83話 作戦会議
今は王城前だ。顔には仮面を付けている。今回は正規の手続きで入ろうという魂胆だ。
「すいません、勇者様とお話しする予定があるのですが、会わせて貰えますか?」
門番にそう言うと、門番はなにやら話し合った後、一つの結論にたどり着いたように口を開いた。
「そんな話は聞いていないが、確認くらいはしておこう。勇者様に聞いてくるから大人しくしていろ。」
「あ、はい。“クロユリ”と言えば分るはずです」
そう言って門番は王城内の騎士に伝言し、確認を取って貰っているようだった。
数分後、聞きに行った騎士では無く、雫自身が出てきた。
「門番さん、お疲れ様です。私はこれから少し外出してきますね」
門番は敬礼して「お気をつけ下さい」と言う。どうやら雫は王城内では無く、外出でもしながら話そうと言うことだろう。
「蕾ちゃん、急にどうしたの?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあったんだけど…。忙しかった?」
「いや?全然。準備は昨日終わらせたし、今日は暇だったんだ」
そんなこんなで雫と一緒に町中をぶらつく。勿論仮面はしていない。仮面してたほうがバレるってどういう状況だよ…
「蕾ちゃん、なんか買う物とか無いの?」
「そうだなぁ…。何が必要?」
「蕾ちゃんなら何も要らない気はするけど…。携帯食料とか?後は便利道具とかかな?」
「食べ物なら死ぬほど持ってるけど…。便利道具ってたとえば何?」
「ナイフとか…。テントとか…。食器は私が魔法で洗えるけど…。蕾ちゃんは何も要らない気がする…。」
そうだな…。いざとなれば魔物組はご飯要らないし…。特に準備する物も無いか…
「じゃあちょっと私達が泊まってる宿来ない?聞きたい話もあるし」
「良いの?お二人さんは迷惑じゃない?」
「どうせ暇をもてあまして二人で雑談してるだろうし、別に良いよ」
どうせ奴らは寝てるだろう。ツバキは寝て無くてもキリエは寝てるだろう。最近キリエはお眠りキャラだな…。
「そういえば蕾ちゃんとあの二人ってどんな関係なの?」
宿に向かう途中で雫が聞いてきた。そういえばどういう関係なんだろうか。ただの友達じゃ無いんだよなぁ…。
だからといって「眷属と召喚獣です」と素直に言うわけにはいかないし…。雫には魔物であることバレてないみたいだし、出来るだけ隠しておこう。
「旅先で出会った仲間だよ。皆強いし、ツバキは多分同格以上。本人はそんなこと無いとか言ってるけど、多分勝てないかもしれない」
「え゛…。あのメガネパーカーちゃんってそんな強いの…」
雫は絶句する。無理も無いだろう。
「ほら、宿着いたよ」
放心状態だった雫は宿の前で私が話しかけた事で我に返る。
「ただいまー」と言ってドアを開ける。雫もお邪魔しますと呟き、私の後に続く。
「おやおや、お早いお帰りだねぇ。おっと、クソ雑魚勇者も一緒かい?」
「明日からの方針とかもあるし、皆で話そうと思って連れてきたんだけど…。キリエは寝てるか…」
視線の先にはベッドで幸せそうに眠るキリエ。ちょっと心苦しいが、いったん起きて貰わないとな。キリエも一緒に行くわけだし、やっぱり作戦会議は重要だしね。
ショックバレットぶっぱでも良かったが、なんとなく申し訳なくなったので優しく揺すり起こす。
「さて、作戦会議を始めようか」
そう言ってテーブルに向かって椅子に座るツバキと雫。ベッドに座る私。そして私の膝に座るキリエ。私に限ってはこの部屋が椅子二つしかないからと言う理由だが…
「キリエさん?なんで膝の上に座ってんのかな?」
「……そこに…ツボミが居るから」
“そこに山があるから”みたいに言ってのけるキリエさん。そういえば、アレの本家って山と空のどっちなんだろうね。どっちでも良いのかな?
まぁ天使のような造形の少女に膝に座られてメッチャ嬉しいので、このまま進行していこうか。サイズ的にもキリエが丸まって小さくなるとすっぽり収まるし、不自由もあんまり無いからね。
「さて、まずは雫さん、各国の概要と他の勇者について、知っていることを洗いざらい吐いて貰おうか」
「なんで取り調べになってるのか分んないけど…。良いよ。知ってる情報は共有しよう」
そう言って雫は解説し出す。相変わらず説明がクッッソ下手なので私が纏めるとしよう。と言うか私もそんなに上手い自信は無いが。でも雫よりはマシなはずだ。
我々が訪れる順に解説する。
まずは隣接しているソレイジ王国。ツバキの説明では控えめな国とか言ってたな。ここは確かに奥手で控えめな国だ。
そして王もびくびくしており、武力国家リスティや、宗教国家ラネシエルの関係者なんかが沢山居て、ほぼ2国の傀儡になっているという。
そんなわけで、対魔教の信者や武装集団もそこらにいて、結構な無法地帯となっているようだ。
続いてラネシエル王国。聞いていた通りの宗教国家で、国民が皆、魔物に親でも殺されたかのように毛嫌いしているらしい。
やはりお国柄もあってか、警備が厳しく、難関になりそうとのこと。
依頼の最後はリスティ王国。武装国家だ。ラネシエルと繋がりがあるので、対魔教の信者が多く、ここでも魔物は敵扱いらしい。
郊外にスラムが発達していたり、ギャングなんかが多かったりして、五大国の中では、最も治安が悪いようだ。
そして私が自分の目的のために訪れるグラスティア帝国。帝王が豪快な性格で、敵対する者は敵。味方は仲間。というわかりやすい国だ。
ここは確かに力が物を言うが、傭兵や義賊なんかが多く、ギルドが最も大きな勢力である事もあって、そこまで治安は悪くないようだ。良いわけでは無いが。
ここに暮らす人々は依頼があれば同族殺しも行う連中で、魔物とか人間とかは全く気にしていないようだ。
そして勇者の話。フリード王国は雫だが、他の国もそれぞれ一人、勇者を掲げている。
ソレイジは貴族のレイモンドという若い男だ。魔法剣の使い手で、フリードとの裏の繋がりがあり、国内からラネシエルとリスティを追い出そうとしているようだ。しかも結構民から慕われるタイプの貴族で、なかなかの苦労人らしい。
ラネシエルは第一王子のミリアーノ。実力はよく分らないが、宗教以上に魔物を嫌い、性格も悪いんだとか。
リスティは第二王女のカトリエット。魔道士らしい。我が儘で傲慢な性格らしく、こいつも厄介そうだ。
グラスティア帝国の勇者は名前が明かされていない。それどころか分っているのは帝王直属の傭兵である事だけだ。
「魔物と人間にどれだけの差があるって言うんだ…。」
ツバキが静かな、だが怒りの籠もった声でぽつりと呟く。膝の上のキリエも怒りと恐怖が混ざったような表情を浮かべているのが分った。
「なんかややこしいなぁ…。勇者は貴族や王子や女王だし、あまり派手に動けないのもつらいところだ」
空気を切り替えるために私が口を開く。雫も乗ってきた。
「私は本職が隠密特化だし、見つからない自信はあるけど…皆は?」
「ツボミも隠密系スキル使えるけど…。問題は僕たちか。隠蔽フードが何処まで頑張ってくれるか、だよね。」
ってかそういえば雫は隠密特化って王様も言ってたな。それであの強さなら十分過ぎるぞ。
「……いざとなったら…ツボミが……助けてくれる…ハズ」
そう言ったキリエに皆が同調し、結局なんとかなるだろうと言う結果に落ち着いた。会議としてはどうなんだろうか。
まぁ明日からの本番、頑張ろうか。私、本番には強いんだ。