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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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101話 襲撃者



 窓からの襲撃者達の前には双剣を持つ雫が、扉からの襲撃者達の前には次元収納から大剣を取り出したルザリオがそれぞれ立ちはだかる。


 私もこんな立場じゃなければ素早く参加できるのだが…。


 襲撃者達の中から、二人の男女が進み出てくる。


「貴様らは我らが完全に包囲した。大人しく投降すれば命だけは助けてやろう」


 男の方がそう口にする。


「ッ!貴様らはラネシエルとリスティの…なるほどな」


 皇帝が何かに気づいたようだ。口振り的にあの二国の関係者か。


 奴らはこちらの返答を待っている。この時間で私には何が出来るだろうか。


「あなた方の目的は一体何です」


 冷静に問う王様。それには女の方が答える。


「魔物を奴隷にすることよ。貴様らに邪魔されなければ上手く進んでいたのに…。本当に鬱陶しいわ」



 なるほど。こいつらはあの計画の関係者か。


 そう考えた瞬間、私の中で静かな殺意が再び目を覚ます。


 私の守りたい物は何だ? 平定だ。


 今私のすべきことは何だ? 殲滅だ。


 容赦は要るか?


 否だ。



 そう考えた時には既に体が動いていた。


 カースオブキングから放たれたのはショックバレット。


 ここには雫も居るし、何より国のトップが二人も居るのだ。血を流すわけには行かない。そのあたりの理性は保てている。



 ショックバレットは確実に二人の男女を捕らえ、更にその後ろに居た連中をも気絶させてゆく。


 私の銃撃で戦闘が始まる。


 だが、指揮官を失った連中の乱れた攻撃は二人の勇者によってあっけなく弾かれ、返り討ちにされる。


 その間にもショックバレットの嵐は的確に1人ずつ仕留めてゆき、すぐに辺りは静まりかえった。



 襲撃者達が1人残らず戦闘不能になるまでわずか30秒。襲撃者は48人だった。



「王様、皇帝様、お怪我はございませんか?」


 微笑みを向けながら安全確認。最初に攻撃したのは私だし、もし2人が怪我をしたならそれは私の責任だ。


「ええ。助かりましたよ、ツボミ殿」


 王は無事のようだ。だが、皇帝は私を凝視し始める。


「ツボミ殿、もう上品に振る舞う必要は無い。本性を見せて欲しい」


 ……お見通しか。


「どうして人の上に立つ者はこうも鋭いんだ?我ながら結構上手な演技だったと思うんだが」


「最初は私もおしとやかで上品な令嬢だと思っていたよ。だが、先程の容赦の無い無慈悲な攻撃、そして死神のような目。あれは圧倒的な強者のそれだ。この立場にいる私ですら、なかなか見られる物では無い」


 圧倒的な強者?あぁ、きっとアイリスのせいだ。


 まぁ今の私はアイリスを引き継いでいるわけだし、そんな目になっても仕方が無いな。容赦の無い無慈悲な攻撃は完全に私だが。


「このような状況では会談の続き、とはいきませんな。ひとまずこやつらが目を覚ます前に縛り上げておきましょう」


 王様がそう言うと使用人達がどこからともなく縄を持って現れ、気絶した連中を縛り上げる。



「皇帝。あなたさっき此奴らを知ってるようだったな。教えてくれないか」


「……良いだろう。此奴らはラネシエルとリスティの王子と王女。2人とも勇者だよ」


 ほう、此奴らがか。なら、今始末できたのは好都合か。


「襲撃がこれで終わりだと思う?」


「いや、町が襲われる可能性もある。今は備えた方が良いだろう」


「同感ですな。騎士団を町に配備しましょう」


 王様が使用人の1人にそれを告げる。


 今までのパターン的にこれで全部行き届くんだろう。ホントに恐ろしい国…。


「私達も町を見回って、騒ぎが起きたら駆けつけることにするよ。どうせ会談の続きは後日なんでしょ?」


「ええ。宜しくお願い致します」



 さて、早急に着替えてキリエ&ツバキと合流するとしよう。


「雫はここで王様を守ってあげて」


「うん。分かってる。指一本触れさせないよ!」


「ではお二方。また後日お会いしましょう」


 わざと丁寧に挨拶して着替えた部屋へ向かう。



 いつもの死神スタイルに着替え、化粧を落としてサイドテールに戻し、王城の廊下を駆け抜ける。


 廊下では襲撃の時に怪我をしたらしい兵士さん達が運ばれていくのとすれ違った。やはり被害はゼロではなかったか。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 王城外には、襲撃で騒ぎがあったのか、沢山の人が集まっていた。 勿論親衛隊も。


 いまこそ、『親衛隊』たる所以を見せて貰おうじゃないか。


「親衛隊諸君!どうか私の周りに集まって聞いて欲しい!私から頼みがある!!」


 一角に集まる黒い法被の連中に呼びかける。クッソ恥ずかしいなこれ。


 私の呼びかけにもの凄い速度で答えた一同は各々声を上げながら私を円状に取り囲んだ。


「大きな声では言えないが、今後も町中で襲撃が起こる可能性がある。その時、パニックになった人や怪我人達を助けてあげて欲しい。だが、決して無理はしないでくれ。お願いできるだろうか」


「「ウオォォォォォォオ!!!!!」」


 大きな雄叫びを上げた一同は素早く町に散らばってゆく。


 流石だぜ私の取り巻き。肝が据わってるな。



「親玉感が増してきたんじゃないかい?もういっそボスになってみるのもアリかもねぇ。」


「……人混み…疲れた…」


 おやおや、この騒ぎのおかげか探していた二人の方から来てくれた。 いや、キリエレーダーかな?


「二人にも頼みたいことがあるんだけど…聞いてくれる?」


「どうせ残党狩りだろう?うちには超優秀な探査班が居るんだし、残党なんかが潜伏できるわけも無いんだけどねぇ。」


「……まか…せろ」



 キリエ様々だな…。


 まぁとにかく素早く解決しそうで良かったな。そうとなったら急がねば。今は町に被害を出すわけには行かない。


「………あっち…6…。……むこう…5…」


 潜伏している連中の方向と人数を次々と示してゆくキリエさん。つくづく敵にしたくはないものだ。


「この近くにはちょうど3組か。なら三人で手分けすれば良いね」


「ステータス的には一番近くをキリエ、一番遠くをツボミ、真ん中が僕、ってのが良いかねぇ。」


「……ん」



 まぁそれが良いだろう。キリエはそのままレーダーでいけるし、ツバキは気配感知がある。 そして私もアイリスの気配感知が使えるようになっているから、全員素早く見つけられるだろう。


 二人にケイオスアクセルを付与した後、自分も発動する。 そして軽くうなずき合った後、それぞれの方向へと走り出した。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 王城近くの寂れた小屋の中。 そこに襲撃部隊のγ隊が潜んでいた。 総員5名。ラネシエルとリスティの合同特殊部隊の精鋭チームである。


「隊長、定刻までもう少しです」


「うむ。そういえば完全に沈黙した王城襲撃チームはどうした?」


「連絡は途絶えたままです」


「そうか…。いや、我々は我々の仕事をこなすとしよう」


 彼らが構えるのは魔道砲と呼ばれる武器だ。


 魔力を集め、大砲のように打ち出す魔道具で、彼らの国でアーティファクトを解析し、作り上げた物だ。 本物には遠く及ばないが、それでも一般人を軍人レベルまで引き上げることは出来る。それをエリートが使えばなおのことだ。



 隊長が動き始めようと、立ち上がったときだった。


 飛び込んで来たのは光の槍。 鉄で出来た扉に軽く穴を開け、向かいの壁をも貫通した。


「何者だ!!」


 トコトコと歩いてくる白い少女。答える気配は無い。


「構え」


 隊長の指示で隊員達は魔道砲の発射準備をする。一発を打ち出すために必要なチャージ時間は約10秒。そのため一人が発射し、その間に別の者がチャージ。と言ったローテーションを取るのが好ましい武器である。


 しかし、ふわふわと軽い足取りで近づいてくる白い少女キリエは全く動じる気配が無い。


「最終警告だ。そこで止まれ。そうで無ければ命は無いぞ」


 キリエは勿論止まらない。それどころかその場から一瞬で姿を消す。 その後、隊長は起こった事態に驚愕するしか無かった。


 先程まで眼前に居たはずの少女が後ろに構えた隊員達を蹂躙しているのだ。 少女は武器を使わず、体術と手刀だけで鍛え抜かれた精鋭達を一人また1人と気絶させてゆく。


 魔道砲など発射する暇も無く倒れてゆく隊員達を見ながら隊長は思った。“あぁ、この国には手を出してはいけなかった”と。


 隊長が降伏する間もなく、意識は刈り取られ、闇の中に消えてゆく。



「………てごたえ…ない…」


 たった1人残った少女は誰に伝えるでも無く、ぽつりと虚空に呟いた。


「……しばらなきゃ」


 少女は思い出したようにボスから渡された縄を取り出し、気絶する連中を纏めて身動きが取れないように縛り付ける。


 そして床に転がった魔道具を次元収納にしまう混むと、一仕事終わった~とでも言うようにあくびをする。


 良い青空だ。草原で横になったら気持ちいいだろうなぁ。 そんなことを思いながら少女は空を見上げた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 所は変わって少し離れた地下水道。


 そこには同じく襲撃部隊のβ隊5名が潜んでいた。


「準備は出来ていますか?」


「ええ。定刻になればいつでも」


 どうやら爆発系の魔法が仕込まれた魔道具を各地に設置しているらしい。 そしてここからの遠隔爆破が可能、と言う事だ。


 別部隊の様子を知らない彼らはもうすぐ起こるであろう混乱を想定してニヤリと笑う。


 しかし、背後の通路から横槍を入れるかのように声が響いてくる。



「お取り込み中悪いんだけどねぇ。大人しく降参してくれないかい? 今それを破棄すれば痛い思いしなくてすむよ?」


「何者ですか?姿を見せなさい」


 通路からコツコツと足音を立てて現れたのはジーンズにパーカーにメガネというラフな格好の女。


「全く、こんなクッサい場所に隠れてるなんて、趣味が悪いんじゃないかい?」


「そこで止まりなさい。それ以上近づけば手が滑ってしまいますよ」


 リーダーらしき男が取り出したのは筒のような起爆スイッチ。


 どうやら確実に手が滑ってしまうらしい。病院にでも行った方が良いのでは無かろうか。と苦笑するツバキ。


「規模にもよるねぇ。どのくらいの範囲が吹っ飛んじまうんだい?」


「良い質問ですね。王城を中心に、その周りの商店街はボン、でしょう。 どうです?諦めて帰る気になりましたか?」


「そうなのかい。そりゃあ物騒だねぇ。」


 やれやれ、と大げさなジェスチャーをしてみせるツバキ。だが、唐突にその瞳から雷が迸るかの如き殺気を放った。



「降参しないなら仕方ないねぇ。ここが君たちの野望の終着点だ。」


 反射的にスイッチを押そうとしたリーダーだったが、瞬時に眼前に現れたツバキに驚愕し、その動作を一瞬遅らせる。


 その一瞬が致命的。


「黒龍拳:参ノ型。『虚影乱舞』」


 瞬時に炎から生まれた無数のツバキがその場を蹂躙する。


 3秒。それが隊員達が立っていられた時間だ。



「さて。君たちの罪はなんだろうか。」


 残されたリーダー。既に起爆スイッチは奪われ、ツバキの手の中だ。


「私達こそが正義だ。罪など無い。正義の前には罪など存在しないのだ」


「良い回答だねぇ。悪人の正義は絶対的な悪。何が正しいかなんてのは個人の問題だ。って事だろう?」


「その通り。私達にとって、魔物など道具に過ぎん。人間こそが正義。繁栄すべきなのだよ!」


 それ聞いたツバキの顔から先程までの表情が抜け落ちる。興味すら無くしたような、そんな“無”の表情だ。


「じゃあ僕の見解で決めさせて貰うけどねぇ。君の罪は…。」


 直後、繰り出された正拳突きによってリーダーは壁まで吹き飛ばされ、その意識を闇に落とした。


「この世に生まれてきたことだ。」



 隊員達をロープで拘束し、ずるずると引き摺って外に向かって歩いて行くツバキ。


「ハァ、こんな奴ら、消しちまいたいところだったけど、情報のためだし仕方ないねぇ。うっかり殺しちゃったらうちの死神に僕がやられかねないし…。」


 ぶつぶつ呟きながら、再び地下水道に姿を消していった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 ここは王城からはそこそこ離れた倉庫である。近くにはこの国の最高裁判所などがある場所で、襲撃目標も恐らくそこだろう。


「襲撃の一つ一つが目標達成の足がかりになる。他のチームもきっと順調にやっている頃だろうし、今回は簡単な仕事だな」


 ひっそりと隠れるのはα部隊。精鋭の中の精鋭が集まった超エリート部隊だ。


 7人チームの彼らの手にはツボミの物より一回り小さい拳銃が握られていた。


 これもアーティファクトを解析して作られた魔道具である。ただし、元になった魔銃の性能や技術力の問題もあって、一発ずつしか撃てない上、リロードも5秒程度かかってしまう。 しかし、やはり兵力の大きな上昇は見込める物だ。



 しかし、これまた唐突に倉庫の分厚い壁の一角が激しい音を立ててはじけ飛んだ。


 隊長やその部下は一斉にその方向へ弾丸を放つ。 確認なんて必要ない。壁を壊して入ってくる奴なんて、どうせろくな奴では無い。


 しかしヒットした音はしない。どうやら仕留め損ねたようだ。そう判断した瞬間に素早くリロードを開始する隊員達。


 舞い上がる土煙の中で侵入者の赤い目が不敵に輝いた。


「素晴らしいお出迎え、どうもありがとう。」


 流れるように放たれた言葉。隊長はそれに応えるように引き金を引く。 しかし、その銃弾は小首をかしげた侵入者の頭のすぐ横を掠めていった。


「銃を撃つのに慣れていないみたいだね。そんなに大きくてどっしりした構えじゃ射線が丸見え。私に当たるわけ無いでしょ?」


「貴様、何者だ」


「私?そうだなぁ」



 侵入者は続きを口にする前に行動を起こす。


 懐から投げられたナイフは光を纏って加速され、隊員達が持つ銃の銃身に突き刺さった。


 残った隊長は再び侵入者に向けて引き金を引く。


「動きが甘いなぁ。それでもエリート?」


 声は背後から聞こえた。一度も目線など逸らしていないのに目前の少女の姿が無いのだ。


「まばたきの一瞬でも、本当のプロ同士なら致命的な隙になる。私はプロの足元にも及ばないかもしれないが、お前は間違いなく私の足元には及ばない。それが分かっただけで十分だ」


 背後から繰り出されたヤクザキックによって前方に吹き飛ばされ、壁に張り付く隊長。既に気絶したようだ。


 ゆっくりと振り向いた少女は口元を傾いた月のようにニヤリと歪める。 その異様な恐怖に残りの隊員達は怯えるしか無かった。



 一方的な蹂躙が終わり、動けないよう拘束を始めるツボミ。


「残党狩り、なんだか懐かしく感じてしまう。アイリスはこれを経験してるのかな」


 連中を引き摺りながら倉庫から外に出て、青空を見上げる。


「キリエとデートしたいなぁ…」


 やはりこんな時でも変態性は健全の模様。


 いや、数秒まで精鋭達を作業のように蹂躙していたのにこの感想が出てくる辺りが異常なのだろうか。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「………制圧…完了…?」


「どうも手応えが無かったねぇ。後始末も面倒だったし。」


「まぁ、そう言わないでよ。尋問は必要なんだし」


 既に連中は王城に引き渡してきた後だ。



「これでやっとゆっくり出来るか。今日は疲れた。帰って寝ない?」


「さんせー」


「………さんせい…」


 ダラダラした感じの3人は宿へと帰って行く。


 彼女らの頭からは既に先程の戦闘のことなど抜け落ちていた辺り、もう取り返しがつかないのかも知れない。

次回更新は次の火曜日の20:00です。

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