84話 ソレイジ王国密入国
王城前集合では目立つかもしれないという理由で集合は我々の泊まっている宿の前になった。
そこから我々四人はソレイジ王国との国境付近まで移動する。
「国境は普通に越えんの?それとも密入国?」
「言い方は悪いけど密入国かな。不法侵入とでも言っておく?」
そんなこんなで、関所の横を覆う森から侵入することにした。森も沢山の騎士が見回りをしているけどね。隠蔽とはいえど存在は隠せないので、スニーキングしないとね。
隙をうかがいながら近くの物陰までやってきました。ただし、ここからはどこを向いても絶対に一人視界に入るようなレベルなので隠密行動は難しいかもしれない。
「ツボミ、どうするんだい?僕たち見つかっちゃうよ?」
ツバキが急かしてくる。早速壁にぶち当たったな…。
「雫、この二人だけ普通に国境越えて貰わない?最悪は雫だけ不法侵入で良いんでしょ?」
「そうだね。そうしようか。通行料は金貨1枚だったと思うよ」
そんなわけで二人に1枚ずつ渡してソレイジ王国で集合することにした。キリエだけだとちょっと心配だけどツバキも居れば大丈夫だろうな。
さて、私達はスニークしようか。
「雫の隠密スキルってどんなの?」
「私のは“透明化”と“隠密”の合わせ技だね。姿も認識も誤魔化せるんだよ」
ふーん。私のインビジブルとほぼ同じか。
そんなわけで隠れたまま透明になる二人。ここからは完全に認識されないはずだ。ただ、このスキルちょっと面白くて、発動前から認識していた人には透明に見えないようだ。戦闘中には使えないって事だな。
二人で歩いてドミノ倒しになるのも嫌なので、雫とは別の場所から入る。二人の騎士の間を通り抜ける私。低木がガサガサ言わないように、出来るだけ草木が無い場所を歩いて行く。騎士には全く見つかっていない。
森は結構長くて、静かに歩くのは結構疲れそうだ。……ちょっと待てよ?別に見えないなら人間である必要は無いよな?雫も見てないし、良いか。
獣の姿になる私。空から行けば歩く必要も無いな。さーて、先に行って待ってよう。
私が空から密入国してから数分後、森から透明のままの雫が出てくる。
そのまま町中へと入っていく。この辺りにとどまっていても見つかりそうだしね。
「蕾ちゃん早いね…。私、足が疲れちゃったよ…」
「まぁ、ね?」
うやむやにしておく。歩いてないなんて言えない。
町に近づくに連れて、人が一気に増えてくる。雑貨屋なんかも増えてきて、一気に町中ムードだ。
そんな中…。見覚えのある連中が。
「雫…。アレ……」
私が指さした方向。そこには何故かフードを取っているキリエとツバキ。周りには数人の見るからにごろつきと言った雰囲気の男達。場所は裏路地。あっ……
「蕾ちゃん!不味いよ!助けないと!!」
駆けつけようとする雫の肩を掴んで止める。目で「様子を見よう」と語りながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ハァ…。いい加減にしないかい?僕だって我慢の限界って物があるんだよ?」
「おいおい。そんなこと言わねぇでよぉ。俺たちと遊ぼうぜ?とりあえずついて来いよ」
全く…困ったことになったなぁ。国境で確認のためにフードを取ったときからマークされてたみたいだ。
邪魔くさいなぁ…。ツボミと勇者を探さなきゃいけないのに…。消し飛ばしても良いんだけど、騒ぎを起こすわけにもいかないしねぇ。
キリエはこんな状況なのに何を考えてるか分んないような顔してるし…。いや、多分何も考えてないんだろうな。僕に任せるって事なんだろう。
「君たち、これは最終勧告だ。痛い目を見たくなかったらどいて貰えないかい?」
「ウルセぇな!!ついてこいって言ってんだよ!!」
はぁ、話の分らない連中だな…。軽く半殺しにしてやろう。
そう思った瞬間。横から声が飛んできた。
「あなた方!!一体何をしているのですか!その方々から離れなさい!!」
その声の主は若い男性。18~20位だろうか。細身の剣を持ち、白を基調とした高貴そうな印象の服を着ていた。
「げっ!勇者じゃねぇか!逃げろ!!」
私達を取り囲んでいたごろつき達が逃げていく。今勇者って言ってたな。するとこいつがそうなのか。マークしないとね。
「お嬢様方、怪我はありませんか?」
テンプレな台詞を吐く貴族勇者。僕は敬語って得意じゃ無いんだよねぇ。ツボミと同じだ。
「僕たちは大丈夫さ。ありがとね?」
笑顔で返す。マナーだしね。だが、勇者は一瞬唖然とした顔をした後、視線をそらした。
「い、いえいえ。困っている人が居たら助けろと、父に教わっていますので…」
なんだか顔が真っ赤だし、言葉が詰まってるな。一体どうしたんだ貴族勇者よ。
「何かお礼をするよ。何が良いかな?」
とりあえずマナーの会話をしておく。テンプレって奴だね。
「い、いえ!お礼なんてとんでもないですよ!私は当たり前のことをしただけですので」
「そう?僕遠慮しないよ?ほんとに良いのかい?」
「ええ。それよりも、目的地まで見送りましょうか?女性二人では心配ですよ」
アァ・・そう来るか。僕たちに目的地なんて無いんだよねぇ…。むしろ目的は君なんだ。あっ、そうだ。良いこと考えた。
「送ってくれるって言うのはありがたいんだけどねぇ…実は僕たち、いま人捜し中なんだ。大丈夫だよ。ありがとね?」
「では私も手伝いましょうか?人手は多い方が良いでしょう。任せて下さい」
掛かったな。貴族勇者君のお人好しさを逆手に取った人手の確保だ。悪いが乗って貰おう。
「良いのかい?じゃあお願いするよ。悪魔みたいな格好で白銀の髪の女の子と、黒髪で、その辺の人と同じような格好した女の子なんだ。手伝ってくれるなら助かるよ。」
「了解しました。お二人は私が探し出して見せましょう」
なんだか無駄に格好つける勇者。顔も赤いし、一体どうしたってんだ。
そんなこんなで路地を抜ける私達。ちなみにクソ雑魚勇者は勇者の格好だとバレるからって言って着替えてるよ。
ツボミたちは今頃何処に居るんだろうねぇ…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
真後ろなんだよなぁ…。
なんか面白そうだったから、雫と二人で隠密で後ろに回っていたんだ。勿論話せないから雫との意思疎通はハンドシグナルだ。
それにしても勇者が早速出てきてくれるとはね。しかも様子を見るに、ツバキに一目惚れしてる臭いぞ…w
私達が後ろに着いて歩いていると、時々キリエがちらちら見てくる。今完全に目も合ったし、もしかして気づいてるのかな?なんで気づけるんだ?
「見つかりませんねぇ…。もしかすると、どこかの建物内かもしれませんよ?」
そんなことを言い出す貴族勇者。流石にややこしくなりそうだな。出て行きたいけど雫は勇者同士で対面して大丈夫なのかな?ハンドシグナルで聞いてみる。
返ってきた答えは「大丈夫」。ならばと言う事で、数歩後ろに下がって隠密を解除し、今来たかのように振る舞って出て行く。
「おーい。キリエ~。ツバキ~。探したぞー?」
わざとらしいが、心拍数は上がっていないはずだ。声も大丈夫。騙せてるはずだ。
「おや、ツボミじゃ無いか。僕たちも今探してたんだよ。」
そう言って振り向く三人。少し後ろのキリエが二人に分らないようにニヤニヤしているから、やっぱり気づいていたんだな。
「ん?その方はどなた?」
「申し遅れました。私、ソレイジ王国の勇者をやっております、レイモンドと言う者です」
「おお、勇者様だったんだね。で、なんで一緒に居るの?」
知っていることを聞く私だが、ツバキはきちんと今までの流れを解説してくれた。
「ふーん。じゃあ勇者様にはなにかお礼をしないと。ハル、どうする?」
“ハル”は雫の偽名だ。他国にフリードの勇者と同じ名前の者が居るのは怪しいと思い、今朝考えた。小春川の春からハルだ。
「いえ、お礼なんて要りませんよ。当然のことをしたまでです。では、私はこれにて去るとしましょう。また会えることを願っております」
そう言って勇者は去って行った。“また会いたい”のはツバキになんだろうなぁ。勇者も恋なんてするんだな。私はしないが。雫もするんだろうか。まぁどうでもいいや。
「二人とも、お手柄だね。勇者も見つけるなんてさ」
「そうだろう?びっくりしたよ。こっちが探している奴がわざわざ向こうから来てくれたんだしね。」
「……ツボミ…いじわる」
何のこと?と言う顔の二人を放置してキリエが抱きついてくる。なんでバレたんだろうなぁ…。
「ツボミよ?実はあの勇者に発信器のような追跡魔法付けといたって言ったらどんなもん?」
「え、マジ?」
「うん。」
流石ツバキさん…。もしかして一緒に私達を探していたのはバレないように追跡魔法を付けるためだったのか?
「ツバキ、マジナイスだ。優秀。今度なんかしてやるよ」
「うんうん。もっと褒めると良いよ。」
さて、まずは宿を取って情報収集からだな。
勇者に再び会うのは国の噂なんかを集めた後でも良いだろう。