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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
71/158

99話 再び王の前にて



 雲のない美しい星空を見上げ、ベンチに腰掛ける。


 思えば日本でこんな星空を見上げたことは無かったな…。私がこの世界に来てから結構経つけど、まだまだ初めて見る物ばかりで毎日が楽しい。


 地球が嫌だった訳じゃ無いが、戻りたいとは思わない。良くも悪くも、ここでの暮らしにどっぷり浸かってしまった気がする。


「ツボミ、この後はどうするんだい?」


 そうだなぁ…。魔物奴隷化計画はほぼ潰したような物だ。ここから戦争が起こることは考えにくい。ならば既に天使からの頼みは解決したのか?


 そういえばあのときに私はどうかしていたな。今だから言えるが、急に世界を救って欲しいなんて言われてその場でOKとか正気の沙汰とは思えない。


 まぁ良いんだよ。私はただ平穏な毎日が欲しいだけなんだ。それなら戦争だって何だって終わらせてやるさ。


「この後は何をしたら良いんだろうな。私のすべきことはもう終わったみたいだし、ぶらぶらと観光でもしようか?」


「え?もう終わったのかい?」


「あぁ。さっきの王様との話で伝えたことが上手く進めばラネシエルとソレイジは魔物達が暮らしやすい国になる。その後はなるようになるだろう」


「ホントに手が早いねぇ…。それならもう平和になるのは時間の問題って事かぁ。」


 まぁリスティ王国をどうするか、ってのも問題としては残っているが、それも時間が解決してくれるのでは無いだろうか。


 五国の内の四国が魔物達との共存体制を取る事になれば、自分達だけが魔物を迫害し続けることも難しくなるだろうし、今まで手を組んでいたラネシエルが敵に回ってしまったような状況だ。崩壊はそう遅くは無いだろう。



「まだ人間達を滅ぼしたいと思っているかい?」


「いや?私はツボミ分の方が強いって言ったでしょ?確かにまだ不満ではあるけど、周りに合わせることには何の問題も無いし、滅ぼしたくも無い。ってか、アイリスの力があればマジで滅ぼせそうなのがちょっと怖い」


「あぁ、アイリスの力があればやれそうだねぇ。」



 こうして夜空を見上げていれば心が落ち着いて……来ないかも。どっちかって言うと気分が高ぶってくるような気がするなぁ。


 満月とか新月とかみたいに星も何かの力を与えてくれても良いよね。


 満月と新月が力与えてくれるような話しぶりだけど、気分の話ね?ほら、事故多くなるとか、出産がどうとかって奴。でもあれ統計からするとガチって聞いたことあるけどどうなんだろ。


 吸血鬼なんかに代表されるように実際力を与えてくてると信じる文化もあるし、オカルト系でもそう言った奴は多い。


 月や星って凄ぇな。


 何の話だよ。



「平和になってからはツボミ、どうするんだい?」


「そうだなぁ……。まぁその時したいことをするよ。魔物のことも、大枠さえ作っちゃえば勝手に進むだろうし」


「なんだかおばぁちゃんみたいだねぇ。」


 いや、生きてきた年数見れば二人とも婆さんレベルじゃねぇぞ。と心の中でツッコむ。


 外見年齢的には私達はどのくらいに見えるだろうか。


 キリエは身長こそ小さいが胸がそこそこある。でも顔立ちは幼いし14、15あたりが妥当か。対するツバキは美人具合とメガネがあって20代前半くらいだろう。


 雫は元々歳より幼く見えるし16、17あたりだろう。私は赤い目と白銀の髪。どう見ても厨二病です。本当にありがとうございます。


 そういえばツバキは超背が高い。私も平均よりはちょっとデカいけど、ツバキはもっとデカい。ちなみに私はだいたい164~5くらいという、女子にしては結構高い部類だ。確か平均は158とかそこらだった気がするから、やはりデカいだろう。


 対してキリエ&雫はちっこい。雫なんて150くらいだし、キリエはそれよりもうちょいデカいが平均ほどは無いだろう。そのため四人で歩いてると結構差が目立つ。雫は気にしているようだ。



「そういえば剣って何?」


「あぁ、そうだったね。いろいろ聞こうと思ったけど何か満足しちゃったし、渡すとしよう。アイリスから君に渡すように頼まれたんだよ。」


 そう言ってツバキが取り出したのは一本の黒い剣。


 鞘に収まっている状態だが、一般的な形で無いのはよく分かった。が対称では無い。片方は真っ直ぐに伸び、もう片方は刀身に沿うように重なった金属が取り付けられており、どことなく刺々しい印象。


 刀身自体はすらっと伸びた黒で、サイズ的にはグレイスオブクイーンやブラックオブディスペアーより二回りくらい大きい。鞘や柄の部分には赤と金の装飾が所々に施されていて、見栄えもかなり格好良く仕上がっている。


 それに結構軽いんだ。コレ何で出来てるんだろうか。


「その剣は“白夜”という剣だ。アイリスが使っていた物だよ。色々と特殊な能力があった気がするんだけど…教えてくれなかったんだよねぇ。」


 ほう。特殊能力付きか。ちょっと試してみるか。 とはいうものの、おぼろげながら記憶があるんだ。



 私は剣を抜き放つと、刀身に魔力を込める。すると、黒かった刀身が赤く輝きだし、赤黒い刃へと変化する。


 この剣、実はアーティファクトと呼ばれる部類のものである。カースオブキングがそう呼ばれるならコレはそう呼ばれなければおかしいものだ。


 この赤黒い刃は“崩壊”を体現した剣である。というものの、この刃は魔素を断ち切るのだ。



 魔素って何だ?とか、具体性が無いので、図書館で得た知識をここで出しておこう。


 偉い人はこう言ったのだ。「この世界は“魔素”で出来ている。」と。


 つまるところ、地球で言う原子や分子である。それがこの世界においては“魔素”と呼ばれるものである、と言う事だ。


 物質は全て魔素によって構成され、魔力というのは、魔素が集合して濃度が上がったものだ。そのため、魔法は魔力を消費し、炎や水などを生み出すことが出来るのだ。



 そしてこの剣、白夜は魔素を断ち切れる、この世界にたった一本の剣だ。つまり魔素を断ち切れると言うことは、物体の堅さや性質を無視して断ち切ることが出来ると言うこと。


 まぁ流石に一太刀でさっくりとは行かない。だが、この赤熱したように見える剣が“崩壊”のスキルを持っているので、この剣を当てたり押しつけたりするだけで、原理的には何でも消滅させられる。


 やはり物質にもよるがある程度まで、斬りつけるだけで消滅させられるというのはチート級。アーティファクトと呼ぶには十分だろう。まぁそれだけでは無いが。


 それに、刃が常に周りの魔素を破壊し続けるので、切れ味も圧倒的に高い。


 欠点があるとするならば、アイリスの魔力が無ければ発動しないこと。アイリスのあの赤い魔力は、本来の魔力とは違い、汚れ、壊れ、崩れた、異常で不安定な魔力。アレが無ければこの剣の能力は使えない。



 今の私は、元々私が持っていた濃密で膨大な安定の魔力。そしてアイリスの持つ、不安定の魔力。その2つを併せ持っている。よってこの剣も使えると言うことだ。


「そういえばアイリスがグレイスオブクイーンのお詫びって言ってたけど、どうなったの?」


 え?お詫び?何のことだ?


 インベントリにしまい込んでいたグレイスオブクイーンを取り出してみる。


 取り出した瞬間に気づいたが、まず柄が赤黒い。鞘から抜いてみると、綺麗な白だった刃はその輝きを失い、赤黒く汚れてしまっている。そして、刀身自体も所々がかけたりしていて、これでは使い物にならないだろう。


 なんてこった。疑似空間内で破壊されたはずのグレイスオブクイーンが現実でも壊れている……。何故だ。何故だアイリス。


 理由はともかく、この剣は私の旅における、最初の武器だったんだ。どうにも悲しいところがあるな……


 まぁいつかは壊れるだろうと思ってブラックオブディスペアーを作っておいたわけだし、今がその寿命だったんだろう。そう割り切っておくとしよう。


 それともガリスさんのとこ持っていったら直して貰えるだろうか。明日行ってみようかな。



 ちょっと待てよ?と思って確認してみたが、グレイスオブクイーンが壊れたせいで、ホーリーバレットと聖刻弾が使えなくなってしまっていた。


 コレで私は火と闇しか使えなくなったようだ。一応雷も使えるか。


 そういえば属性って言うのは魔力が持つ性質のことで、6つある。火、水、雷、土、光、闇、だ。


 そして、人間でも魔物でも個人個人にその属性の適正という物がある。適正にも度合があり、強い適性を持てば持つほど、その属性を上手く操れるらしい。


 ちなみにツバキ曰く、私の適性は火と闇らしい。雷が少々あり、水と土と光は皆無だが、適正2つはもの凄く強い適正らしいよ。まぁ私の使える魔法の属性が火と闇、少々の雷だし、なんとなく分かるよね。


 加えて言うならばアイリスの適性は全属性がマイナスだ。あの赤い魔力はどの属性とも反発するらしく、アイリスは属性系スキルすらマトモに使えなかった。


 あ、コレも図書館で得た知識である事を言っておこう。



「そういえば王様と物理的にお話した時に、もうリスティ王国の偵察は必要なくなったみたいなこと言われてさ。報酬は明日渡すから王城来てね的なこと言われたんだよね」


「ん?そうなのかい?じゃあもう魔物領戻るかい?バカンスとかどうかねぇ。」


 ふむ。そういえば私達は長いこと休みらしい休みを取ってなかったな。問題が解決された今、思いっきり羽を伸ばしてみるのも良いだろう。


 それにしてもバカンスか。どうも真夏の海みたいな響きで嫌な物がある。海なんて、釣りするのが一番楽しいと思うんだ。なぜあんなに混んだ砂浜でキャッキャウフフ出来るのかが全然分からねぇ。


 それよかやっぱり岸壁や船で釣りだろう。まぁ私的には元々海が嫌いだから“どっちかって言うと”の域を出ないけど。


 あんな塩分含んだでっかい水たまりのどこが良いんだ。日焼けするし。プールでも行ってれば良いじゃ無いか。


 だからといって山が好きかと聞かれればそんなことは無い。山は虫が多いから嫌だ。確かに自然や景色は綺麗だが、別に山だけの特権ってわけでも無いだろう。



 なら私はどこが好きか、と言われたら“廃墟”かな。


 廃墟は良い。かつてそこに人が住んでいた、という痕跡、そしてそれが自然に飲み込まれ、崩壊した様は本当に心が洗われるような神秘さがある。


 むき出しのコンクリートに植物が絡みついているものや、軍艦島のように、1つの町が時間と自然の中に消えていったものなんかは本当に素晴らしいと思う。



 そういえば魔物領に帰ってしまったら雫とはお別れか。雫は一応とはいえどフリード王国の勇者なんだから。


 まぁ二度と会えなくなるわけじゃ無いし、いざとなればすぐに会いに来れるし、そんなに悲しいわけでは無いな。



「いやぁ、いい夜だねぇ。こんなふうに風に当たりながら星を見てると、なんとなく贅沢した気分になるねぇ。」


「そうだね。虫の声なんかも風情があって良い」




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 そんなこんなしている間に、いつの間にか朝日を迎えていた。


 あの後も何か色々話した気がするが、大半は雑談だった気がする。


 とりあえず雫を連れて王城に行こう。報酬貰わないと。



 部屋に戻って寝ている雫を揺すり起こす。


「雫さん。王城行くよ。着替えて?」


「え?王城?なんで?」


「王様に呼ばれてるんだよ。私と雫がね」


 そう説明すると、雫は何だろう…とかぶつぶつ言いながらパジャマから勇者の服に着替え始める。私も着替えよう。


 王様の前に行くんだし、いつもの服装じゃつまらないな。ゴスロリ着てこ。


 ちなみに、ゴスロリに着替えたら雫から笑われたのは別の話だ。




 そんなこんなで王城前。


 私がゴスロリのせいか、勇者のせいか、町中でよく人に見られていた気がする。


「門番さん、ただいま戻りました。通して貰えますか?」


 雫がそう言うと、門番は一礼して門を開けてくれる。さぁ、王の下へ向かおう。


 中庭を駆け抜け、城へ入り、階段を駆け上がる。


 このゴスロリ、実は戦闘時にも出来るだけ動けるように工夫されていて、階段を駆け上がることくらいは造作も無い。


 まぁ普段の死神衣装よりは動きづらいことこの上ないが。


 後ろから雫が「はやいよ~」とか言いながら走ってついてくる。まぁ別に走る意味は全くなかったが。


 普通は王への謁見って許可とか取らなきゃいけないんだろうけど、今は雫も居るし、まぁ良いよね。



「たのもー!!」


 叫びながら王の間の扉をバァン!と開ける。


 王の間には王様と、その前に跪く一人の若い男がいて、二人共がビクッとこっちを見た。


「何者だ!!」


 若者が剣を抜き、騎士達もそれに習って私を取り囲む。朝っぱらから元気良いねぇ。


 ちなみに雫は入りどころを失ったのか、透明化してやり過ごしているようだ。


「ベネウィス、剣を納めなさい!早く!」


 王が顔を真っ青にして若者をなだめる。騎士達も王に命令され、武器を納めた。


 ベネウィスと呼ばれた若者は少し反発するも、王の圧力に押されたのか、渋々剣を納めた。


「私の仲間がホントすいません……」


 後ろから入ってくる雫。何だよ。少しはっちゃけただけじゃ無いか。


 王はこっちに来てくれ、と手で合図を送ってくる。


「昨夜、初めて素顔を見ましたが、やはり明るいところでもお美しいですね」


「お褒めにあずかり光栄であります」


 なんとなく跪いて敬語で話す。すると王様は口元に手を当ててオエッと言った。


「クロユリ殿がそんな口調で話すなんて、気持ち悪いことこの上ありませぬ。そのドレスも、カモフラージュですかな?」


「テメェ…人の服をカモフラージュとか言ってんじゃねぇよ…。まぁいいや。で、用って何?」


「まずは今回の調査において、依頼以上の成果を上げていただいたこと、感謝いたします。報酬金を受け取って下さい」


 王がそう言うと、奥の方から袋を持った大臣のような人が4人出てきた。


「最低金額として金貨8000枚をご用意いたしました。幾らがご希望でしょうか」


 コイツ正気かよ……。確かにデカい依頼だったが、一般人に8000万円渡すとかバカじゃねぇのか?



「ハァ、まぁ一応依頼って形式にしたのは私だしね…。分かった受け取ろう」


 隣から「蕾ちゃん!?正気!?」という声が上がる。今はクロユリなんだ…。いや金額的にその反応は分かるけども…。


「そんで、コレを国に寄付すれば良い」


「いえ、クロユリ様…。それでは…」


「貰った金はどう使おうが私の勝手でしょ?魔物達のために使って欲しい」


「……。分かりました。無駄にはいたしません。ですが、それではお礼が…」


 ううむ、お礼なんて要らないんだけどなぁ。元はと言えば私が自分のためにやったことだし…。


「じゃあ欲しくなったときに貰いに来る。で?どうせ用事ってそれだけじゃ無いんでしょ?」


「ええ……少し頼みづらいことなのですが……」



 王が続きを口にしようとした瞬間、さっきから私の視界の端でぷるぷる震えていた若者が声を張り上げた。


「貴様!さっきから聞いていたが無礼では無いか!父上も何故こんなふざけた奴にそのような対応をするのです!」


 父上?ああ、コイツ王子なのか。


「王子のくせに相手をしっかり見極めずに自分の価値観で判断してしまうのは減点だ。教育はしっかりした方が良いよ?父上様?」


「いやはや、手厳しい指摘です。実は私も以前からそう思って居たのですよ。人間にも魔物にも平等に接する優しい子なのですが、どうも私を過大評価しているようなのです」


 私にダメ出しされたあげくに無視された王子は再びぷるぷるし始めた。


 感情に流されやすいのは更にマイナスだ。本当にこの王の遺伝子引いてんのか?


「父上!この無礼な女は何者ですか!まさか乗っ取りを狙う他国の間者!?私がたたき切ってやりましょう!!」


 そう言って剣を抜く王子様。


 ちょっと痛い目見せてやろうかな……と思ったが、私の考えを読み取ったのか、雫に袖を引っ張られた。ハイハイ。自重しますよ。


「で?王様。用事って?」


「その前にベネウィス。剣を納めなさい。今は私が彼女と対等に話をしているのです」


 この人本当に良い王様だなぁ。ゲームとかではこういう奴が裏でなんかしてるんだろうけど、周辺を漁った感じ、全くの潔白だった。


 こういう奴の依頼なら喜んで受けたいもんだね。まぁ依頼内容にもよるけど。



 王に凄まれたベネウィスは、渋々ながらも再び剣をしまった。


「それでですね。実は今回の件で、グラスティア帝国から協力して事を進めないか、と言う話が来ているのです」


 帝国から?そういえば帝国は行ったこと無かったな。どんな所なんだろうか。


「そしてその同盟のための会議が、明日に行われることになりまして……」


 明日!?いや早くしなきゃいけないのは分かってるけど…。


 帝王って暇なのか?いや、今回の件に関して真剣である、と言った方が良いのだろうか。


「その会議に同伴していただけませんか。貴方のように、どちらにもひいきせずに物を言える方が居た方が良いと思うのです」


 あぁ、そういうこと。


 まぁ前回も言ったが、


「お断りします」


「そう言うと思っていましたよ」


 にこやかに微笑む王。


 だが、それを聞いて堪忍袋の緒が切れた人が1人。


「貴様!いい加減にしろ!!父上からの直々の依頼だぞ!!どの神経があれば断ることが出来るのだ!!」


 ううむ、流石に鬱陶しくなってきたな。いちいち茶々を入れて来るのが邪魔で仕方ない。


「今すぐ不敬罪で断ち切ってやる!僕と勝負しろ!!」


 困ったな。どうしよう。


 王様の方を見ると、仕方ありませんね、と言う顔をしている。


 雫はさっきからあまり話には入れていないので不満そうだったが、面白い物を見つけたかのようにキラキラした目をし始めた。


 最近雫が私達みたいになってきた気がする。


「なんか王もいいよ~って言ってるし、1回殺してやろうか。コロシアム行こうぜ…久々にキレちまったよ…。まぁキレてないどころか暇つぶしありがとうだけどね」


「貴様ァ!この僕を馬鹿にしているのか!?」


 顔を真っ赤にして怒りを顕わにするベネウィス。面白そうなイベント発生だ。




「ハァ、勇者殿。ルール説明をよろしく頼みます」


 なんだか疲れた様子の王様に頼まれて、雫がMCのいた場所に立ち、マイクを片手にルール説明を始める。


「えーと、残機は3づつ。先に3回死んだ方の負けです。武装は自由。魔法も自由です。両者準備は良いですか?」


「僕は十分です」


「ハンデあげても良いよ?」


「馬鹿にするな!すぐに僕を舐めていたことを後悔させてやる!」


「それでは、試合開始!!」


 流石にどじゃーんは無かった。まぁ公式試合じゃ無いからね。代わりに雫が吹いたホイッスルのぴーが響く。


 ぴーと同時に王子は走り出す。奴の武装はロングソードとラウンドシールド。まぁ一般的だろう。


 対する私は素手。ロングコートの服に戻って仮面付き。いや、コロシアム来るのにこの格好じゃ無いと、親衛隊連中にバレそうだし…。


 その親衛隊は、この急に始まった非公式試合をどこから聞きつけたのか、既に観客席に集まっていた。しっかり法被も着ている。こいつらヤバいな…。


「喰らうが言い!」


 王子が走り込んできて剣を振り下ろす。鈍すぎて当たるわけも無い。そこから切り返すように繰り出された斬撃も遅すぎて当たらない。


 セコいだの何だの言われたくないから武器は使わない。やることは殴ることだ。


 今こそ、アイリスの技を使うとき。


「黒龍拳亜流。『紅蓮拳』」


 赤い魔力が右腕から噴き出す。その拳は一瞬タメを作った後に高速で放たれ、王子の腹部に直撃する。それで終わりでは無い。


 打撃部から王子の体内に撃ち込まれた赤い魔力が破裂する。体内に回った能力な不安定の魔力。人間が耐えられるわけも無く、王子の体は反発する魔力に耐えられず、はじけ飛んだ。


 おお…むごい…。


 アイリスはツバキと一緒に居たおかげで、黒龍拳を自分用に改良した黒龍拳亜流が使える。レパートリーは全然無いから本家みたいに“○ノ型”とか無いけどね。



 早くも一度死んだ王子が復活する。表情が変わっているのを見ると、やっと相手との力量の差が分かったらしい。


 だがまだ残機は2つある。次に動いたのは私だ。


「黒龍拳亜流!『赫脚二連』!!」


 絶影によって目前に瞬間移動しながら両足に赤い魔力を纏い、左足を軸にした上段蹴りを放つ。間髪入れずに右足を軸に変え、浮かび上がった体に左足の後ろ回し蹴りを叩き込む。


 再び赤い魔力が炸裂し、王子の二度目の残機を散らす。



 再び復活した王子は恐怖に満ちた表情を浮かべ、その場から逃げだそうとする。


 しかし、腰が抜けてしまったのか、上手く立てない様子。


 どうにも可哀想になってきたな。せめて痛みを感じないように殺してやろうかなぁ…。


 面倒だからいいや。


「黒龍拳亜流。『崩牙衝』!」


 ツバキの『砕牙衝』に込める魔力を赤い魔力に変えた一撃。性能的には速度や精度は落ちるが、威力は上回っている。


 拳が顔面にめり込み、内部で魔力が炸裂。 勝負はあっけなく終わってしまった。



 自国の王子が3回も殺されたのに、観客席は大賑わいだ。主に親衛隊。


 ってか、いつの間に観客こんなに増えたんだ!?最初の数倍は居るぞ!?


 さて、王城に戻って話の続きでもしますか。



 決着宣言を求めて雫に視線を送る。


 だが、雫はぺろりと舌を出した後、マイクを手に叫んだ。


「飛び入り参加は居ませんか~!誰でも、何人でも同時に良いですよ~!!」


 ハァ?


 観客席はそれを聞いて大興奮。「ウオオオ!!」と歓声を上げ、何人もが目を血走らせた。


 あぁ、コレ降りてくるわ。ちょー面倒くせぇ…。


 良い機会だし、ファンサービスでもしてやるか。

次回更新は二日後の水曜日、20:00です。

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