ殿、そちらの馬を使うと良いぞ!」
この人、いちいち叫ぶから耳がガンガンして痛いなぁ…。 まぁ元気はつらつで、皆の士気が上がるならそれに越したことは無いが。
「いや、私は馬に乗ったこと無いですし、多分走った方が早いので、大丈夫ですよ」
丁寧に返して、ケイオスアクセルを発動。 白か黒かよく分からない色の電流が私を包み込む。
「………貴様、ふざけているのか?まさか急に怖くなったからと言って逃げ出す気ではあるまいな」
ここで食って掛かってきたのはさっきのプライド高そうな騎士だ。
まぁ、ここに集まっているのは騎士団の精鋭だけらしいし、まぁこういう奴がいてもおかしくは無いだろう。
「私はツボミです。貴方は?」
まぁ、遠回しに「名乗れよ」、と。
「…フン、俺はヴィエーレだ。して、逃げ出すならさっさとするが良い」
……名乗ってはくれるんだね…。
「なら、勝負でもしてみますか?私の実力を知って貰うのにもちょうど良いでしょうし」
「…相当自信があるようだな。良いだろう。その大きな口を羞恥心で塞いでやる」
いちいち言い回しが面倒くさいなコイツ…。
まぁ勝負を取り付けたのはデカいな。 これに懲りて大人しくなってくれると良いんだが。
でも馬と張り合うとなると、ちょっとやり過ぎちゃう危険があるし、私も控えめにしないと後々面倒くさそうだな。
「うむ!開始前から元気があって素晴らしいでは無いか!では、我々も混ぜて貰って、いっそダンジョン前まで競争、とするか!」
騎士団長は相変わらずフリーダムに乗っかってくる。
周りの騎士達も困惑気味だが、まぁ、仕方ないか、みたいな感じになっている。 いつもこんな感じなのだろうか。
「では早速行くぞ!よーいスタート!!」
自分でかけ声をかけて、自分で真っ先に走り出す。
そして、周りの騎士達もそれに続いた。 流石騎士用の馬と言う事だけあって、なかなか早いな。
それじゃ、私も行こうか。
正直、私の最高時速はマンティコアの姿なんだけど、今使うのはよくないから、ケイオスアクセル頼りだな。
まぁそのケイオスも、最高時速は音速に届くかどうか位だし、馬とか相手にならないけどね。
とりあえず馬と並ぶくらいの速度を出して走り出す。
馬の横に併走してくる私を見て、騎士達は驚き、ヴィエーレは悔しそうな顔をした。
そういえば私、場所知らないんだよね。仕方ない、ギリギリまでついて行って、最後で追い抜こう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
なんだか洞窟のような穴が平原にぽっかり出ている場所がある。
よく見ると、地底に続く階段も見えるし、あそこで間違いないだろう。
てな訳で、ちょっとだけ全力ダッシュし、一瞬でダンジョン前へ。 そして、騎士団の皆さんを待つことにした。
少しして、団長を先頭に、騎士団の皆さんが到着する。
「どうですか?貴方のお口は羞恥心でふさがりましたかね?」
「……貴様、覚えておけ…」
到着と同時に、ヴィエールを煽る。
もの凄く悔しそうな顔が見れたので、良しとしよう。
「それでは諸君、早速始めるとするか。 良いか?これは訓練という形式だが、紛れもない実践だ。気を抜くなよ!」
団長の号令で、騎士達がゾロゾロと、入り口から降りていく。
私は意識して最後尾を取ることにした。
ダンジョン内は、入り口の粗忽さから全く想像できないほど美しく、綺麗に磨かれた大理石や、細かい装飾の柱などが並び立つ、まるで芸術の中に入ってしまったかのような作りになっていた。
明かりも、どこから差し込んでいるのか、ほどよい明るさで、内部をより一層美しく見せる。
しかし、天井まで伸びる柱などが視界を遮り、見通しは悪く、死角が生まれやすい。
「全く、いつものことだが周りの見づらい部屋だな! 全て壊せたら楽なんだが…」
団長さんが不満を口にする。
……そう思うなら壊したら良いんじゃねぇの?
「団長さん、壊すわけには行かないんですか?」
「ダンジョンという物は面白くてな、壊しても時間が経てば元通りなのだ。 宝箱なんかがあるのも同じ原理だろうな」
……ふーん。そうなんだ。
「そういえば、ここはあまり一般人がいないんですね」
「うむ。ここはなかなか危険なので、我々騎士団の管轄に置かれており、一般人は立ち入れないのだ! ちなみに、言っていなかったから今言うが、今回の目的地は地下8階以下だ! 道中も油断するなよ?」
地下8階、か。
そこそこ長くて面倒だな。
ってか、ここ、一般人入れないくらいムズいのか。
なら、もうちょっとチートしちゃって良いかな。
「それでは皆!ゆくぞ!!」
その言葉を華麗に無視して、赤く染めた拳を振り上げる。
「黒帝龍亜流!崩牙衝ォ!!」
ドゴオォォッ!! と、音を立て、床を吹き飛ばす。
ぽっかりと空いた大穴。舞い上がる砂埃。ぽかんとする騎士達。
しかし、どういう原理か、ほんの少しづつ端の方から床が修復されてゆく。 なるほど、確かにそこそこの速度だ。 こりゃ、柱なんか壊しても無駄だろう。
ただし、この穴から下の階の降りるのは容易そうだ。
「なんか都合よく手が滑ったので、ここから降りませんか?」
「貴様…。まぁ、手が滑ったなら仕方ないな!!」
うむ。騎士団長は分かってくれるみたいだな!
なんか諦めたような騎士達が、団長に続いてゾロゾロと飛び降りてゆく。
よくもまぁあんな甲冑着ながら飛び降りれるもんだ。そこそこ高さあるんだけどな。
最後に私が飛び降りる番になったので、下で待機している騎士さんに、ちょっと離れるように伝えた。
不思議そうな顔で離れる騎士さん。
まぁ、ね?
「崩牙衝ォォ!!」
再び弾け飛ぶ床。
「あ!またやっちゃいました!!」
ため息が、聞こえた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次で8階だ。
「崩牙衝~」
ドゴッ、と、再び一撃。
しかし、そこから見える8階の床は、今までとは違い、真っ白な床だった。
「団長さん、あれあれ。」
床の色が変わったことを伝える。
「ん?妙だな。以前は何にも変化は無かったと思ったが…。ヴィエーレ、8階の床は白かったか?」
「いえ、今までと変わらなかったと思いますが…。変化しているのですか?」
私の脳裏をある言葉がよぎる。
“ダンジョンの変質”。あの未開の砂漠に起きていた現象。
何らかの影響で、ダンジョンの性質が大きく変わり、難易度が変化する物だ。
もしかすると、ダンジョンの活動が激しくなってきている、と言うのもそのせいかもしれない。
「とりあえず、私が先に降ります」
返事を聞かずに飛び降りる。
床に罠なんかがあっても、私なら大半は壊せるからな。
着地。どうやら何も無いらしい。
上から覗き込む団長さんに手を振る。
すると、騎士達がガチャガチャと音を立てて降りてくる。
その部屋は純白の空間で、2つの扉しか無い個室になっていた。
そして、私達が着地し終えた時、円柱状の部屋の壁を、光が覆った。
ヤベェ、これボス部屋だ。
しかもなんか嫌な予感がする…。この胸騒ぎは一体何だ…?
次回は10月4日(水)の20:00です。
そろっと一話から八十話くらいまで大規模に書き直そうかと思ってます。
でもそうすると一週間くらい更新出来なくなりそうなんだよなぁ…。
まぁ、考えておきます。