82話 フリードごはん
町の人に聞いてマァラさんの店の場所を教えて貰い、ただいま向かっているところである。
キリエ達は「…眠い」「切実にお腹が痛い。」と言っていたので宿で休ませた。そういえば、キリエは結構寝ている気がするが、良くあんなに寝られるもんだ。私はお昼寝とかしちゃうとその日の夜寝られなくなっちゃうタイプなんだよねぇ。
マァラさんの店の前に、よく見る人が居た。良く会うなぁ…
「どうも、マァラさん。雫もね」
「あぁ、また会ったね。って蕾ちゃん!?仮面は!?」
「アンタ誰だい?」
あ、仮面忘れてた。まぁいいや。そういえば今、フードも仮面も身につけてないけど、親衛隊どもが群がっていないのを見ると、どうやら仮面に付いていた軽い隠蔽が服まで認識阻害してくれたんだろう。そうで無きゃこんな服装の人、見逃すはずが無い。ちょっと恥ずかしいけど格好いいから脱がないけどね?
「私ですよ。クロユリです」
「ええ!?アンタこんなに可愛かったのかい!!アタシはてっきりもっと無骨な奴だと…」
「ああ、親衛隊の連中が群がるんで、出来るだけご内密にお願いしますね」
「もちろんさ。それより今日は何か探してるのかい?安くしとくよ?」
そういえば何かを買いに来たって訳じゃ無いんだよなぁ…。雫が何を買ってるか見ると、袋に入った小さい石みたいなのをいくつか買っている。赤っぽい石だ。魔物側では見たこと無いなぁ…。
「雫、それ何?」
「え?蕾ちゃん知らないの?これは爆裂石って言って、袋から出した後に衝撃を加えると爆発するんだよ」
「へぇ…。ニトログリセリンみたいなもんかな?なら仕入れとくか。武器は多いに越したこと無いし。マァラさん。これ10コ貰えます?」
「あいよ!他にはなんかあるかい?」
他に、かぁ…。調理器具…はもうあるか…。やっぱり武装かなぁ。
「戦闘において便利な物ってなんかありますか?」
「そうだねぇ…。1番の売れ筋はやっぱり剣とかの武器類なんだけど、それ以外だと…。あ!そうだ!こんなのはどうだい!」
そう言ってマァラさんが取り出したのはさっきと同じようなさっきと同じような赤い石。袋には入っていない。
「なんですかそれ?」
「これは悪魔の涙って言う高価な石なんだけどね?持ってるだけで攻撃力が上がる代わりに呪われちまう、恐ろしい代物なんだよ。手に入れたのは良いけど、誰も買い手がいないのさ。なんせマジに呪われちまうんだからね」
おお、呪いか。そういえば私は結構呪いの恩恵受けてるよなぁ。主に火力面で。
「マァラさん!!それって危ないんじゃ!?」
雫が呪いという言葉に飛びつく。
「まぁ、所持してる間だし、放しちまえばどうって事無いよ」
そう言ってなだめるマァラさん。流石に買わないか、と思ったのか、石を引っ込めようとする。
「それ、貰います。いくらですか?」
「え!?アンタ、マジで買うのかい!?」
「蕾ちゃん!?正気!?」
「ええ。まぁ私今でも3つくらい呪われてるし。一つ二つ増えても変わらないかな」
二人は私の言葉を聞いて顔を青ざめさせる。
「ハァ…。なんとなくアンタの強さが分ったよ。そんじゃあ2種類で金貨1枚と銀貨5枚だ」
「どうも~」
お金を払い、店を後にする。雫とも再びお別れだ。さぁて、宿に戻ったら二人を連れてご飯でも食べるか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「てことで、なんか食べたい物ある?」
「…ツボミの……手料理」
「僕も同じく。」
嬉しいこと言ってくれるじゃ無いか……。でももうだいぶ日も落ちてきてるし、手軽なのにしよう。
「じゃぁ簡単なの作るわ。ちょっと待っててね」
「「はーい」」
さてさて。今回は麺類にしましょうか。うむ。パスタが良いね。
と言う事でペペロンチーノにします。簡単で良いでしょ?
用意する物は塩とオリーブオイルとにんにくと唐辛子とパスタ。
まずは下準備から。にんにくは一粒をスライスにして、唐辛子は種を取ろうね。
そしたら鍋に水をガッツリぶち込もう。沸騰したらそこにお塩を適当に加えます。小さじ2~3が良いかな。これはパスタ茹で用だよ。
沸騰を待つ間に別の準備。フライパンにオリーブオイルを大さじ1,5ぐらい入れて、さっきのにんにくと唐辛子を入れて弱火で炒めましょう。このときは、フライパンを傾けて、オリーブオイルを一点に集めると上手くいくよ。今回は三人分だし、三倍だな。
沸騰して塩を入れたらパスタを茹でる。パッケージに書いてあるからそれ見て茹でてね。
フライパン側は、にんにくが良い感じにきつね色になったらパスタのゆで汁をお玉一杯分入れて、フライパンを回すようにしながらよく混ぜる。
オリーブオイルとゆで汁が良く混ざり、白っぽくなったら火を止めて良し。パスタがゆであがる辺りでまた火にかけて温めると良い。
そしてゆであがったパスタを湯切りした後、さっきまでの奴と合わせて、よく混ぜ、水気がたりないならゆで汁を入れる。味が薄かったら塩胡椒だ。
そしたら完成。人数分皿に盛ろう。
「ほら、出来たぞ~。ご飯にしようか」
二人は期待した顔で飛んできた。
「手抜きだから味は保証しないけど、どうぞ」
「…美味しそう」「匂いがもう美味しいね。」
そんなことを言っている二人と一緒に手を合わせる。マナーとして教え込んでおいたのだ。
「「「頂きます!」」」
パスタのつるつる感と塩気が、独特のソースと絡んで、なかなか美味しいね。少し舌に当たるピリ辛感がたまらない。
「……ツボミ…ご飯…上手」
「美味しいねぇ。僕の嫁に来ない?」
素直に褒められると少し恥ずかしいね。でも料理で喜んで貰えるなら嬉しい限りだ。
やっぱり腹が減ってはなんとやらだし、美味しい物を食べるとそれだけでやる気が出てくるもんだ。
そんなこんなで夜です。
「ちょっと寝る前に聞きたいんだけど、人間の国の名前と特徴ってツバキ知ってる?」
「そうだね。教えておこう。まずは形からかな。簡単な図を書くとしようか。」
そう言ってツバキはどこからか紙を取り出すと、上が平らになるように正五角形を書いた。
「五角形?」
「まぁなんとなく大まかな図さ。“こんな感じ”という風に捕らえてくれると良いよ。」
ツバキはその5角形の中心に点を打ち、それを5コの正三角形に分ける。
「おおきな5つの国はこんな風に分けられる。今僕たちがいるフリードが左下の三角形だね。」
「へぇ、他は?」
「右下は“グラスティア帝国”、右上は“リスティ王国”、上が“ラネシエル王国”、左上が“ソレイジ王国”だよ。」
国名を書き込んでいくツバキ。爆睡するキリエ。
「詳しい情報とかある?」
「簡単なことならね。聞きたい?」
「少しでも情報は欲しいかな。」
「グラスティア帝国は“力こそ全て”をモットーにした国だ。来る者は拒まず、去る者は追わず、力なき者を迫害する。そんな国だ。やっぱりお国柄のせいか、蛮族ばかりで治安が悪いね。リスティ王国は武力国家。それ以外に詳しい情報は無い。」
「詳しい情報が無い?隠蔽されてるの?」
「ただ単に僕が知らないだけさ。続けるね?」
頭の中でメモを取りながら無言で頷く。
「ラネシエル王国はとある宗教を国教とした宗教国家だ。後で詳しく話すよ。ソレイジ王国はフリードとも隣接している国だね。控えめな国で、リスティやラネシエルにつけ込まれ気味かな。」
「ふーん。で?ラネシエルの宗教って?」
ツバキは答えにくそうに沈黙する。その後、少し考えて話し出した。
「対魔教。魔物をモンスターと同列視し、絶対悪とする宗教さ。」
「……そう。」
「しかも国民も例外なく対魔教。いわば一国家が魔物の敵なのさ。更に言えばかなりの狂信者気味で、魔物は奴らに見られたら瞬時に殺戮の対象。魔物を殺しても罪に問われないどころか、褒められるような始末さ。そんなわけで、奴らは魔物も、そして魔物と共に暮らすこのフリード王国もあまり良く思って居ない。」
「………。そっか…」
そんな国があるとは…厄介だな…。私達は魔物だし見つかったらヤバイ。それにあんまり居心地も良くなさそうだな…。偵察だけ済ませて早々に立ち去るか。
「明日は何する?」
重い空気を変えるように話題を変える。
「明後日出発なんだろう?なら僕は寝てるよ。することも無いしね。君は勇者にでも会って詳しい情報を聞いてみたらどうだい?偵察も事前情報があればやりやすいだろう?それに国境を越える算段も気になるしね。」
「ん。じゃあそうするよ」
そんなこんなで明日に備えて眠ることにした。今日は鬼撃のせいで疲れたなぁ…