91 モーガイ邸潜入
モーガイ宅前に来ております。これから忍び込み、色々暴いてくる次第であります。
窓から中をのぞいても、人の気配はない。使用人はいないのか?これほどの屋敷だ。絶対いると思うんだが…。仕方ない。どこかから入るとしよう。二階のベランダが良いな。寝室に繋がっているようだ。
ケイオスアクセルで加速し、跳躍力を跳ね上げて二階へ。どういう訳か鍵は閉まっていなかったのでそのまま中へ。
寝室を漁る…のはあんまり気が進まないなぁ……。ええい、仕方ない。
大きなベッドとシミの付いたシーツ。くさい。くずかごには……やめとこう。他には…なんか触れちゃいけなそうなお香とか…あとは未成年には見せられない物しか無いなぁ…。クソかよ…。無駄足で気分を害するだけだった…。
廊下に誰もいないのを確認し、ドアを開ける。目の前に1つドアがあり、そこから横に並んでいくつか部屋がある。うん?気配がないぞ…マジで支配人いないのか?
ならば好都合とばかりに漁りまくりますか。
やっと見つけた…。「魔物奴隷化計画」。これはクサいな。内容は…っと。
どうやら人間領内で対魔教を完全に広めた後、魔物側に侵攻し、魔物を捕らえて様々な種類の奴隷にしよう。と言う計画みたいだ。
まさかこれって人間対魔物の戦争か?期間的にも人間領を統一してからと考えればちょうどその頃だろう。私が止めるべきなのはこれか。
マジか…。早めにつかめて良かったと言うべきか…。とにかく、コイツは早めになんとかしないといけないみたいだな…。
二階はこんなもんか。一階に降りてみよう。
うーむ、一階も厨房とか…食堂とか…何もなさげだなぁ…。
その時、一角で音がする。金属と何かがぶつかったような音だった。一度起きたその音は何度か繰り返された後、再び沈黙する。
どっちだ…?どうやら大階段の奥の方だったが…。
階段の裏手に回る。そこには鉄製の、重い扉があった。
再びさっきと同じ音がする。どうやらこの中で間違いないようだ。観音開きか…音出るかな…。
まぁ良いか。私が扉を軽く引くと、やはりギギギと音を立てて開かれた。やっべ…見つかったかな?
周囲はしーんとしている。どうやら気づかれていないようだ。
扉の奥には地下への階段が。石造りの階段だ。とにかく、扉を閉めて奥に行こう。再びギギギ。
扉を閉めると、中からほんのかすかな声のような物が聞こえた。
階段を降りて行く。ふと、階段の所々が黒ずんでいるのに気がついた。血か?この奥には何が…
そこにあったのは大量の鉄格子。中には粗末な布を纏い、ボロボロになっている少女達がいた。獣耳や尖った耳。魔物達だ…。
ほとんどの少女達は虚ろな目をして、全てを諦めたようにじっとしている。
一人だけ、まだ諦めていないような顔の少女が、血を流しながら己を拘束している枷を鉄格子にぶつけていた。さっきの音はこれだったか…。
どうするべきか…。同じ魔物だ…助けてあげたい…。でも…既に…。イヤ、信じよう。
インビジブルを解除する私。いきなり現れた私に、鉄格子の中の少女達は驚いているようだった。
「私は不法侵入してきた。奴の味方じゃ無い。私はあなたたちを助けられる。出たい奴、いる?」
少女達は俯く。どうやら既に心を折られているようだ。だが、一人だけ。さっき必死にガンガンしていた少女だ。
「人間の言うことは信じない!ここから消えろ!」
おお、元気良いねぇ。私のことを人間だと思ってるようだ。
「これは仮の姿さ。私は人間じゃ無い。魔物だ」
そう言ってマンティコアに戻る私。ずいぶん久しぶりな気がするなぁ…
少女達はいきなり変身した私に驚き、短い悲鳴を上げた。
「ほら、どうだい?そこの元気なお嬢ちゃん、そっちの虚ろな姉ちゃんも。私としては同じ魔物だし、助けてあげたいんだけどね」
少女達はジャラジャラと鎖の音をさせながら格子によってきた。中でも、一番年上そうな、青髪の女が口を開く。
「……助けて…いただけるんですか?」
「あなたたちが望むなら」
その言葉で少女達の目に活力が戻る。どうやらその青髪はリーダー格だったらしい。
「ここにいる全員、助けて貰えるんですか?」
「望むなら」
だが、そこにさっきの元気な少女が口を挟む。
「ダメよ!助けてなんて言ったら、代償に何を要求されるかわからない!それに、この檻はただの金属じゃ無いわ。私達でもびくともしないのよ?」
その少女の言葉でハッと考え直す一同。なるほどね、その考えがあったか。
「じゃあ言葉をかえよう。私は自分の望みのために動いてる。助けさせて貰える?」
魔人に変身しながら私は言った。その言葉を聞いて、再び魔物達は安心した顔に。
「ですが…もし奴に見つかったら…」
あぁ…そうか、モーガイか…。いつもなら冷静に考えるところだが…。
生憎私は今、怒ってるんだ。
モーガイ、ただ企画しているだけならまだ私も放任していただろう。だが、貴様は私の守りたい物に手を出した。
私に見つかったのが運の尽きだ。そして、命の尽きだ。
「じゃあ、あの豚を先に殺すとしよう。その後なら、助けさせてくれるかい?」
少女達は、一瞬だけ私の放った殺気に驚いたが、その後にすぐ、顔つきを変える。
「私達を…助けて下さい」
頼まれたのなら仕方が無い。殺人だってこなしてやろう。この先、何度かやらなきゃいけない時が来るはずだ。その役目を、皆に負わせる訳にはいかない。私がやらねば。
「奴は夜になったら戻ってくるはずだろう?そして、ここへやってくる。そうだね?」
「はい。そして…私達を…」
「その先を言う必要は無い。今日で終わりだ。で、君たちを連れ出そうとしたところで、私が殺す。それでいいね?」
俯く少女。
「怖くは…無いんですか…」
「あの豚が?」
「殺すことが…です」
「わかんないかな。なんだか、不思議なんだ」
それは本心である。何故か、生まれ変わってから、攻撃を加えることにも、相手がモンスターであったとしても、生き物を殺すことにも、コロシアム内で人を殺すことにも、何故か抵抗がないのだ。
多分私は完全に蘇ったわけでは無いのだろう。雫のように、顔も声も前世と同じでは無い。きっと私は不完全だ。
だから、恐怖や罪悪感を置いてきてしまったんだろう。他にも大切な物を置いてきているのかもしれない。もしかすると狂気に満ちているのかもしれない。
ただ、今はその方が都合が良い。私はこんな所で止まっているわけには行かない。そのためには恐怖も罪悪感も、ない方が好都合だ。狂っていた方が好都合だ。
キリエにも、ツバキにも、特に雫には、人を殺させたくない。だから、代わりに私が殺す。
あの子達は太陽の下を歩けば良い。私はあの子達の影を歩くとしよう。
私はひたすら、夜が来るのを待った。
次回、多少グロテスクな表現がございます。
閲覧注意で。