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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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89話 モーガイ商会潜入



「勇者君、キミは今日、どこに寝泊まりするんだい?」


「そ、そういえば私の家は無くなったんでしたね…。では本家に帰るとしますよ。あの家は別荘のような物でしたから。とくに重要な物も、財産もあの家にはありませんよ」


「こっから遠いんでしょ?」


「ええ。まぁ」


「ならこの部屋使っても良いよ。私今夜はちょっと用事あるし」



 私情を挟むようだが、今夜中に偵察しておきたいところがあるのだ。


「いえ!とんでもないですよ!部屋まで提供して頂いては申し訳がありません。それに女性しかいない部屋なのですよ?」


「構わんよ。私のベッド使ってくれ。一番右端だから。しかも私物とか置いてないし。ベッドは毎日一回宿の人が変えてくれるし。後はキリエにだけ手を出さなきゃダイジョーブ」


「いえ…しかし…」


「私の寝たとこで寝ると脳筋になりそうで怖い?」


「いえ!そういう訳ではありません。しかも貴方は脳筋と言うより…。何でも無いです」


「じゃあ良いね。早速だけどこれから行ってくるわー」


 そう言って部屋を出る。既にキリエが寝ているのが見えた。



 さて。私の向かう先はモーガイ商会。大商会らしいし、昼間はまともに働いているんだろう。ならば対魔教との関係は夜のはずだ。そこを掴む。


「で、なんで雫は付いて来てんの?」


「私も行きたい!」


 もう勝手にしてくれ…。とにかくインビジブルはここから使っていこう。


「蕾ちゃん、商会の場所わかるの?」


 お、雫は私の行くところわかってるのか。そりゃわかるか。


「昼間に見た。大丈夫。でも鍵掛かってるよね…。どうするか…」


「蕾ちゃんらしくないなぁ…。いつもならぶっ壊すとか言うのに…」


 流石に今回はそうも行かないだろう。相手に気づかれないことが一番大事なのだから。


 とりあえず雫にケイオスアクセルを付与して、機動力を上げておく。


 私達はお互いに目を合わせて、無言で頷き、走り出す。ここからは私語厳禁と言うことだ。


 真っ暗な夜の中を走る2人。その2人に気づく者は誰もいなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 ここがモーガイ商会か…。昼間見たときと同じでやっぱりデカい。入り口の扉には立ち入り禁止とでも言わんばかりに南京錠がされており、そこからは絶対は入れないようになっている。


 うーむ、キリエにレーダーして貰えば良かったなぁ…。いや、待て。二階のカドの部屋だけカーテンが閉められてる。誰かいるかもしれない。


 南京錠が外から閉められていると言うことは、別の入り口があるはずだ。探そう。



 うーむ、見当たらんなぁ…。雫にジェスチャーで何かあったか聞いてみたけど、返ってきた答えはNO。


 

 ん?誰か来るようだ。離れよう。


 暗闇に紛れるような黒い服を着た細身の男は、モーガイ商会の裏手に回っていく。私達はこっそりと後をつけた。


 すると男は少し回り込んだところにある壁の前で立ち止まった。そこで周りを見回し、誰もいないのを確認しているようだ。透明な私達は見つかるはずも無いが。


 しばらく確認して誰もいないのを確認した男は、その壁を押し込む。どうやら一部が隠しスイッチになっていたようだ。すると、男が押し込んだ壁のすぐ隣が音も立てずに開き、入り口が生まれる。


 その隙を見逃さなかった私達は男が入り口に入る前に、先に入っておく。まぁ入り方はわかったし、後からでも良いんだけどね。



 通路は足元のみに小さな明かりが付いているだけで、かなり暗い。男は通い慣れているのか、足元にも気を遣わずにスイスイと歩いて行く。私達も音を当てないように後を追う。


 この通路はすぐに商会内部へと繋がり、綺麗な床に変わった。ここからは月の明かりだけが頼りか。


 男は二階へ上がって行く。どうやらカーテンの閉まっていたカドの部屋を目指しているらしい。静かに後をつける。しばらくして、男は他の扉とは違って、一際豪華な見た目の扉の前へとやってきた。カドの部屋だ。この先にはモーガイがいるのだろうか。


 問題としてはどうやって入るか、だなぁ…。扉の開いている時間次第だが、男にくっついていくしか無いか…。


 男は扉をノックする。中からは「どうぞ」という声が聞こえてきた。男は扉を開ける。くっついて入る私。だが、扉は雫が入るよりも早く閉まってしまった。ここからは私だけか…。



 そこに居たのは大きな宝石付きの指輪をした、脂ぎって太っている豚のような男。うわぁ…。成金っぽい…。性格悪そうだぁ…。


「お待ちしておりました。ウァレオス様」


 ウァレオスと呼ばれた黒服の男が明かりに照らされ、見えなかった顔が見える。オールバックにした黒髪の男だ。その瞳には黒い狂気が宿ったようで、まるで何人も殺してきたような瞳だった。


「早速ですが、今回の件、どうでしたか」


「王は考えさせてくれと言っておりましたが、このまま押せばいけるかと」


「そうですか。襲撃の件は?」


「こちら側の手慣れも何人かやられたようですが、見張りからは、逃げた痕跡は無いと言う報告を受けております。恐らく力尽き、炎に焼かれて死んだかと」


「そうですか。では王の説得、今後もよろしくお願いしますね」


 ウァレオスは見た目とは裏腹に、紳士的な口調で話す。モーガイは小物臭がする。


「今回の件はラネシエルとリスティ、両国からの依頼です。確実にこなせば商会を手厚く保護することを約束しますよ」


 おっと予想外だったな。この男、両国からの使者だったのか?または別にもいるんだろうか。


「ええ。わかっておりますとも。魔物如き、早急に殲滅しましょう。邪魔な勇者もいなくなりましたからね」


「もし、また厄介な者が現れればご連絡を。今度は我々が出向きましょう」


「よろしいのですか?魔狩りの頂点に立つ3人がそんな簡単に動いても」


「今回は事が事ですから。我々とて、戦力を絞っている場合ではありませんよ」



 魔狩りだと?しかもコイツはその頂点の1人って訳か。凄まじく厄介な相手だ。しかもこの男、話の最中にも全く隙を作らない。常に周囲に意識を張り巡らせているようだ。かなりの手慣れだな。


「では、今日はそろそろおいとまします」


「ええ。お気をつけて。というのは野暮ですかな?」



 そんな感じでウァレオスは部屋を出る。あ、ヤベ、部屋を出るタイミング逃しちゃったよ…。これどうすんべ…。



 仕方ない…。部屋の中の物、バレない程度に漁っとくか。


 と思った矢先、豚さんも部屋の電気を消し、カーテンを開けて、部屋を出る。だが、巨体のせいで私は外に出られず、またもや閉じ込められる。まぁもう少し漁って、コイツの気配が無くなったら出るか。




 机。商会関係の書類だ。かなりあくどい様子で、色々ともみ消している跡が見える。

 

 引き出し。日記があった。見てやろう。――クソつまんねぇ。


 棚。めぼしい物は無い。


 何だこの部屋。何もねぇ。重要なのは自宅にあるんだろうか。今雫の気配は無いし、尾行してくれてるだろう。後で聞くか。



 よし。いったん帰ろうかな。繋がっている人物がわかっただけでも収穫だ。

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