蟷螂と対峙
さて。素材を傷つけたくないから闇魔法で倒そう。今回はダークネスだ。
広域殲滅魔法って書いてあったけど大丈夫かコレ…
もしかしたら周囲の村に被害が出るかもしれない。慣れない物は使わないのが鉄則だ。後で大丈夫そうなときに練習しておこう。
ならば体当たり戦法が良いか。前回と同じ轍は踏まないために、しっかりスピードを制限しないとな。
そういえばスキルがパワーアップしたんだったかな。
・超化装甲『基本的には強化装甲と同じ。斬撃系の攻撃にも強くなった。』
・武装強化『武器だけで無く身体にもかけられる。攻撃力や与えるダメージを増やす』
武装強化はちょっと変わったのか。超化装甲はそのまんま強くした感じかな。まぁ超化装甲だけでいってみよう。
飛び上がった後、自分の体に超化装甲を付与し、それなりのスピードで体当たりを仕掛ける。
今回も軽くワンパンで倒してしまおう。
だが、アームドマンティスはまるで察知していたかのように私の方向を振り向く。
その時、やっと私はアームドマンティスの全体像が理解できた。
煌めく銀色に覆われた体から伸びる鎌は、普通の蟷螂のそれとは違い、鋭利な刃物のようで、相手を殺す事だけに特化しているのが伺えた。
私を見つめるその銀の瞳。その瞳が一瞬だけ輝いた気がした。
その瞬間だった。アームドマンティスの周りの地面から巨大な土の塊が宙に浮かび上がり、私の進行方向に盾のように立ちはだかった。
スピードをセーブしているとはいえ、急には止まれない。
私は、その土塊に顔面から突っ込む形で衝突してしまう。
だが、それで終わりではなかった。アームドマンティスの巨大な鎌が土の塊ごと私を薙いだのだ。
私はよけきれずにその一撃をもろに受け、地面にたたきつけられる。
鎌を受けた脇腹に激痛が走る。だが、この規模の攻撃を受けたというのに、血は全く出ていない。
痛みも、例えるならタンスの角を思いっきり小指で蹴り上げた感じ。
超化装甲のおかげだろうか。
私がゆっくりと立ち上がり、顔を上げると、奴の周りには大きな鋭い石が浮かび上がっている。
コレはヤバイと察した私は反射的に横に飛び退くが、さっきまで私がいた場所には轟音と共に巨大な石の柱が勢いよく突き刺さり、咄嗟の判断が出来ていなかったらと思うと、本当に恐ろしい。
こいつ強くないか?もしかして今まで不意打ちで倒してきた子たちもマトモにやり合えばこんなに強かったのだろうか?
それともSランクだし、更に長年生きてたみたいだから戦い慣れしているって事なのだろうか。
まぁ関係ないね。躊躇はしたが、体当たりが効かないなら仕方ない。
今の私にできることは、できるだけ小さい範囲に押さえ込んだダークネスを打ち込むことだ。
慣れないこともしてみよう。しっかりイメージすれば良いんだろう?なんとかなるさ。
私は、あの蟷螂より一回り大きい位の範囲の半球体を作るイメージで少し力を込め、ダークネスを発動する。
範囲指定がこれでできているのかは分からないけど妙にしっくり来ていたから、できていると信じよう。
すると、指定したあたりの中心に黒い小さな玉が虚空より現れ、ゆっくりと地面へと落下していく。
その球体が地面に着いた瞬間、視界を塗りつぶすかのような黒い閃光が走り、私が指定した半球状に黒い爆発が広がっていった。
周囲に走る轟音。禍々しい閃光。まるで世界の終わりのような光景が晴れると、
【生物図鑑により、アームドマンティスから複数のスキルを取得しました。スキル同士で複合が発生。】
……どうやら倒したらしい。
それにしても、こんな規模の攻撃になるのか…。ちょっと自重すべきなのかも知れないな……。
そういえばレベルとか上がってるかも知れないな。
良い機会だし、ステータスの確認とスキルの詳細調べしよう。
そんな感じで、傷一つついていない蟷螂を回収しながらステータス。
――――ステータス――――
〔 名前 〕 ツボミ・キノシタ
〔 分類 〕 魔獣マンティコア LV20
〔 体力 〕 6890
〔 攻撃力 〕 8188
〔 耐久力 〕 7306
〔 素早さ 〕 6000
〔 魔力 〕 6087
スキル
〔固有〕・生物図鑑 ・魔眼
・変身 ・インベントリ
〔分類〕・獄炎 ・飛行 ・毒尾
・翼撃 ・爪撃
〔図鑑〕・収縮 ・水龍 ・超化装甲
・武装強化 ・補強+1 ・防壁
・武具作成+5 ・剣術+5
・傀儡ノ糸
〔通常〕・火属性魔法+ ・闇属性魔法+ ・闘気覚醒
――――――――――――――
レベル滅茶苦茶上がったな。蟷螂のおかげかな?
スキルもいろいろ変わってるね。まず硬化魔法が消えてる。あと気になるのは、厨二病感満載の『傀儡ノ糸』か。
じゃあ魔眼で変わったのとか、見てなかったのとかを見てみるとしよう。
・水龍『効果無し。複合用。』
・補強+1『補強よりも強化される耐久力が増える。』
・防壁『魔法攻撃も散らせるようになった障壁。』
・武具作成+5『武具を作るときに上手く作れる。又、石などを削り出して武器のようにもできる。』
・剣術+5『剣の扱いが上手くなる。』
・傀儡ノ糸『無生物で、自分より小さい物を操る魔力の糸。』
・ファイヤ『火属性攻撃。小さな炎を飛ばす。』
・バーニング『着火魔法。攻撃にも使える。』
・フレイム『範囲型炎上魔法。』
・熱風『温度調整可能。』
・炎剣『古の魔法。巨大な炎の剣でなぎ払う。剣に付与することも可能。』
・メテオレイン『極小の隕石が降り注ぐ。』
色々増えたね。防御と攻撃が多い感じ。まぁこんな姿だし、脳筋になるのも無理は無いか。
それにしても蟷螂いろんなスキル持ってたな。結構大幅に強化された感じがする。
さて、 鎌でやられたところも痛むし、さっさと村に帰りますか。
オーガ達に報告もしないといけないからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私がオーガの村に帰還すると、長老をはじめとした村のオーガ達が心配そうな顔で出迎えてくれた。
「おお、良くお戻りになりました。先ほど黒い光が見えたのですが、一体何があったのですか?」
……私です、なんて言い出しづらいな…。
なんだか無駄に心配させてしまったみたいだ。
「大丈夫。ちゃんと倒してきたよ」
そう言ってインベントリから蟷螂の死体を取り出すと、オーガ達は驚いた後、落ち着いてから口々にお礼の言葉を口にする。
しばらくすると、長老がやってきて、口を開く。
「マンティコア様、もうすぐ宴の時間ですぞ。こちらへどうぞ」
長老に促されるまま、広場へ向かう。
そこにはおいしそうな果実や大きな肉なんかが、たき火を囲むように並べられていた。
「私なんかがこんなに歓迎して貰って良いの?」
「当たり前です。伝説の魔物である貴方様が訪れてくれただけで無く、アームドマンティスまで倒していただいたのです。これくらいしないとバチが当たりそうな物ですよ」
まぁ、そう言われても少々気が引けてしまう。
でも、結構歓迎されてる感じだし、ここで断るのは良くないよね。
私が案内された席に着くと、太鼓のような物を若いオーガが叩き始め、宴が始まる。
そして一人のオーガが私と長老の前に大きな葉っぱに盛り付けられた肉と果実を運んできた。
「フォレストボアの肉とオーガフルーツの木の実です」
小さく礼をして受け取り、よく見てみる。
大きなステーキと、見た目完全にリンゴな何かがそこにはあった。
その果物について聞いてみたが、リンゴとは違って真ん中に大きな種が1つだけある果物で、オーガ達に伝わっている伝統的な果物なんだとか。
味はリンゴを凝縮したような感じで、栄養も数倍あるらしいよ。
というか、リンゴは普通にあるんだね。
……とにかく食べてみようと思ったが、完全に犬食いだなコレ。だいぶはしたないぞ。
……この姿はご飯要らないみたいだし、なるべく避けるとしよう…。
あと、異世界初食事です。
…まぁ、だからなんだって話なんだが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ひとしきり食べ終わったら、聞きたいことを質問するタイムだ。
「町で有名な店とかってあるの?主に服で」
「ええ。たくさんありますが、中でも一軒、どんな体格にも合う魔法の服を売っている店があると聞いたことがあります。もの凄くお高いみたいですけどね。」
マジか。そんな凄い物があるのか。それは欲しいな。そんな物があるなら是非とも手に入れたい。
まだ変身使ってないから、どんな感じになるのかよく分かってないんだよね。サイズ気にしなくて良いのは素晴らしいな。
そんなこんなで就寝。モンスターの皮で出来たカーペットがふかふかで、なかなか気持ちよく横になれた。
明日からは町を目指そう。遠足前の子供みたいに、いまからワクワクして仕方ないな。