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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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96話 赤髪の女



 ヤバイヤバイ!誰もついて来れないだろうと思っていたのに、ツバキが予想以上に速かった。脇に二人を抱え、私のスピードに追いついてくるなんて…!


 振り返って攻撃しようにも、単調な攻撃はツバキには通用しない。


 ならば、私の得意技で行こう。


 外套から、気づかれないようにさりげなくナイフを引き抜く。そしてドラゴフレアを付与し、地面に投げる。このスピードで避けることはほぼ不可能だ。


「ッ!!」


 後ろで短い悲鳴と共に、龍をかたどった爆炎が立ち昇る。不意打ち成功だ。


 足を止め、後ろを向き直ると、炎を間一髪で回避したらしい三人が体制を整えていた。


 無慈悲にカースオブキングを引き抜き、紅蓮弾を装填。その場を飛び退くのが一瞬遅れた雫に重力操作の拘束をかけ、胸に一発撃ち込む。


「がぁッッ!!」


 激痛によって声を上げる雫。普通ならば一発で地面までも大きく消し飛ばす弾丸なのだが、風穴に抑えるあたり、雫も大概異常なんだなぁ、と思った。


 考えながらも動きは止めない。疑似神装を全身に纏い、空中に飛び上がる。そのまま鬼奥義を両方発動し、ケイオスアクセルの加速度を真下に向ける。


 つまるところ、トンデモ威力のラ○ダーキックである。雫は避けない。いいや、さっきの激痛のせいで避けられなかったのだ。


 以前龍化したツバキですら苦痛に転げ回った物とほぼ同威力の攻撃をモロに受けた雫。


「なんで私だけ…」と言いながら、早急に意識を手放していった。


 次はキリエだ。本来は補助担当を先に倒すべきなのだが、今は都合良く遠距離職を倒せた。次は手順通り補助役を殺す。


 キリエの逃げた方向を向く私に、真後ろから拳が飛んできた。


「黒龍拳:壱ノ型!『砕牙衝』!!」


 素早く振り向き、取り出した2本の剣を交差して攻撃を防ぐ。強い衝撃が剣から伝わり、まともに受けていたらただでは済まなかっただろう、という事を示す。


 再び後ろから声が聞こえる。


「……ほーりーばーすと」


 大きく横に飛び退いた私が元いた場所を、巨大な光のレーザーが通り抜ける。


 再び前から。


「黒龍拳:弐ノ型!『如散桜花』!!」


 左右に動きながら高速で走り込んでくるツバキ。確か弐ノ型はダウン技。喰らうのは不味い。


 だが、後ろに避けようとした私の背後から、何かを断ち切ったような音がする。キリエの次元斬か。


 仕方が無い。1回目だ!闘気覚醒!!


「喰らえッ!!」


 手に持った2本の剣に疑似神装を付与。更に継続中の鬼奥義によって威力を大幅にブーストされた一撃をツバキに向けて振り下ろす。


 だが、その攻撃は見えない壁によって阻まれる。


 瞬間覚醒で一瞬だけ動いたキリエが、自分とツバキに『絶対障壁』を発動したのだろう。クッソ、マジでキリエ厄介だな…。


 この二人、なぜか連携が取れてて超強いんだよねぇ…。


 ならばその連携。崩してやろう。この空間なら暴れても良いんだろ?ならとっておきがあるじゃ無いか。



 闘気覚醒が終わると同時に、私は真上、空に向けて一発の銃弾を放つ。


「ツボミ?ついに血迷ったかい?」


 ツバキは私の奇行に構わずに再び突進してくる。こういうときは留まって様子見をすべきなのだよバカめ。その点、キリエは私の戦い方を知ってるから、その場から動かない。どうやら今回マジで一番の強敵はキリエらしい。



 それが降ってきたのは突然だった。曰く、大絶滅を引き起こす災厄の嵐。つまるところ隕石。1つあたりが半径10キロ近いクレーターを作り上げるそれが、数百コ単位で落ちてきたらどうなるのだろう。


 簡単に予想は付く。滅ぶのだ。例外なく滅ぶのだ。崩壊、滅亡、終焉。そんな死の風は、さっきの一発の銃弾だ。



 私に落ちてくる地点は分る。衝撃波もマンティコアのステータスがあれば余裕で耐えられる。もっと言えば落とす場所も選べる。まぁ実際の隕石では無く爆炎の塊なのでもっと威力は高いが。


 1発目が爆音を上げながら落下し、大爆発を引き起こす。大地が抉れ、灼ける。間髪入れずに2発、3発。



 キリエは真上から落ちてくる攻撃を絶対障壁を一点に収束させ、なんとか自分だけは守る。ツバキまでは無理のようだ。


「バカなのかい!?バカじゃ無いのかい!?いいや、決めつけるよ!君はバカだ!!」


「遺言はそれだけかッ!!」


 なんとか龍化し、直撃を避けるツバキ。だが、龍化すればその分だけ当たり判定も増えるのだ。もっと頭使って戦おうぜ…?


 私が繰り出したのはマンティコアの姿の王道技。「体当たり」である。


 今回の体当たりはグレードアップしている。ダブル鬼と疑似神装は言わずもがな、そこに獄炎とケイオスアクセルが混ざることによって、とにかく火力のみを極めた体当たりだ。


 狙いは必死に隕石を防ぐキリエ。に見せかけて実はツバキだ。



 低空飛行でキリエを狙う。キリエを挟んでツバキを狙える位置だ。


 ケイオスアクセルを含めたスピード全開でキリエに突っ込む。もの凄い表情でびっくりするキリエ。隕石を受け止めているせいで絶対障壁は使えない。どうにか二度目の瞬間覚醒で真横に避けるが、私の通過後の衝撃波に吹き飛ばされる。


 だが狙いは最初からツバキ。キリエに攻撃が向いたと思って隕石の回避に専念するツバキだ。その飛行中のツバキに速度を落とさず突進。


 私はツバキをはじき飛ばした瞬間にその場で動きを止める。何故なら、ツバキの吹き飛んだ方向には落下中の隕石があるからだ。



「…!?……!?」


 吹き飛ばされてびっくりするツバキ。火球にぶつかって大爆発して二度びっくりのツバキ。そこに隕石を集中させる。


「この鬼畜がぁぁぁぁ!!」


 大爆音にかき消されながら叫ぶツバキ。次々とツバキの体に隕石が着弾し、大爆発を巻き起こす。これを死ぬまで続けます。



 ドドドドド……。


 2~3分した頃、完全にツバキの反応が消えた。死亡確認です。


 ん?そういえば死体が完全消滅してる…。逃げたのか?あの弾幕の中を?いや、完全に死んだはずだ。でも雫の死体は消えなかったぞ…?



 ふと気がついたとき、私の真後ろまで迫っていた光の矢が直撃する。やっぱりか…。


「私はまだ死んでないぞォ!!」


 雫はしぶとすぎだろ…。胸に風穴開けられて、超火力ライ○ーキック喰らったってのに、血をダラダラ垂らしながら立ち上がって攻撃してくるのか…。まぁマンティコアの姿だし、この程度どうって事無いが。


 もしかすると、障壁抜きならキリエより余裕で堅いんじゃ無かろうか。前聞いたときはたしか大量の耐性がある、とか言ってたしあり得る話だ。



 ツバキは仕留めたし、隕石はおしまいだ。これ以上は私も危ない。



 しかし、超耐久アーチャーとか笑えないんだが。個人的にキリエとタイマンしたいし、雫には沈んで貰おう。


 魔人に戻る私。直後に発動したのは絶影。雫は背後に回られたことに気づかず、一瞬だけ反応が遅れる。再びマンティコアに。繰り出すのは毒尾だ。


 雫は回避が間に合わず、左手を尻尾の蛇に噛まれる。以前に一度試したことがあったが、この毒は毒と言う名前だが、じわじわ感は全くない。もの凄く恐ろしいのだ。



「ぐがあぁッッ!」


 背後から上がる悲鳴。そりゃ悲鳴も上げるだろう。左腕が溶け出しているのだから。


 この毒は感染した部位を恐ろしい速度で蝕み、腐らせ、溶かしてゆく。被害を最小限に抑えるには、その部位を切り落とすしか無いのだ。切り落とさなければ、全身に毒が回り、溶けて死ぬ。


 毒が体に侵入してから全身を溶かしきるまで、その時間わずか2分。この毒はマジでやばいのだ。


 まぁ尻尾にしか無いのと、大気に触れると毒性が無くなる事から、尻尾で直に噛みつくしか方法が無い。つまり当てづらいのだ。



 雫は骸骨になると同時に消えていった。死亡確認。



「キリエさん。一騎打ちでございますよ。降参しますか?」


「……しな…い」


「何でちょっと迷ってるんだ…。まぁいいや。その神装ってのと、まともに戦うのは初めてだしね。結構楽しみだ」


「……ツボミ……こわい…」


 少し心が傷ついたが今は戦闘中。相手を倒すことにのみ集中するのだ。


 キリエのスキルは私も一度見たことがあるが、あれ以来全く見ていない。成長したりしているんだろうか。そして神装。アレは所見だ。赤いときに二刀流ということだけは分ったが、他の特徴が全く分らない。あの浮いてる大盾は何だ…。



 イヤ違う!!忘れていた!!ツバキはまだ生きてる!!



「黒龍拳:壱ノ型!『崩天脚』!!」


 死角から繰り出されたハイキック。ただのハイキックでは無いのは確実に分かる。ただ今回は気づけた。そして前方にはキリエ。


 絶影を発動し、キリエの背後に飛ぶことでツバキのハイキックを回避する。


 そうだった。最善の状態で、と言う事は『クロノライフ』も回復してるはずだ。ギリギリで気づけて良かった。



 バックステップでキリエからも距離を取る。だがそこに予想外の行動。キリエが追撃してきたのだ。神装の効果か、いつもより速く、いつもより力強い。


 キリエの斬撃を躱す。そのまま2撃目に備えたが、2撃目は次元斬が来る。避けられない…!


 なんとかケイオスアクセルで直撃だけは回避するが左手をザックリ斬られ、激しい痛みに襲われる。


 そこに走り込んできたのはツバキ。私がとっさにばらまいた投げナイフを上手く躱しながら走り込み、距離を詰められてしまった。


「黒龍拳:参ノ型!『棘乱咲』!!」




 ………ヤバイ。これ喰らったら絶対負ける…。


  ――まだ知られたくない――


 ………この声…赤くなってるときにかすかに聞こえた声だ…。


 ………いや、ずっと前から。生まれる前から聞いたことのある声だ……。


  ――ツバキに話すのはまだ先だ――


  ――今は私が力を貸そう――


 ………まただ……自分が自分じゃ無くなっていく感覚…。




「ッ!!」


 驚くツバキの声。


 私の体から再び赤い魔力が噴き出す。それも有り得ないような量だ。この前の暴走状態に近かった時を遙かに超える量。


 その魔力がどんどん私に集まってゆく。


 制御できているのか?あのときはこの魔力は私の言うことを聞かなかった。何故今は…。私は何もしていない。まるでもう1人の私がコントロールしているかのようだ。


 私の体が勝手に動き、グレイスオブクイーンを構える。私では無いはずだが、私が取り出したようだった。



 赤い魔力はグレイスオブクイーンに注ぎ込まれ、刀身が赤黒く変色してゆく。


「………顕現せよ、断界の大鎌…」


 私の声だ。私が私の知らない言葉を話している。


 直後、体内の魔力が異常なほど跳ね上がり、グレイスオブクイーンがその形を変える。


 長く伸び、先は大きく曲がる。いつの間にか持ち手は無くなり、グレイスオブクイーンは、赤黒く大きな鎌へと変化していた。


「……………」


 私の体が動き出す。以前と同じだ。圧倒的に速く、力強い。矛先はキリエ。


「……!…絶対障壁!!」


 前方に障壁を集中させ、全力の防御態勢を取るキリエ。


 隕石群相手にびくともせず、キリエを守り続けた障壁。赤黒い鎌はそれをバターのように切り裂いた。


 そのまま有無を言わさずにキリエを一刀両断。キリエの消滅を待たずに矛先はツバキへと変わる。


 なにやら錯乱した様子のツバキ。私の体は冷酷に鎌を横薙ぎに振り、ツバキを切り飛ばした。




  ――私のことは誰にも話さないで欲しい――


 再び声が聞こえる。


「……貴方は…誰?………この力は…何?」


  ――忘れてしまったのか。思い出す必要は無い――



 激しい脱力感と共に赤い魔力が散らばってゆく。グレイスオブクイーンは元の純白の剣には戻っておらず、鎌になる前の赤黒い剣の状態になっていた。


 目の前にWINの表示が出ると共に、意識が曇ってゆく。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 目を覚ましたのは全員同時だった。それと同時に雫が叫ぶ。


「私だけほぼ何もしてないよ!!酷いよ!!この鬼畜!!」


 うむ。確かに最初にぶっ飛ばしてその後に溶かしたな。


 そんな雫を無視してキリエが食いついてくる。


「………また赤くなった……今回は……強すぎた…」


 ツバキだけはなんだか有り得ない物を見たような目で私を見つめながら、どこか錯乱した様子だった。


 あの声、誰だったんだろうか。ずっと聞いていたような、初めて聞いたような、よく分からない声だった。


 そして最後の言葉。忘れてしまった?何のことだ?どこかで会ったことがあるのか?


 まぁ考えていても仕方ない。


「そういえば私が勝ったときの報酬を指定してなかったね。じゃあ全員に1つづつ、何でも言うことを聞いて貰うことにしよう」


「ん?今何でも…」


 雫反応が早い…。


「して貰うのは私。するのは皆だ」


「………理不尽…」


「先に決めておかない方が悪いんですぅ。しかも負けた側に権限はありません」


「………むぅ……」



「……ツバキ?」


 さっきから話にも参加せずに様子のおかしいツバキに声をかける。


「……ツボミ。それが治ったら2人で話をしないかい?聞きたいことがあるんだ。」


「ん?良いけど…どうしたの?」


「いや、今は良いんだ。大丈夫さ。ちょっと外に出て風に当たってくるよ…」


 そう言って部屋を出ていくツバキ。


 一体どうしたんだろうか。



 クソぉ、体が動いたら追いかけるのに…。


 しかもちょっとお腹空いたな…。


「雫さんや、奢ってあげるから好きな食べ物買ってきて良いよ。ついでに私の分も頼む」


「それ何でもの奴に含まれる?」


「高級料理に自腹切りたいんならそれでも良いけど…」


「行って参ります」


「ついでにツバキ見たら様子見てきてあげて。何か混乱してるみたいだったし」


「分かってるよ」


 

 そんなこんなで雫にお金を持たせて買い物に行って貰う。


 ちょっと体が痛いし一眠りしようかな…。


「……私も…寝る…」


 キリエさんはいっつもおねむだねぇ…。……今この子、私の心の声に同調しなかった?眠気は伝わるんだろうか。


 寝る準備万端のキリエは何故かもぞもぞと私のベッドに潜り込んでくる。


「……おや…すみ…」


 そのまま寝てしまうキリエ。就寝早すぎる…。で、私は体が痛くて寝れないってオチね。



 雫さん早く買ってきてくれ…お腹空いた…。


 ツバキの話になるが、ツバキはあの赤い力について何か知っているような口振りだったな…。様子がおかしくなり始めたのも私の赤いのを見てからだ。


 それにあの鎌も何だったんだ?キリエの防御すら一撃で切り裂くなんて…。


 そういえばグレイスオブクイーンは大丈夫なのか?あの後赤黒くなってたみたいだけど…まぁそれは練習空間の中だから大丈夫か。



 そろそろガチな感じで眠気が痛みを上回ってきた。キリエもぐっすりだし、雫には悪いが私も眠るとしよう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 ここはどこだろうか。真っ黒な空間。その奥深くに赤い光が見える。


 夢の中だろうか。ともかく、光の場所まで行ってみようか。


 歩いているのか歩いていないのかよく分からない。だが確実に光には近づいている。そして、近づくにつれ、それは人型である事が分かってきた。


『おや。また会ったじゃ無いか。…というのはおかしい話か。ずっと一緒に居るような物なんだから。』


 光の正体である赤い髪の女性は、私が近づくと、その口を開いた。聞いたことのある声、というかさっき疑似空間内で聞こえた声だ。


「貴方は…だれ?」


『ふむ。自分自身と話すのはなかなか奇妙な感覚だ。そう体験できる物じゃ無い。素晴らしいじゃ無いか。』


 自分自身?何の話だ?私はこの女性を知らないぞ…。だが、どことなく喋り方が私に似ている気がする。


「ツバキはあの力を見て混乱した。何か知らない?」


『私は全てを知っている。でも私は何も知らない。なんとなく分かったよ。忘れてしまった、というよりは元々知らなかった、が正しいんだろうね。』


「さっきから何の話をしてるの?あの赤い力は何?」


 答える気が無いのか、全く的外れな返答をする赤髪の女。“全部知っているが何も知らない”とはどういうことだろうか。哲学か?


『私が、いいや、貴方が使っている魔銃。アレは最初から貴方の物で、私の物だ。今の姿は真の姿では無い。あの銃はまだ力を秘めている。』


「カースオブキングのこと?」


『それも仮の名だ。それから、あの綺麗な剣をダメにしてしまったことを謝罪しよう。自分自身に対する謝罪とはこれまた奇妙な物だが、まぁいいや。』


 コイツはカースオブキングについて、何をどこまで知っている?あの銃はアルじぃから譲り受けた物だぞ…?


 それから、自分自身とは何のことだ?私は目の前に居る女では無いし、目の前に居る女もまた、私では無い。


『慣れるまでは、私に共鳴するのはやめた方が良い。体が持たない。私も最初はそうだった。貴方もそうだ。』


「共鳴?赤い力のこと?なんで貴方にそんなことが分かるの?」


『分かるさ。自分自身のことだ。貴方だって、心の中にある“思い”まで忘れたわけじゃ無いんでしょ?あれは私の感情であり、貴方の感情。あの思いに共鳴することは私に共鳴すること。でも、いずれ慣れるさ。私もそうだった。』



「何の…話?」


『目をそらす必要は無い。私は貴方で、貴方は私だ。私は貴方の全てを知っているし、貴方はきっと私の全てを知っている。自分で知らないと言う事にしているだけさ。』


 さっきから何を言っているのか、あまり理解が出来ない。哲学的な話なのか、何かの比喩か、とは思うが目は全く嘘をついていない。


 しかも、私の全てを見透かされているようで、なんだか不気味だ。



『うーむ。そろそろ時間のようだ。私のことは誰にも言わない方が良い。また会おう。親愛なる私よ。』


 目の前の女性がそう言ったとたん、視界が真っ白に染まっていき、同時に襲った全身の痛みによって、意識は覚醒してゆく。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



「あ、蕾ちゃん起きた?ご飯どうする?」


 私の顔を覗き込む雫。寝起きにご飯は辛いけど…。でもお腹空いてるんだよね…。


「軽くなんか食べようかな。あ、でも私動けねぇや。どうすんべ」


「ふっふっふ~。私が食べさせてあげようか…?」


 あーんしてくれるのか。キリエが良いなぁ…。


「寝たまま食べるのって死ぬほど行儀悪いからいいや。明日あたりには軽く動けるだろうし、それまで我慢する」


「ええ~。せっかく蕾ちゃんにあーんしてあげようと思ったのにぃ」


 頬をぷくっと膨らませる雫。ハムスターのようだ。


「ツバキは?」


「まだ帰って来てない。なんか思い詰めたみたいな感じだったけど…何があったんだろうね…」


 きっとツバキは何かを知っている。


 そしてあの赤い髪の女も何かを知っている。


 私はこれから何を知ることになるんだろうか。

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