104話 会談再開
翌朝となった。
あの後、宿に戻った私達は疲れて眠ってしまい、結局ツバキたちに土産話をすることも出来なかった。
「ほら蕾ちゃん早く!会談始まっちゃうよ!!」
朝早くだってのにコレか。どうやら土産話をする時間すら貰えないらしい。
「早くねぇ?王様達ってそんな暇なの?」
「一刻も早く決めたいんじゃ無い? いやまぁ会談はお昼前からだけど、蕾ちゃんは着替えとかしなきゃだし…」
ハァ?またあのドレス着せられんの!?絶対嫌なんですけど。
なんとか断れない物だろうか。
「私はいつもの格好で出たい。何でわざわざあんな戦いにくい格好しなきゃならないの?」
「……なんて言うか…蕾ちゃん、こっちにどっぷり染まったねぇ…。でも服装はやっぱりちゃんとしないと。蕾ちゃんの格好ってどれも厨二だし」
反論なんていくらでも思いつくんだ。でも否定できないのが凄く悲しかった。
またあの格好か。嫌だなぁ。
「ハァ、仕方ない。腹を決めたよ。行こうか」
「……いって…らっしゃ…い……」
寝起きでぼーっとしたままのキリエに送り出され、少しやる気も回復したので王城へ向かうことにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お姉様、やはりよく似合っておりますわ!」
少し我慢して、ツボミ姫の完成だ。この格好だと鏡なんかに映った自分を見た時に可愛いと思ってしまう辺り、やはり人は磨けば輝くんだなぁ、と思ってしまう。
しかも側でニコニコ(ハァハァ)しているお姫様も妹みたいに見えてきてしまうのだ。
落ち着け私。コイツは一応ヤベー奴なんだ。
「そんじゃ、いこうか」
王様に、着替え終わったら一度顔を出して欲しいと言われているので、王の間に向かわなければならない。
「お、お姉様のお隣を歩くなんて…緊張しますわ…」
こんな事をハァハァしながら言っているから私はまだ理性を保てるのだろう。
ちょっぴり頬を赤らめながら上目遣いで言われたら間違いなく抱きしめてしまう。私までヤバイ奴の仲間入りはしたくない。
絨毯の敷かれた大階段をゆっくり一段ずつ上ってゆく。イイネ私。上品さが溢れてるねぇ。
通り過ぎる使用人さんが皆一瞬こちらを振り向いていく辺り、やはり完璧か。
しかし私をじっと見つめてくる人は執事さんよりメイドさんが多いのだ。私のファンも女性が多いし、一体なんなのだろうか。
そのままおしとやかに王の間へ。
「おお、ツボミ様、おはようございます。今日も見た目だけは素晴らしいですな」
こいつ、容赦なく罵倒してくるようになったな。まぁ親近感が湧いて良い、と友好的に解釈しておこうか。
「ツボミ殿、早かったな」
おや、皇帝様もいたのか。
「おはよう、2人とも。私って今不敬罪大丈夫?」
「はは、そんな物気にしないさ。ツボミ殿は強いからな」
良い脳筋だ。仲良くなれそうじゃ無いか。
私が来たことで、会談が再開される。
「ゴメン、話の前に、私から一つ聞きたいことがある」
「…聞きたいこと、ですか?」
「連中、私のコレに似たような武器を持ってなかったか? 普通の武器じゃ無くて、魔力を使った兵器を」
そう言ってカースオブキングを取り出す。
私が倒した連中はハンドガンに似たものを持っていた。そしてキリエやツバキにもランチャーやC4に似たものを渡された。王城襲撃部隊が持っていないはずが無い。
「と、言うことはそっちも持っていたのか」
皇帝が懐から何かを取り出し、卓上に置く。
ん?剣か?
「魔力を流してみてくれ」
そう促されるまま魔力を流してみると、剣が黄緑色に光り出した。
「これは?」
「ただ魔力を流しただけなのに、とんでもなく切れ味が上がっているのだ。まるで複雑なエンチャントを施したかのような威力になっている」
「それって凄いの?あんまりよく分からないんだけど」
実際、私には白夜があるし、凄さが分からん。
「まぁ、それは良いとして、そちらも何かあったのだろう。現物は無いにしても、話を聞かせてくれないか?」
「ん?現物ならあるよ?」
インベントリから取り出し、卓上に3つを置く。
「ここ二つは魔力弾を打ち出す遠距離武器、こっちは遠隔爆破できる魔力爆弾だろう。ったく、現代兵器持ち込みやがって。こっち風に言うなら劣化版アーティファクトだね」
「アーティファクト、ですか? しかし、アーティファクトは相当希少だったはず。あれほどの量など、信じられません」
「そ。だから“劣化版”。きっとどうにかしてアーティファクトを解析し、そのデータを利用して量産したんだろうよ」
それを聞いて王と皇帝が表情を変える。
「劣化版とは言え、ここまでの物が量産されているとは…。これらが一般に流通したらマズいのでは…」
「あぁ、その通りだ。早急に対策を考えるべきだな」
それに、きっとこれだけでは無いはずだ。こうしている間にも新兵器の開発や質の向上が行われているはず。
そして、これらの元になったアーティファクトは何処から入手したんだろうか。
だが、今は情報交換できただけで良いだろう。尋問の結果も待たなきゃならないし、今は情報が少なすぎる。
「まぁそれは置いといて、ラネシエルについての話に戻ろうじゃないか。今言ってても仕方ない話だし」
「……そうですな。今はそちらが先決でしょう」
テーブルに出した物を回収し、インベントリにしまう。
すると、皇帝が軽く手を上げた。
「私に案があるのだが、良いだろうか」
「ふむ。お聞きしましょう」
「いっそ我々と同盟を結んでしまうのだ。混乱している連中を受け入れることで、魔物達の懐の広さをアピールし、対等以上の関係を築く。どうだろうか」
そうか、受け入れか。
ヤバイ、私に妙案が浮かんでしまった。
でもコレはまた雫達がよく思わないんじゃ無かろうか…。
いや、私が手を下してなければ良いか。
「むしろ今、連中の前に名乗り出て、洗脳が事実ならそれを許すから、その洗脳者を倒して協定を結び、友好関係を築こう、と宣言するのはどう?」
「……?具体的には何を?」
ふふふ、聞いて驚け。
「なんもしない」
「「はぁ?」」
「なんもしない」
「いや、ツボミ殿、2回言って欲しかったわけでは無いんだ。しかし、宣言して何もしないとはどういうことだ?」
「今まで敵だと信じていた奴が味方でした。そして狂ったように信仰していた物が諸悪の根源でした。でも魔物達は洗脳されていたとは言え、同胞を脅かしてしまった自分たちを許すどころか仲良くやろうと言ってくれます」
芝居がかった口調で話すと、王は少し引いたような顔をした。しかし、私の真意に気づくと、その表情を変える。
「ま、まさか…」
「そう。罪悪感につけ込んで内乱を起こ“させる”。そしてこっちは傍観だ。事が終わったら我々の手出しの前に決着をつけるなんて、洗脳は本当だったんですね~みたいなことを言っておく。常に上の立場を取り続けるんだ」
王様の側の雫がうわぁ、と声を漏らす。
「しかし、そう上手くいくでしょうか。それに我々の国民の中でも、自体に協力したいと思う者達も居るはずです」
ふむ、そうか。
「ならば傍観では無く、協力者を募っての援護、という形にしようか。それなら丸く収まる。それに、内乱はほぼ確実。私が根回ししといたからな」
それを聞いた王はこめかみを押さえ、皇帝と雫はため息をつき、帝国勇者は目を輝かせた。
「ツボミ殿は本当に恐ろしいな…。国家を丸ごと変えるような内乱を起こすような根回しもそうだが、それをしてなお動じず、冷静に汚い策を考える。恐ろしいことこの上ない」
皇帝からの評価は少し的を外れていた。
私は動じていないのでは無い。もともと何も思っていないのだ。
まぁ強いて言うなら邪魔な駒が消えて便利な駒に変わりそう、としか思っていない。
「で、どうなのこの案。もしかして結構良かったりする?」
「正直、汚いですが素晴らしい案です。こちらのリスクを最低まで減らし、尚且つ美味しいところだけ貰っていく。私はこれで行きたいですな」
「うむ。我々も同じだ。ではこれを早急に行動に移していこうか」
上手く丸まったようで良かったよ。
そんなこんなで会談が終わろうとしたその時だった。
再びドアが蹴破られ、見覚えのある顔が。
デジャブって怖いなぁ。
「貴様ら、この僕をこんな目に遭わせて、ただで済むとは思うなよ…」
あのときの襲撃者か。聞いた話からするとラネシエルの王子だな。
「今回、こちらには人質がいる!大人しくして貰おうじゃ無いか…!」
そう言って指さした先には、襲撃者達に押さえつけたれたお姫様と王女様が。
「武器を捨てないなら、今、見せしめに片方やってしまうか。オイ、やれ!」
そう言われた襲撃者の1人がお姫様の髪を掴み、立ち上がらせる。
その首に刃があてがわれる。
血しぶきが舞う。
一同は驚愕のあまり、大きく口を開けて固まった。
姫の首に刃を当てていた男の上半身が、瞬時に無くなったのだ。何かに食い千切られたように、グシャリと生々しい音を立てながら。
「はぁ、私を怒らせるとは。貴様ら、ただで済むとは思うなよ」
どうやら私は本気で彼女を妹のように思っているらしい。だから、拘束された彼女を見て、ぷっつんし、禁忌を発動したのだ。
地面や壁、天井を泳ぎ回る黒い影。
さぁ、虐殺と行こうか。
次回更新は18日の20:00です。
今回、体調が悪くてあまり書けませんでした。
短いですが、次回までには体調を整えておくので大目に見て下さい。