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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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98話 ラネシエルごはん



 さてさて、ごはんタイムだ。


 今日の献立は肉じゃが、白米、温豆腐、白菜の味噌汁です。和食ですね。


「ツバキさん、手伝ってね」


「初めてでも大丈夫なのかい?」


「知らね。大丈夫じゃね?」


「え゛ぇ…。」


 まぁそうは言ったが、料理なんて簡単だ。自分が美味しいと思ったら美味しいんだよ。ただ、包丁とか、初めての人が使うと見てて怖いのはあるよね。


 そういえばよく包丁使うときは“猫の手”とか言うけど、アレはやり過ぎは余計危ないからほどほどにした方が良いよ。慣れてくれば感覚つかめるからね。


「まずはツバキさん、洗ったジャガイモと人参の皮をむくのだ。はい、ピーラー貸したげる」


「なんだか緊張するねぇ…。ただ引くだけで良いのかい?」


「緊張のし過ぎなり何なりで力入れちゃうと身まで削れちゃうからほどほどにね」


 実はツバキ用にピーラーを買っておいたのだ。私は包丁の方が早いしね。で、ジャガイモは私がやる。芽を残したら洒落にならん。皆、気をつけようね。


 慣れない手つきで頑張るツバキ。微笑ましいね。



 皮をむき終わったら人参は乱切りにする。


「ほれ、ツバキ、乱切りせい。回しながら三角にね。こんな感じ」


 お手本を見せ、ツバキに渡す。


「こ、これ難しいねぇ…。」


 どうも初々しくて可愛いな…。真剣な顔で頑張って切ってる。


 ちなみにサイズは好きで良い。量も同じくね。多すぎると人参臭がヤバくなるからほどほどに。目安的には四人分で小さいの1本位で良いんじゃ無いだろうか。私はいつもそんな感じだ。


「ジャガイモは適当で良いよ。半分に切ってそれをまた半分にすれば良い。大きすぎたらもっかい半分。切っといて」


 私はボウルに水をくむ。今回はサポートに徹するのだ。


「切ったらここ入れてね。ジャガイモはアクが出るから水につけとかないと」



 ツバキが頑張ってジャガイモを切っている間にタマネギの皮をむいておく。これは反応が楽しみだな。


「これはくし切りね。なんとなく難しめだからよく見といて」


 ツバキの反応を楽しむために私はこの涙を我慢するッ!!今を乗り越えなければ…未来は無いッ!!愉悦こそが…可愛さこそが…正義なのだッ!!


「ほい。後はやってみて」


 私が残りを渡すと、ツバキはまた頑張って切り始める。ほんの少しして…。


「目が…目が痛い!なんだか涙が出てくるんだけど!?ツボミ、なんだいコレ!?」


 予想より一般的な反応だったな。目を押さえてぷるぷるするツバキは可愛いから許しちゃおう。


「ほら、頑張って切れ。それ切ったら次は肉ね。切り落としだから、そんなに細かくしなくて良いよ。一口大で」


「う、うむ。料理ってダメージ受けるんだねぇ…。知らなかったよ…。」


 発想が新しいな。ならばクサヤなんかは状態異常ダメージだろうか。


 ちなみにしらたきなんだけど、地方やメーカーによっては最初から切れてるのもあるけど、長いな、と思ったら自分で切ってね。



 ここまでは下準備の段階。ここからが本番だよ。


 鍋を準備しましょう。そしたら油を引く。準備した奴を炒める用だからあんまりいっぱい要らないよ。


 火にかけて、油を熱したら、タマネギから入れる。タマネギをちょっと炒めたら次は肉も入れて一緒に。それも炒めたら他の奴を全部入れて炒めよう。


「ほら、ツバキ、あんまりグシャグシャしないようにささっと炒めてね」


 優しく見守ると言う名の丸投げである。ツバキがどうも初々しくてね。許してくれたまえ。



 良い感じに炒めたら味付けて煮るのです。


 醤油、みりん、砂糖の黄金調味料。今回はなんとなく料理酒は使わないでおこう。


 分量的なポイントは地方の人によってちょうど良い味が結構変わってくること。


 私は東北の濃い味信教だから全部大さじ4~5位ぶち込むけど、関東とかの人は醤油3みりん2砂糖2くらいが良いんじゃ無かろうか。関西ならもっと薄くても良いかもね。


 後は水とだし。4人分なら水は350~400位が良いんじゃ無いかな。多いとびしゃびしゃになっちゃうから注意。だしはそこに大さじ1~2位入れれば良いと思うよ。


 これらを全部炒めたところに入れ、沸騰させる。



 沸騰してきたらアクが出てくるから、それを取ったら落としぶたをして20~30分くらい煮込もう。そのくらい経ったらジャガイモを爪楊枝で刺してみて、中まで柔らかかったら食べられるライン。


 味をもっとしみこませたかったら、もっと煮ても良いけど、今度はジャガイモが崩れてくるから注意ね。



「ツバキさん。完成ですよ」


「おお!なんだか達成感があるよ。初料理だ。ちょっと味見しても良いかい?」


「味付けの段階でしたじゃ……。まぁいいよ。どうぞ」


「……うん!美味しいね!料理ってなかなか楽しいじゃ無いか!」


 ツバキのテンションが異様に高いな…。そんなに嬉しいか?いや、私も初めての時はちょっと嬉しかったかもしれないな。


 でもずっと作ってると自分の味になってくるから、どうしても“いつもの”感が出てきてしまうんだよね。だからたまには誰かの手料理が食べたくなるもんです。



 今回使った材料は、ジャガイモ6個。タマネギ1個。人参1本。しらたき1袋。牛切り落とし400gです。皆も作ってみてね!




 さて、私はまだ終わらんぞ。味噌汁作らないと。まぁ簡単だし手順は要らないよね。始めに言った通り、白菜です。



 ハイ出来た。温豆腐って言うのはその名の通り冷ややっこの逆だ。面倒な手中は無く、パックに入ってる豆腐をそのままお湯にぶち込んで温めるだけ。


 暖まったらパックから出して切って、皿に出して、醤油とかポン酢とかで食べるのだ。鰹節なんかのっけても良いかもね。


 私実は冷ややっこあんまり好きじゃ無くてね。温豆腐は好きなんだけどなぁ…。


 ともかくコレで今日のごはんは完成です。お疲れ様でした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 「ごはんにするぞー」


 私の号令と共に、皆は席に着く。キリエなんかは楽しみだったのか、ずっと起きて待っていた。


「今日の肉じゃがはツバキが作ってくれたから。ちゃんと味わって食べてね」


 恥ずかしそうにするツバキ。なんだ、てっきりドヤ顔決めるんだと思ってたのに。


 それじゃあ。



「「いただきまーす!」」



 次々と肉じゃがをよそっていく一同。しっかり味もしみているようで美味しそうな見た目が食欲をそそる。


「……おい…し…」


 うむ。バランスの取れた良い味だ。お米との相性が素晴らしい。


 初めてだけあって具材の大きさがバラバラなのが可愛いポイントだね。


「ツバキ、なかなか素質あるんじゃ無い?」


「そ、そうかい?」


「だってほら、アレ見てみ?」


 私が目で示した先には、肉じゃが&ご飯をいっぱいに頬張っている雫。ハムスターのようで可愛げがあるが、お下品である。


「らっへ!おいひいんらもん!!」


「口に物を入れて喋るなァ゛!!」


 まぁツバキも皆も満足してくれたみたいで良かったな。何より私自身が満足だ。


 豆腐や味噌汁も冷めないうちにいただこう。味は…。まぁ無難だ。普通に豆腐の味と味噌汁の味。



 本日も美味しいご飯でした。ごちそうさまでした。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 食べ終わってまったりしていると、部屋の扉がノックされた。聞き覚えのあるノックだった。


「私が出るよ」と言ってノックの主の元へ向かう。



「報告は要らないって言わなかったっけ?」


「いえ、アフターケアはいかがかと思いましてね」


 ノックの主のオールバック、ウァレオスは私が聞き返すよりも早く口を開く。


「あなた方の目的はなんとなく分かりますよ。表立って動きたくないのならば、“噂流し”が必要でしょう?」


 ちょっと外に出よう、と言って部屋から出る。あまり皆には聞かれない方がいい話だ。


「……私、貴方のこと誤解してたかも。想像以上だったわ」


「それはどうも。もう一つ当ててみましょうか」


「どうせ分かってるんだからその必要も無いでしょ?そちらの予想通り、内乱狙いさ」


 そう。私が教会を破壊させたのにはしっかり意味がある。


 今まで洗脳によって1つの目的に統一されていた民は、それを失ったとき、何を信じるのか。何も無くなってしまったとき、噂が広まったらどうなるだろうか。洗脳を行っていたのは王と教皇。対魔教は悪。そんなことを聞いた国民達は何を思うだろうか。反逆、内乱、崩壊。それが私の狙いだ。


 今の体勢が壊れさえすれば魔物迫害も収まるかもしれないし、ソレイジ王国への介入も収まるかもしれない。


 アイリス部分を持っているせいで、新しい王が生まれるどうこうには少し抵抗があるが、まぁそこは何とでもなるだろう。


「流す噂は今言ったようなことに加え、所々で魔物達との友好関係を築くことや、リスティ王国と繋がっていたことについてもちらほら流しておきましょう」


「よくそこまで私の考えが分かるもんだ。流石だね」


「いえ、普通はこうはいきませんよ。強いて言うならばやはり、私と貴方はどこかが似ているのでしょうね」


 コレは任せた方が良いだろう。慣れない私達とは違って、この頭のキレや口振り。間違いなくプロだ。こっちが本職か。


「1つお聞きしたいのですが、内乱後はどうするおつもりで?まさか新たな王に立候補するわけでは無いでしょう?」


「別に。どうもしないよ。ほっとくだけ。またバカなこと始めるようなら今度は国民ごと殲滅する」


「……どうやらその赤い目のせいでしょうか。罪の無い民を巻き込むことにも抵抗がなくなったようですね。つくづく敵には回したくありません」


 敵にしたくない相手の前でその飄々とした態度はどうなんだ…。


「で、幾ら?100で良い?」


「ええ。それくらいが妥当でしょう。今回も先払いですか?」


 口には出さずに金貨を出して示す。


「今日はあの二人居ないんだね」


「ええ。今頃全ての教会をつぶし終えた頃でしょう」


 あぁ、二人はまだ行動中なのか。


「……なんで、今回、私達に協力的なの?」


「さぁ?貴方のように言うなら気分でしょうね。詳しく言えば鬱憤がたまっていたのですよ」


「というと?」


「あの老害はいつも我々の前で魔物達を犯していました。正直不快です。なぜすぐに殺すためとはいえ、野郎の裸を見なければならんのです。他にも、我々への金を値切ろうとしたり、我々を給料以上にこき使ったり。我々は貴様の奴隷では無いぞ。と思っていました。レオボルトなんて何度か殺そうとしていましたよ。エルネッタに止められていましたがね」


「あ、何かごめん」


「まだそれだけではありませんよ。そういえばエルネッタに手を出そうとしてレオボルトに締め上げられていた時もありましたね。私もあのときは流石に手が出そうになりましたよ。まぁ我々の中で一番金が好きなのはエルネッタですので、彼女が私達を止めてしまって、殺せませんでしたがね。まぁエルネッタが無事だったので良かったですが」


「もういい!もういいから!……ってか、何か貴方たちってどろどろしてそうな関係だね。1人の女性を2人で取り合って…みたいな」


「あるわけないじゃ無いですか。私達は兄弟ですよ?」


 はぁ?


 コイツ今なんて言った?仏頂面と美人スパイとゴリラが兄弟?あり得ん。あり得てなるものか。


「まぁ良いですよ。もう他にないようなら今から開始しますが?」


「ああ。悪かったね。よろしく頼むよ」





 部屋に戻った私はツバキと雫に「誰だったの!?」と詰め寄られたが適当にぼかしておいた。


 それよりも、今噂を流すなら一度フリード王国に戻って王に報告しておいた方が良いだろう。そちらの方が弱った国につけ込みやすいものだ。


「みんな。今日の夜の内に一度、フリード王国に戻ろう。ちょっと急用が出来た」


「ん?どういうこと?今の人と関係ある感じ?」


 雫さんは困惑しているが、残り二人が支度を始めているのを見ると、なんとなく安心感があるな。


「王様に急ぎで伝えなきゃいけないことがね。まぁ詳しくは王城着いてからにしよう」


「え?マジで今から行くの?」


「後ろ見てみ?」


 振り向いた雫は支度を完了させてピースしてる二人を見て、絶句し、諦めて支度を始めた。


「そういえばこの部屋代ってどうしたの?」


「私のお財布から出たよ」


 支度しながら雫が告げる。ならいいか。奢ってもらった事にしよう。


「……ツボミ…嫌…」


 急に私の心を抉るキリエ。私の背中だと安定しないから気絶して嫌、って事なんだろうな…。


「ツバキ、頼める?」


「あいよー。王城に直で良いのかい?」


「良いよ。私だけ下ろしてくれれば良い」


 そんなこんなで急にフリードへ帰ることが決定したのである。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 で、フリードに来た。今はツボミと分かれて僕達で宿を取った所だ。


 一緒に行っても良かったんだけど、どうしても一人の方が都合が良い。ってツボミが言うもんだから僕達の方が折れて今に至る感じだ。


 今頃何が行われているんだろうか。脅迫だろうか。暴行だろうか。王様の胃に穴が空かないことを祈るのみだ。


 怖いだろうなぁ…。真夜中に急にやってきた悪魔の話を聞いて一方的に同意しないと死ぬようなもんなんだから。いや、やめよう。最近ツボミに「私に対する評価がおかしい」って言われてしまったんだ。僕は間違ってないともうんだけどなぁ…。


「ツバキ、まだ起きてるなら留守番よろしく~。私も寝る~」


 僕と二人でツボミの帰りを待っていた雫だったがついに睡魔に負けたらしい。部屋に入ってった。キリエ?部屋に入ると同時にお布団と仲良ししてたよ。


 ちなみに今、僕は宿の前のベンチでツボミを待っている感じだ。星が綺麗だねぇ。



 ツボミ、今どうなってるんだろう。アイリスの記憶や力を引き継いだせいで、時々アイリスみたいな表情を見せるようになった。


 ツボミの考え方は変わってしまっただろうか。信念は変わってしまっただろうか。望みは変わってしまっただろうか。



 そんなことをぐるぐる考えていると、僕の前に人影が立つ。星がきらめく月夜に赤い瞳が映えてとても美しかった。


「おかえり~。どうだった?」


「寝てたから叩き起こして、声を上げないように口を押さえて、しっかり目を見て話したらすぐに了解してくれたよ。物わかりのいい人で良かった」


 ほらやっぱりだ。脅迫じゃないか。しかも寝込みを襲ってるあたりタチが悪い。


 そうだ。今聞いてみようか。


「ツボミ、ちょっとお話しないかい?」


 僕がベンチをポンポンとすると、ツボミは何のためらいもなくそこに座る。アイリスはよく警戒していたなぁ。信用されてなかったわけじゃないけど、時代が時代だったからねぇ。


「ツボミ、聞いても良いかい?今回はしっかり答えてくれたら剣を渡すよ。」


「剣?何の話?」


 あれ?アイリスの記憶引き継いでるんじゃないのか?


「どうも最近のアイリスの記憶は貰えなかったみたいでね。大戦中からアイリスが自殺するところまでしか知らないんだ。しかも細かいことには靄がかかってるみたいで、自分の事でさえ詳しく分からない。だから過去のツバキとの日常もあんまり分からないんだよ。何か貰えるの?」


 そうなのか。ならどのくらい分かってるのかを先に聞いておかないとな。


「アイリスの武器の名前って分かる?」


「分かんない。ってか、どんな出来事があったのかって事しかよく分からない。だから今の私はアイリス分を持った、果てしなく木下蕾に近いツボミだよ」


 まぁ、ならいいか。下手に知られてると恥ずかしくてやってられない。そういえば夜風に当たりながら星を見上げるのは、思えばかなり久しぶりなものだ。


 聞きたいことは沢山ある。1つづつ聞いていくとしよう。

次回投稿は月曜の20時です。


肉じゃがは料理の基本なので是非作ってみて下さいね。

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