108話 グラスティアごはん
人が集まる町だけあって、宿はすぐに見つかった。
しかもお会計は止まった日数分を後払いという、何か裏があるのでは…。と疑うような設定。
まあ多分とんずらしたらブッ殺すという意味合いも籠もっているのだろう、と考えておく。
いったん部屋を確認して、その後はすぐに買い出しだ。 朝も食べたけどご飯が食べたい。
「二人とも、一緒に買い出し行かない? 何作るかも決まってないし、ツバキも自分が作る奴の材料だしね」
「……僕もまた手伝って良いのかい?」
妙にワクワクしているツバキ。ふりふりと尻尾が見えた気がしたので、萌えながらうなずきを返しておく。
そしてキリエさんは無言で立ち上がり、私の側にやってきた。どうやらついてきてくれるらしい。
「さぁ、街に繰り出すぞ!!」
「……おー」
実際、町は空からしか見ていないし、少し楽しみでもある。
余談だけど、ご飯って適当にスーパーとかいって、食材見て、あ、今日はこれにしよう、みたいな感じでメニュー決めるときが大半だよね。 何か食べたい、って思ったとき以外は大半そうじゃないかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
町は沢山の人で溢れかえっており、様々な服装の人が入り乱れている。
この辺りは宿泊施設の集まる通りだ。 商店街はどっちかな…っと。
……そういえばこの辺、入り組んだ道が多すぎて分からんな…。 ギルド行って地図でも貰ってくるか。 大半の町のギルドでは地図を無料配布していたので、ここでもきっとくれるだろう。
「と言う事でキリエさん、ギルドってどっちだい?」
しばし目を閉じた後、道案内を初めてくれるキリエ。 これ最初っから商店街聞けば良かったんじゃ…。まぁ良いか。
そんなこんなでギルド街にやってきた。 武装した連中の割合が目に見えて増えているのは何処の町でも一緒のようだ。
そして一際目立つバカでかい建物が見える。2階建てだが、一階一階の高さがそこそこあるせいで、下手な3階建てよりもデカい。 どうやらギルド本部のようだ。
まぁとにかく、と言う事で入ってみると武装集団の巣窟…というわけでは無く、ビジネススーツに身を包んだサラリーマンのような人も結構居るし、ギルド内の食堂に食事をしに来ただけの一般人も結構居るように見えた。 まぁ見た目の話だが。
地図を貰おうと、受付に向かって歩き出したときだった。
大柄な男が急に現れ、私にぶつかってくる。 あぁ、絡まれたクサいな…
「オイ姉ちゃん、どこ見て歩いてんだよアァ?」
やっぱりか…。面倒なことになったもんだ…。
さらに、その男の仲間らしい二人の男が近寄ってくる。 事態は悪化する一方だ…。
周囲を見渡すと、この男に怯えているかのようで、目をそらす連中が大半だった。 またかよ…などの声も聞こえてくる。 日頃から女の子に絡んでんのか?クソ面倒な奴らじゃねぇか。
「ホラホラ、何黙ってんのォ~?」
金髪のチャラチャラした感じの男が畳みかけてくる。
こういうトラブルって、全く慣れてないから対処法よく分かんないなぁ。
……いや、今の私は皇帝さんの客か…。なら少々派手にやっても問題あるまい。
「……邪魔だ。どけ」
挑発。 まぁ形だけでも向こうから仕掛けてきてくれた方が色々と良さそうだ。
「アァ!? テメェ誰に向かって口きいてんだオラァ!」
激高する男。完全に見下されているな。 私は、そこそこ背は高いと思うんだが、この世界の女性はちょっと平均的に高いので、一般人のように見えるのだろうか。
周りも、「ヒイッ」とか、「あーあ」とか、そんな声を上げている。
「痛い目見ねぇと分からんかアァ!?」
取り巻きの金髪が私に向かって掴み掛かってくる。
チャンスだ。
男の手が体に触れるかどうかの刹那。その男はバネに弾かれたかのように体をくの字に折り曲げながら一直線に吹っ飛び、大きな音を立てて近くの柱に激突した。
更にその直後、ギルド内の空気を一瞬で絶対零度に変えるような殺気が放たれる。
「邪魔だ。どけ」
二度目。今回は挑発では無い。それ以上しつこくするなら纏めて葬る、という警告だ。
残された二人は弾き飛ばされた仲間を見て、小さく「ヒッ」と声を上げると、「覚えておけ!」だの何だの言い残して去って行った。
あっ、このまま地図貰いに行くの、何か気まずいな…。 でも行かないわけには行かないので、もう何でもいいやの気持ちで行きましょう。
そのままゆっくりと受付へ歩いて行く。周りからは「なんだなんだ?」とか、「ヤバいって」とか、ざわざわ聞こえてきていよいよ本当に気まずくなってきた。
いいや、ここで負ける私じゃ無い。
そのまま受付の前まで直行。受付のお姉さんはこわばった顔で、「ご、ご用件は何でしょうか」と、怯えながら言った。
「……地図、貰えますか?」
「……え?」
「あ、あと、怖がらせてしまって申し訳ありませんでした。お詫びです」
金貨を一枚差し出して謝罪する。
「地図はギルドカードの提示があれば無料でお渡ししますよ」
なんだかほっとしたような顔で業務に戻るお姉さん。 周りのギャラリーのザワザワは収まってはいないが、まだ私のメンタルは持つ。
「お願いします」
真っ黒なギルドカードを取り出して渡すと、受付のお姉さんは、どういう訳か焦り出した。
それがちらっと見えたのか、他の受付さんも焦り出す。 一体どうしたんだ?
「SSランクの方とはつゆ知らず、とんだご無礼を致しました!どうかお許し下さい!!」
うっわまたか、面倒な…。 いや、そういえば力が物を言う国だったか…。ならば一応最上級ランクな訳だし、迂闊に渡した私も悪いな。
「とりあえず地図下さい」
「は、はい!ただいま!!」
お姉さんはすぐに地図を持って来てくれた。
「どうも~」
軽く礼を言って足早にギルドを出る。 これ以上目立ったら私のメンタルが持たない。
そして、騒動が始まると同時に隠蔽フードをかぶり、外に出た二人の元へ向かう。
「おや、早かったねぇ。てっきり、もうちょっとかかるもんだと思ってたよ。」
悪びれも無くそう言うツバキ。 きっと信用されているからこその、この対応なんだろう。 私はそう信じたい。
「とりあえず、買い物行こうか。地図は貰ったからね」
商店街はここから見て南の方だ。王城とは真逆だな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
徒歩数分で商店街へとやってきた。
流石といって良いほどの人の量だが、道幅もかなり広いので、ギュウギュウというわけでは無い。
「ツボミ、今日は何にするんだい?」
そうだな…。何が良いか…。
そんな時に商店街の一角から放たれた声を私の耳が捕らえる。
『今日は卵が安いよー!!』
卵か。前は親子丼したなぁ。 オムライスとか行ってみるか。 メッチャ簡単だし、初心者には良い練習にもなるな。
「よし。ツバキ、卵と鶏肉かってきて。一番美味しそうな奴」
ツバキに金貨一枚を渡し、おつかいに出す。 ……卵の美味しそうな奴とか、結構な無茶振りしたなぁ…。
ちなみに、お釣りはお小遣いにして良いという暗黙のルールがある。
「キリエはケチャップと牛乳とバター。頼むよ」
キリエもおつかいへ。 私は野菜とか他の奴とかだな。
朝は結構食べたし、オム太郎だけで良いだろう。キリエとツバキは食べられるだろうけど、私は自信ない。
30分程度で、元の場所へ集まってきた。
「さぁ、早速帰って調理開始と行こうか」
「おー。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本日はオムライスでございますよツバキシェフ?」
「よろしくお願いします。ツボミ師匠。」
なんだか茶番が始まってしまった。
「まずはチキンライスを作りましょう」
これは簡単。
まずは鶏肉とタマネギを細かく切るのです。 鶏肉の黄色っぽい所は後に残るので、しっかり取り除くこと。
次に、フライパンに適度なバターを入れ、とかした後、さっき斬った2つを入れ、炒めていきます。
タマネギが透き通ってきた辺りで、塩胡椒を振り、ご飯をぶち込むのだ!
このとき、あまりグシャグシャし過ぎるのは良くないが、適度にご飯を広げないといけない。
ご飯の粘りけが弱くなってきた辺りで、ケチャップをガッと入れて、混ぜていく。勿論炒めながらだ。
そして、全体的に混ざったら、細切れパセリをほんのちょっと振る。 まぁ色味かな。 ピーマン入れる人もいるね。
「出来ましたよ師匠!」
「こっからはちょいむずいから落ち着いてやるんだぞ?」
まずは卵2つを割って、そこに牛乳大さじ1と塩2つまみ位を入れて、しっかり溶く。 醤油入れる人もいるとか居ないとか…。
そしたらフライパンにサラダ油数滴を垂らし、強火で熱したあと、そこに卵を一気にぶち込む。 そして早急に全体に広げるのだ。
中央部分を菜箸でちょこっとかき回すとなお良し。 崩さないように注意が必要だ。
卵が半熟を超えた辺りで火を止め、片側にチキンライスを横長の楕円型にのせる。素早くだ。
そうしたら乗っかっていない側を、ご飯を覆うようにそっとかぶせる。 コツは先にフライパンを手前に傾けることだ。
後は傾けながら皿にのせるだけだ。
「うぅ……ムズいです師匠…。」
「バカヤロウ!誰でも最初はそんなもんだ!型崩れなんか気にするな!大切なのは美味しさだろ!!」
少しボロボロになってしまったツバキ作オムライス。
しょうが無い、私がお手本見せてやろう。
「こうやって、こうやって、こう。 はい、完成」
結構マジになれてくるとこんな感じになってくるし、綺麗な楕円になってくる。 要は経験あるのみ、だ。
「これ、キリエ用ね。 ツバキ、もう一個私の作って?」
「師匠…流石です…。」
今回の材料はこんな感じ。まぁ参考程度にしてみてね。
(オムライス三人分)
・卵6個 ・ご飯、茶碗で3杯とちょっと
・タマネギ3分の1個
・鳥肉、もも肉の半分くらい
・パセリほんの少し
・牛乳 ・塩 ・胡椒 ・サラダ油
・ケチャップ適量
そんなこんなで完成。
オムライスと言えばやっぱりケチャップで文字を書くのが定番だよね。
「「と言う事で書いてみました」」
まず私の。
書いてある文字は“料理師匠”書いたのはツバキです。
続いてツバキの。
書いてあるのは“我が弟子”書いたのは私です。
そしてキリエの。
書いてあるのは“キリエさんマジ天使”勿論私が書きました。
さて、それでは、
「「「いただきまーす」」」
うむ。普通に美味しいオムライスだ。強いて言えば、卵に元々の甘みがあって、なかなか美味しい。
まぁ自分で作っちゃうとこういう反応になるよね…。
キリエさんとかは、もう口の周りも気にせず、バクバク食べております。
「ツボミ、やっぱり料理って奥が深そうだねぇ。やってると、凄い楽しいよ。」
「そう? なら使った食材も喜ぶと思うよ。最後までしっかり食べてあげてね?」
そんなこんなでごちそうさまでした。
なんだか一家団欒、って感じで本当に楽しいな。
今回はオムライスを作りました。
中のチキンライス、結構作る人によって味が変わってきますよね。個性があって、凄く良いと思います。
皆さんも是非作ってみてね。
追記:目安として分量記載しておきました。参考程度にどうぞ。
次回更新は26日の20:00です。