新しい姿
翌日になり、私は今、町の方角へと走っている。
早朝に村を出た時に、はオーガの方々が愛想良く送り出してくれて、オーガフルーツまで貰ってしまった。
このままモンスターはガン無視して進むとしよう。早く服が欲しい。
しばらく走ったとき、大きな丘と、それを取り囲む外壁が視界に入る。
丘のてっぺんには大きな大きな木が生え、緩やかな斜面には、沢山の建物が建ち並んでいた。
そして、入り口の門のような場所には、男が二人立っている。 すらっとした体格に尖った耳。ファンタジーに良く居るエルフという奴に類似している。
どうしよう。こんな大きな魔獣を果たして町に入れてくれるだろうか。…まぁ、無理だろう。というか近づいただけでトラブルになりそうな物である。
……早速で済まないが、不法侵入といこうじゃないか。 こういうときに便利なスキルがある。
『影隠れ』。以前気になってちょっと使ってみたが、まぁ簡単に言えば10秒だけ姿を消せるのだ。
そして、もしもの時のために『収縮』も併用しよう。 ハエのようなサイズになれば気づかれることもあるまい。
近くの茂みで発動し、そこから全力疾走。門番の横を通り抜け、町の中へ。
町の中は石畳で綺麗に舗装されており、立ち並ぶ建物も、落ち着いたデザインに揃えられていた。
人通りはかなり多く、ケモ耳を生やした人や、そもそも獣な人や、小さな人など、様々な種類の魔物達が行き交っていた。
お目当ての服屋はどこだろうか。
サイズ的にも人に聞くのは無理があるし、そもそも姿が姿なので、大人しく自力で探すことにする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ハァ、疲れた。きっとここだ。
聞き耳を立てたりしてずる賢く情報収集し、その場所にたどり着いた。
やってきて思ったが、私お金持ってないなぁ…。 まぁ値段だけでも見てった方が良いだろう。
人目を盗んでサイズを戻し、店に入る。 店内にはお洒落な服が立ち並んでいるが、他の客の気配は無い。
私が入店し、奥から店員さんらしき人が現れる。 言葉で表す必要が無いくらい滅茶苦茶美人だ。背中にコウモリみたいな羽生えてるけどね。
「いらっしゃい、本店ならここじゃ無いわよ……って!!貴方!!もしかしてマンティコアじゃ無い!?あの伝説の!!」
おう、知ってる人もいるのか。ってか、オーガ達も知ってたし、割と有名なのかも。
とりあえず頷く。
「そうなのね!!お願いがあるのよ!お金なら払うから、毛を切らせて貰えないかしら!!」
唐突。もはやこの世界の伝統芸だ。
その頼み自体はかなり魅力的な物である。なんせ私は一文無しだ。……どうせなら服貰えないかな。
「良いですけど、お金の代わりに服を貰えませんか?」
「そんなの何でも良いわ!今ハサミを持ってくるから、ちょっと待っててね!!」
うっし。やったぜ。
しばらくして店員さんが毛を切る準備をしてやってきた。床にマットを敷いて、寝そべるように促されたので、大人しくそれに従う。
そして、全身の毛を、あまり見た目が変わらない程度にチョキチョキと切り始める。
「私はサキュバスのセリアよ。あなたは?」
なんだか美容院みたいだ。
「私はツボミです。ここ、他の店員はいないんですか?」
「ええ。ここは私ひとりよ。まぁ本店じゃ無いし。そういえばツボミちゃんこそどうして服なんか?」
おお!セリアさん私がこんな見た目なのに一瞬で女だと見抜いてくれたぞ。……そうはいっても声は生前と変わってないんだが。
「私はスキルで人型になれるんですが、着る物が無くて変身できないんですよ…」
するとセリアさんは少し驚いた顔する。
「へぇ、珍しいわね。となるとお目当ては魔法の服かしら」
「ええ、まぁ。お願いできますか?」
「当たり前じゃ無い。一番良いのをあげるわ」
おお、この程度でそんなに貰えるのか。もしかして私の毛は貴重なのか?
「そういえば、どうしてマンティコアの毛なんか欲しかったんですか?」
「まぁ、昔旅をしていたときに聞いたのよ。伝説の魔物の素材を使った服には特殊な力が宿る、ってね。それから気になっちゃって」
なるほどね。と言うかやっぱり貴重品か。
「こんな量で足りますか?」
「ほんのちょっとずつ編み込む程度だし、全然大丈夫よ」
少しして、セリアさんが「終わったわ」と言い、毛を回収し始めた。
私の方は、なんか毛並みが整ってさっぱりした感じがする。
セリアさんは、「約束の服を持ってくるわね」と言った後、再び店の奥へと消えていく。
そして、1つの箱を手に持って現れた。
「はい、最高級品の魔法の服よ。結構貴重な素材を使ってるから耐久面もバッチリ」
「そんな物をもらって良いんですか?」
「マンティコアの毛の方が貴重だと思うわ。だから追加でさっきの毛を編み込んだマフラーなんかを作ってあげるわ」
そう言った後、セリアさんが箱を開けて私の前に差し出してくる。
………これ、ただの布の塊にしか見えないんだけど…。
「この布に魔力を通すとその持ち主として登録されて、その個人にあった服に替わるのよ。前に着ぐるみになった人も居たわね。あ、更衣室使って良いわよ」
着ぐるみて…着ぐるみて…。
まぁつまり、どんな服になるかは着てみるまで分からない訳か。
更衣室は大きな魔物も入りきれるようなサイズの個室で、鏡は無い。外にはあったけどね。
まずは変身を発動する。
私の体は銀色の光に包まれながら形を変え、二本足で立ち、人間と全く同じ感覚になった頃、光が消え、変身は終わっていた。
もちろん全裸だったので、素早く布に魔力を込める。するとその布が浮かび上がり、私の体を包んだ後、形を作って服のようになった。
感覚的にはちゃんと下着もできてるみたい。すごいな。これ。
とにかく、どんな姿になったか確認してみなければ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私が更衣室から出ると、セリアさんが少々ぽかんとした表情を浮かべた後、鏡を持ってきてくれた。
恐る恐る鏡を覗いてみると、そこに居たのは1人の美少女。
魔獣の時と同じ、青みがかった白銀の髪が腰まで垂れ下がり、整った顔立ちに、透き通ったきれいな肌。そして全く無いと言って良いほど存在しない胸。
嘘…だろ…。私、生前はBの手前くらいあったんだ…。
見た目が良くなったら胸が消えるのか?貴い犠牲なのか?
しかし、コンプレックスだった八重歯は健在。なんだか理不尽だ。
服はと言うと少し大きめのTシャツに少し柔らかい素材の黒いズボン、そして黒のロングコートとなっていて、可愛さと勇ましさが互いに主張し合いながら良いところでバランスが取れている、かなり素晴らしいデザインの物になっていた。
そして、もの凄く肌ざわりの良い生地で、着心地が最高。文句なしの100点です。 服は。
「怖い魔物の中身はこんな美少女だったのね…。 あ、そうだ。その服は、変身をしても最初に着た姿に固定されるみたいで、別の姿になっても引き継がれたりはしないわ。つまり、その姿でしかその服は着れないのよ。前に来た変身能力持ちのお客さんが言ってたから間違いないと思うわ」
ふむ、ならばマンティコアになる度にいちいち脱がなくて良いのか。便利だな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とりあえず、私は町の事をよく知らないのでセリアさんに聞いておくことにした。
「私実は最近この辺に来たばかりで一文無しなんですけどお金稼ぐにはどうすれば良いですか?」
「それならギルドに行くと良いわ。マンティコアともなればたいていのモンスターは脅威じゃ無いでしょ?」
おお、ファンタジー特有のギルド万能説がここに来て登場か。
セリアさんから聞いた話をまとめると、ギルドは依頼の受注だけで無く、モンスターの解体や買い取りなんかをやってくれるらしく、ギルドメンバーでなくとも、それはやって貰えるらしい。
ただしメンバーでない場合は手数料の他に少しお金を取られるから、売って得たお金でギルドに登録して、それから色々やるといいとのこと。
幸いな事に何種類かモンスターのストックがあるから、こいつらを売ろうかな。
そうと決まればささっと行ってこよう。寝床も確保しなきゃだしね。今は昼頃だし、夜までにはなんとかなるかな。
「マフラー明後日までに作っておくからそのくらいに取りに来てね」
「ありがとうございます。いろいろお世話になりました」
礼を言って店を出る。そして、別れ際にセリアさんに頼み事をしておいた。
「私がマンティコアであることをあまり知られたくないのでできるだけ他言無用でお願いできますか?」
「ええ、分かったわ。まかせといて」
オーガ村みたいな、大きな反応をされるのは嫌だからね。
さーて、ささっとギルドに行きますかー。