110話 特別訓練
「ここか。辛気くさい子悪党の巣って感じがするぜ…」
やってきたのは大きな通りの裏に隠れるようにひっそりと建った事務所のような建物。 教えて貰ったウァレオス達の拠点だ。
そろっと戻って来ても良いような頃合いだが、帰って来ているだろうか。
コンコン、とノックしてみる。
中からの返事はない。居ないのだろうか。
鍵もかかっているみたいだし、まだ帰って来ていないんだろう。出直しだな。
ちょっと用事があったんだけど、まぁ居ないなら仕方ないな。
しかし、こうなってしまうと急に暇になったな。
そういえば明日の概要について何も聞いてねぇな。もう一回聞きに行こうか…。 いや、迷惑かも知れないし、その辺の騎士さんにでも聞いてみますか。
そんなこんなで再び王城近くへとやってきた。
さっき来たときに見かけた騎士の詰め所のような所だ。まぁ入り口の所に突っ立っている騎士さんで良いか。
「すいません、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、今お時間良いですか?」
怖そうな顔だったので、なるべく下手に出てみた。
「ん?構わんぞ?道にでも迷ったか?」
ほっ、優しそうな人で良かったぜ。
「知り合いから、明日の合同訓練の紹介を受けたんですが、概要を教えて貰ってないんですよ。どこに行けば教えて貰えるか、分かりますか?」
「ん?お前、訓練の志願者か?」
ええ、まぁ。と答えて良いんだろうか。なんだかややこしくなりそうな気がする。
「いえ、そのー、まぁ、なんと言いますか…ねぇ?」
「いや、隠す必要はないぞ!俺としても貴様のような力を求める奴がいるのは嬉しいことだ! ……そうだ。団長殿にあっていくと良い。団長殿も、力を求める奴は大好きなんだ。良い訓練に当てて貰えるかも知れん」
ほらやっぱり。
つーか、コイツかなり強引だな。お国柄なのか?
「いえ、流石にそこまでは…迷惑でしょうから」
「とにかくついてこい。こっちだ。ホラ早く」
やべぇ、やんわり断ろうと思ったが、全然そうはいかないらしいぞ。
しかもそんな感じでずんずん連行されていく。 ……はぁ、覚悟を決めるか。
「ここだ」
最終的にたどり着いたのは大きな扉の前。
案内してくれたコワモテが扉をノックする。
「団長!骨のある志願者を連れて参りました!入ってもよろしいですか?」
中からは「よし、入れ!」と言う凜々しい女性の声。 団長さんって女の人なのか?
コワモテに促されて中に入る。
「ようこそ、私が騎士団長だ!名乗るほど立派な名前は持ち合わせていない!私が名に恥じぬような強者になったとき、名乗るとしよう! それで、貴様が志願者か?」
うわぁ、超面倒くさそうなの来たァ…
名に恥じぬって…。一体どんな名前なんだよ…。
「どうも団長様。私、ツボミと申します。知り合いから合同訓練の誘いを受けたので、参加しようかと思いまして」
…私も場の空気に流されて乗ってしまうのはどうにかしないといけないな。
それを聞いた団長の目はキラキラと輝く。
「そうか!進んで強くなろうとするとは、素晴らしい心意気だ! そうだ、貴様、一般人向けではなく、騎士団内のエリート用の特別訓練に参加しないか?」
「団長殿、それは良い考えですな!」
ヤベェよ…ヤベェよ…なんか超面倒なことになってきたよ…。
しかもコワモテお前、門番的なアレじゃないのか…? さっさと仕事に戻ったらどうだ…?
「それはどんな訓練なんですか?」
ツボミさんヤケクソモードである。
「うむ、じつはな、町外れのダンジョンに潜るのだ。最近、ダンジョンの活動が激しくなってきているのでな。その沈静化も含めての訓練だ!」
……それが特別メニューなのか。 なんかハードなトレーニングとか想定していたから予想外だな。
まぁ結界無いし、死ぬかも知れないと考えたら、よっぽどハードコアモードか。
「それ、一般人の私が参加しても良いんですか? 実力とか試さなくても大丈夫なんです?」
「……貴様、これを聞いても動揺1つしないとは…!ますます気に入ったぞ!是非参加してくれ。明日の早朝に、この詰め所前に集合だ。皆には私から伝えておく!」
うわぁ、ここって脳筋しか居ないのかな?
しかもこれ、皇帝さんの方の訓練でられない奴だ。
……結局皇帝さんの所行くしか無いのか…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「って訳で、出られなくなっちゃった。いや、私の責任です。申し訳ない」
謁見という形を取って皇帝さんの前にやってきた。どうも客人扱いは嫌なんだ。
「いや、ツボミ殿、いいのか?私としては、ツボミ殿がそちらに赴いてくれた方が嬉しいのだが、今回騎士団に行って貰うダンジョンは結構難易度が高いのだぞ?」
「私が本気出せば大半は消えて無くなる。私を止めたきゃキリエとツバキを10人ずつくらい用意して貰おうか」
「……問題無さそうだな…。 しかし、またツボミ殿には借りを作ってしまうな…。これは我が国だけの問題なのだが…」
「あぁ、それについては気にしないで。今回勝手に別の訓練参加しちゃうお詫びとでも考えてくれれば…」
「そうか。ではそうさせて貰うことにしよう。 ……だが、気に入ったという理由だけで一般人を巻き込むとは…。あの騎士団長は帰って来たらお仕置きだな。 まぁ元々変な脳筋だとは思っていたが、どうも私が思っていた以上らしい」
……騎士団長さん、強く生きろよ…。
まぁ士気が下がらないようにミッション後なのがせめてもの救いだろうか。
ちなみに、近くに居た姫と忍者は、私が参加しないと聞いて、凄く残念そうな顔をしていた。 なんだか可哀想な事をしてしまった気がする。
なんだか、まともな奴に懐かれない気がするんだが、気のせいだろうか。 まぁ後でなんかしてやるか。
「そうだ、私の代わりにキリエ&ツバキに来て貰うとかはどうかな?」
「ん?良いのか?強者が加わってくれるのはとてもありがたいのだが、都合とかは大丈夫か?」
「……二人とも、ああ見えてバトるの大好きだから、多分大丈夫だと思う…」
「そうか、では来れるようなら、明日の早朝に正門前に来るように伝えてくれ」
りょうかーい、ってな感じで家に戻るとしよう。
どうせ二日暇だったわけだし、多分大丈夫だよね?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「………いく」
「勿論参加するに決まってるよねぇ?」
ほらやっぱり。
家について、いままであったことを話した瞬間にこれだよ。
「でもツボミは来れないんだろう?そこだけが残念な話だねぇ。 僕、実はキリエと結構特訓してるから結構強くなってるんだよねぇ。キリエだけ先にお披露目しちゃってるみたいだけど…。」
で、何なのだ。私と戦いたいとでも言うのか。明日、ダンジョンだってのに嫌だぞ。
「まぁ、それは明日発散してくると良いんじゃない?」
「ハァ、つれないねぇ…。今ここで、って言うのも良いんじゃないかい?」
「……また今度でお願いします…」
やっぱりツバキも戦闘狂なのか。
キリエがなんとなくそんな感じだったからもしかしたら、とは思ったが、これで私達三人は皆サイコな戦闘狂だと言う事になってしまった。
一人は物静かで時々ヤンデレな戦闘狂。一人はメガネ僕っ子な戦闘狂。一人は厨二病みたいな見た目の戦闘狂。
うん、ヤベー集団だわ。
……自分で厨二病宣言してダメージを受けた私は大馬鹿者ですね。
さて、明日は出来るだけ目立たないように頑張ろう。
ただ、サボりすぎて犠牲者を出すなんてバカな真似はしない。そんなフラグは今へし折っておく。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おお、よく来たな!こっちだ!」
翌朝、場所に向かうと既に、数人が集まっており、騎士団長が私に向かって手招きをしてきた。
「団長、こんな奴、本当に大丈夫なんですか?」
プライドの高そうな数人の騎士がそんなことを言っている。
「勇気のある、見上げた奴だ!大丈夫さ!」
「……そうですか、おいお前、足手まといにななるなよ?」
うわぁ…クッソめんどくさそうだ…
個人的な都合でお休みさせて貰って、本当に申し訳ないです。
また次からは二日に一話ペースに戻ります。
次回は明後日10月2日(月)、20:00更新です。