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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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103話 ツボミVSキリエ



「………りべんじ…まっち…」


 なんだか以前戦ったときと比べると、キリエさんの纏っている雰囲気が幾分か変わっている気がする。


 以前は巨大な要塞でも相手にしているんだろうかと言わんばかりの重厚な威圧感を感じたが、今回は鋭く磨き上げた刃を首筋に当てられたような感じだ。



 目の前にカウントダウンが表示される。


 3…2…1…


 数字がゼロになった瞬間、キリエの姿が消える。



 感じた気配は真後ろから。


「……聖刻斬…!」


 振り下ろされた聖剣は、煌めく光を纏い、とっさに回避行動を取った私の外套を切り裂いた。


 そのまま間髪入れずに光の剣によって切り返しの一撃が繰り出される。


「二刀流は本来防御の型なんだよッ!!」


 バックステップと同時にナイフを投げる。


「……盾で…十分…」


 その宣言通り、投げたナイフは右の大盾によって阻まれる。


 さっきのキリエの瞬間移動のような物は絶対に『瞬間覚醒』では無い。きっと『絶影』だ。


 どうやって覚えたのかは謎だが、攻撃面も強化されたキリエなんかただの化け物じゃないか。耐久力が紙の私にとっては辛い相手だ。



「そういえば魔法見せるんだったか。じゃあ、アレか」


 キリエに聞こえるように呟く。疑似空間と言ったらアレだろ。


 聞いたキリエは以前を思い出したのか、顔つきを変える。


 真上に一発の銃弾。


「メテオストームッッ!!」


 私の叫び声と共に、巨大な火球が降り始める。 以前にツバキを消し飛ばした死の嵐だ。


 前回、キリエは真上に障壁を集中させ、防ぎきっていた。しかし今回は私が横から攻撃出来る。


「防げるもんなら防いでみろッ!」


 キリエの頭上に隕石が着弾すると同時に白夜を赤熱させ、『爆雷刃』を放つ。


 天と地からの同時攻撃。どちらかでも喰らえば大ダメージは免れない。


「……なら……防ぐ…」



 キリエは右の盾を真上に、左の盾を地面に構え、それぞれの盾に絶対障壁を付与する。


 ドヤ顔をするキリエの前で、地面を這う爆雷刃も天空からの隕石も、盾に傷をつけることすら叶わずに、全て弾かれてゆく。


「……グローリーレイ…」


 キリエは聖剣をしまい、その場で殴りかかるように拳を引く。そこに眩い光が収縮し、キリエが拳を突き出すと共に集まった光が巨大な槍のように真っ直ぐ放たれた。


 放たれた槍の速度は視認できないほど早く、私の左手を吹き飛ばした。


 激痛が走る。


 以前の私ならば傷の治りが狂ったように早いだけで、吹き飛ばされた腕の再生など到底出来なかっただろう。 しかし、今の私には不死鳥の力の断片が宿っている。


 無くなった腕の場所から赤黒い炎が噴き出し、その炎の中から、新しい腕が現れる。


「……やっぱり…バケモノ…」



 私の反撃を恐れたのか、キリエは盾を構えながら後退。その場でじっと防御姿勢を取った。


 有効打にならない隕石は中断する。今の状態では私の集中力が散漫になるだけだ。


 ちなみに、私の不死鳥の力は完全では無いので、勿論死にづらいだけで普通に死ぬし、失った部位の再生にも限度はある。 元々の防御面の低さもあって、やはり無茶は出来ない。


 しかし私の長所はなんだったか。再生力?違う。


 圧倒的な破壊力だ。


「器用な戦いはやめよう。要はその盾ごとブッ飛ばせば良い訳だ」


「……絶対障壁…神装…どんな攻撃も…無駄…」


 ううむ、残念なものだ。キリエさんはこっちに来てから一番つきあいが長いんだけどなぁ。


 私の火力を甘く見ているようだ。


 疑似神装。鬼撃。鬼殺。ケイオス。それに加えて新しく習得した『崩撃』を発動。


 これは短時間のみ白夜の赤熱状態と同じ効果を得るエンチャントだ。



 ステータスアップの同時発動によって私の体にはかなりの負荷がかかる。しかし、それはマンティコアの再生力がカバーする。今私がやることは、全力でぶん殴る事だ。


 ケイオスアクセルで真っ直ぐに加速。そして右手に赤い魔力を乗せ、縦に向かって拳を叩き込む。


「黒龍拳亜流!『崩牙衝』!!」


 ひたすら真っ直ぐに叩き込まれたその拳は、触れた瞬間、障壁にヒビを入れ、「パリン」という軽い音と共に、まるで薄いガラスのように障壁を叩き割った。


 だがそれだけでは止まらない。障壁を吹き飛ばした拳をケイオスアクセルで更に加速。


 崩壊の魔力を放ちながら盾そのものにも打撃を叩き込む。


「……!!」


 キリエはその表情を変え、再び障壁を発動しようとするが、時既に遅し。


 拳をモロに受けた盾はバキリと嫌な音を立てた後、バラバラと崩れ落ちていった。


 二つ目の盾を回し、再び防御しようとするキリエ。しかし、私の加速力がそれを上回る。


「もう一発!!」


 盾が降りてくるよりも早く、私の左ストレートが炸裂し、キリエを遙か後方へと吹き飛ばした。



 だが、そこで鬼撃と鬼殺、崩撃の時間切れ。再使用可能までは、まだ少しクールタイムがある。


「……ま…だ……終わって…ない……!」


 よろよろと立ち上がるキリエ。


「……練習中の…技…ある……それに……賭ける……!」



 キリエはそう言うと共に目を閉じる。


「………いでよ…魔装……!」


 黒い雷がキリエを中心に発生し、乳白色の髪が徐々に黒く染まってゆく。


 そして地面に広がった魔方陣から7本の黒い武器が現れた。


 最初にキリエと出会ったときと同じ、魔装が発動されたのだ。


「斬りたい斬りたい斬りたい!肉も骨も全部断たせて!!」


 見開かれたその目は狂乱に染まり、捲し立てるように言葉を放つ。


 しかし、以前の魔装に飲まれたときは言葉など発せなかったはずだ。つまり、曖昧ではあるが意識を保っているのだろう。


 だが、言動そのものは普段とかけ離れ、魔装に飲まれているようだ。まぁヤンデレと取れなくも無い…か。



「全部折るの?全部壊すの?そんなことさせないよ?」


 再び発動されたであろう絶影によってキリエが目前に現れる。


 右手には聖剣。左手には黒い剣。そして取り囲むように6本の武装。完全に分が悪すぎる。 しかも、前回の最終決戦の時のような黒いオーラ付きだ。冗談はよしてくれ。


「マジで有り得ないからッ!!」


 必死にケイオスバックステップで距離を取る。


 だが、再び目前に現れるキリエ。今度は瞬間覚醒かよッ!


「ツボミ大好き!!だからその血も肉も骨も皮も全部が欲しい!全部頂戴!全部私に斬らせて!!」


「そんな歪な告白嬉しくねぇッッ!!」


 振り下ろされた2本の剣を白夜でなんとか弾く。しかし、同時に襲いかかった6本に体中を切り裂かれる。


 私の口からは呻き声と血が溢れだした。



 しかしキリエの攻撃は止まらない。


 今までならここは闘気覚醒の使いどころなのだろう。しかし、アイリスと統合してからはどういう訳か闘気覚醒が発動しないのだ。スキル自体は消えていないが使っても加速しない。


 つまり今はまさに絶体絶命の大ピンチというわけだ。


「何がバケモノだ!鏡見てから言えっての!!」


 インベントリからブラックオブディスペアーを取り出し、二刀流スタイルで攻撃を受け止める。だが、それでも受けきれなかった攻撃によって私の体は再び切り裂かれる。



 このままじゃ間違いなく負けてしまう。


 ギャラリーも居るし、私自身あまり使いたくは無かったが、仕方ない。


「キリエも全力を見せてくれたんだ。今度は私の力を見て貰おう」


「抵抗しないで私に斬られてよ!その体の全部を切り裂かれてよッ!!」


「お断りだァァッ!」


 私の叫びと共に、今までとは遙かに濃度の違う赤黒い魔力が噴き出す。


 その魔力は白夜を包むように集まり、形を形成してゆく。


「顕現せよ。―断界の大鎌―」


 その声と共に現れたのは以前2人をワンパンした赤黒い大鎌。


 死神の鎌が振り上げられた以上、命は一つ失われる。


 キリエによって私が斬られるのでは無い。断ち切るのは私。そして斬られるのはキリエだ。


「ツボミ、好きだよ。好き好き好き好き好き好き大好き。だから私に斬られてね?私に断ち切られてね?」


「悪いけど、そろそろ幕引きと行こうか」



 先に動いたのはキリエだ。2本の剣を持ち、6本の武器を引き連れ、有り得ないような速度で動き出す。


 対する私は大鎌をゆっくりと振り上げる。


 迎撃する気は全くない。


 攻撃も、武装も、その存在ごと吹き飛ばすだけだ。


「如何なる存在も、如何なる物も、光も、闇も、神の前では等しく無力。世界の摂理を断ち切る炎神の刃、その一欠片を受けるが良い」


 儀式めいた詠唱。自分が扱える物よりも強力な力を扱うには私とて詠唱が必要だ。


「断界:火之迦具土神」


 大鎌が豪炎を纏い、そのまま地面を擦り上げるように振り上げられるのと同時に輝くような炎が噴き出す。その炎は大地をも焦がすように燃え広がり、巨大な爆発を引き起こした。


 魔装も、キリエも、その神炎の前には跡形も残らずに消滅し、疑似空間の効果によって復活する。


 勝利の表示は私の前に現れた。



「……ツボミは……アイリスは……おかしい………まだ…世界…滅んでないの…不思議…」


 元のように大人しくなったキリエがぶつぶつ言いながら私に抱きついてきた。


 顔は見えないが、耳まで真っ赤になっているのを見ると、魔装中の言動が恥ずかしいのだろう。



「あ、どうだった?なんかキリエのせいで試合になっちゃったけど」


 ぽかんとしたままの3人の少女に向かって問いかける。 


「なんかもう……凄すぎて分からなかったわ…。とにかくヤバいことだけは分かったけど…」


 エミリーは全てを諦めたように答える。



 ん?そういえば、キリエ今自分の意思で魔装使ってなかったか?絶影の事も、私の左手飛ばしたアレのこともあるし、一体何処で練習してたんだ…。


 聞こうかどうか迷ってキリエの顔を覗き込んでいると、私の意図をくみ取ったのか、自分から口を開いた。


「………こっそり…ツバキと…特訓…してた…」


「もう強化度合が特訓とかそんなレベルじゃ無い気がするんだけど…」


「……気の…せい…?」


 そうか。そう言われてしまったら、私の気のせいなんだろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 疑似空間から帰ってくる。少し時間がかかりすぎたのか、周りは夕方になっていた。


「私達、そろっと戻らなきゃ。明日大事な用事があるんだ」


「……そうですか。他の皆にも会ってあげて欲しかったのですが仕方ありません。また来て下さいね」


「うん。まぁ多分すぐ戻ってくるけどね」


「ホント!?絶対よ!約束だからね!!」


 エミリーちゃんに耳と尻尾が見える…。



 そんなこんなで3人に見送られ、正門に向かって歩き出す。


「キリエ、魔装中にずいぶん恥ずかしいこと言ってなかった?もっかい言ってみてよ」


「………ツボミ…きらい…」


「えぇ…」


 少し意地悪してみたが、心を抉られるだけで終わってしまった。


 いつか通常モードで言わせてやろう。



 明日は会談だったか。連中のことも聞かなきゃだしな。また真面目モードにならなきゃ。


 そう言う意味では今日の息抜きはずいぶん良い効果だった気がする。明日は集中できそうだ。

次回更新は土曜の20:00です。


今朝目を覚ましたら顔にカナブンが乗ってました。

一体どこから入ってきたのでしょう。しっかり戸締まりしてたのに…。

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