80話 表彰式
今回めっちゃ短いです。申し訳ない…
表彰式は王城で行われる。勿論一般人も見ることは出来る。宿に戻り、再びクロユリスタイルに着替えた私は昨夜のことは何も知らないことにして王城へと向かった。
そういえば雫は『犯人は現場に戻る』と言っていたが、マジで戻ってきてしまったな…
王城に近づくにつれ、2つの人混みが目に入ってくる。1つは正門前に集まる人々。表彰式の観客だ。もう1つは大穴の空いた城壁に群がる人々だ。あちらは見ないでおこう。後ろの2人は何があったのか気になっているようだが、無視しよう。
この辺りで2人とは別れる。私がこの人混みの中で普通に歩いていたらバレそうだからね。表彰式に参加する人は王城内集合だから、そこまで隠密を使って行くとしよう。
隠密のおかげでなんの苦も無く集合場所の広間にたどり着いた。既に私以外は全員居た。表彰されるのは決勝まで残った私と雫、そして準決勝敗退のエドガーと同じく準決勝で雫に負けたリックと言う男だ。
エドガーは私を見るなり、「姉御!!おはようございます!!」と叫ぶ。そして雫から天誅を受けていた。ナイス雫。
私達はその広間で礼儀作法なんかを確認しながら王とのリハーサルを行った。結局私は何度やっても礼儀作法を身につけられず、もう私に限っては黙認する、と言うことになった。でも、やっぱりしっかりしないと、と思うので隣の雫のまねをひたすら行おう。
そんなこんなで、ギャラリー達も入場して来て、表彰式の開幕となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今から先の大会の表彰式を行う。選手達よ、入場せよ」
王の言葉で私達は会場へと入っていく。大広間に大量の一般人を招いている辺り、やはりこの国は良い国だな。危険意識が低すぎる気もするが。
私達が入場すると、大きな歓声が上がった。エドガーもシャキッとしている。王の前では騎士団長やってるんだろう。リックは見た目こそ蛮族だったが、礼儀正しい方だった。人は外見じゃ分んないね。
「早速始めよう。まずは優勝。クロユリ。前へ」
そう言われて前に進み出る。一応習った礼儀作法をやっているつもりだったが、まだ不備があったようで、リハに居なかった大臣クラスが数人「貴様!!王の前だぞ!!」と声を上げる。バカかよ…むしろ大切な式に水を差す方が失礼だわ。まぁそんな大臣も別の大臣に押さえられていた。私の言った理由では無く、「手も口も出すんじゃ無い!!あの方の前に立つと轢き殺されるぞ!!」と。たとえが地味に良い感じで腹が立つ。
「王の名の下に、そなたの実力と、我らが勇者殿を打ち破った実績をたたえる。素晴らしい戦いだった」
そう言われて表彰状を受け取る。再び大きな歓声が巻き起こる。
そんなこんなで表彰式は最後まで何事も無く終わった。観客が退場して行く。全ての観客が退場した後、王が口を開く。
「雫殿とクロユリ殿以外は皆退場して貰えるだろうか。少し外野抜きで話がしたいのだ。お二人も、よろしいかな?」
あーあ、面倒なことになったな。この後はツバキたちをしばk…特訓する予定だったんだが。隣で雫が頷いたせいで断り辛くなったので私も素直に話を受けることにした。
王の合図で大臣達は部屋を出て行った。
「残って貰って申し訳ないですな。手短に、単刀直入に聞くとしましょう。クロユリ殿も雫殿と同じ身の上なのでしょうか?」
「……ええ」
「…言いにくいようですので深くは聞かないでおきましょう。お二人にはお願いがあります」
「王様?それは一体?」
「話を聞こうか」
「雫殿には、敵国の偵察を行って貰いたいのです。そしてクロユリ様にも同行をお願いしたい」
敵国の偵察?まだやってなかったのか。
「雫殿は隠密型が専門でしたよね?その力を生かして欲しいのです。詳しく言えば勇者を掲げる国で、帝国を除いた残り3国の武力状況や物資の流れなどを偵察をして頂きたい」
「私は断れる立場ではありませんから。お受けしましょう。ですが…」
そう言って私に目線を向ける雫。答えは決まってる。親友が危険な場所に行くんだぞ?もちろん・・・
「断る」
「だろうね…」
「ふむ、理由を聞いてもよろしいかな?」
「2つある。まず1つは単純に面倒くさい。私はどこかに定住する気は無いし、そこに属する気も無い。だが、この理由は親友が危険な場所へ行くと言う事で覆すことが出来る。だがもう一つ」
瞬間、“絶影”が発動される。一瞬で王に近づいた私の手には一本のナイフ。そのナイフの切っ先は王へと向けられていた。
「私が敵国の間者だった場合はどうなる?こんな一瞬で王は死に、他国の情報を狙っていると言う情報があんたの言う敵国に伝わる。それが伝われば他の国は黙っていないだろうし、最悪、大量の血が流れることになる。そんな身元も分らない奴に大切な頼み事をする馬鹿の言うことなんか、私が聞くわけ無いでしょ?」
うろたえる雫。だが王は冷静だった。
「私は、賭けたのです。クロユリ殿が決勝後に語った言葉に。貴方が求める、人と魔物の調和が本心から出た言葉である事に」
「……プッ。アハハハハハ!!面白い。王様、貴方正気じゃ無いね?私、大好きだよそう言うの」
緊迫した状況に響いたのはツボミの笑い声と雫の「ふぇ?」と言う声。ナイフはいつの間にか鞘に収まっていた。
「仕方ないなぁ。受けるとしよう。ただし、依頼という形でだ。言ったとおり、私達は国家に属する気は無いし、ましてや一個人の元につく気も無い。そして、私達も自由行動させて貰う。それだいいなら良いよ?」
「了解しました。もとより対価として一定のお礼はするつもりでしたから。依頼という形ならばわかりやすくて良いでしょう」
「じゃあ依頼成立だ。そういえばこれまでのことも、今の言葉遣いもだいぶヤバいけど、無礼になるのかな?騎士を差し向けてみたりする?」
「しませんよ。私もまだ死にたくはありませんから」
そう言って笑う私達と乾いた笑いを浮かべる雫。ヤバいなぁ…勝手に約束しちゃったけど、キリエとツバキは何て言うかなぁ…。まぁ自由行動は取り付けたし、私の目標はスムーズに果たせそうだけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出発は明後日からとなった。雫とはいったんお別れだ。
二人と合流できたので、先程あったことを話す。勝手に決めてしまったこともだ。
「まぁ、他国に侵入する良いきっかけが出来たじゃ無いか。むしろ運が良かったんじゃ無いかな?」
「……謝る…必要なし…。…私は…ツボミに…何処までもついて行く」
「そう?ならこのまま特訓に移って良いの?」
「うん。僕は約束は絶対守るからね。でも町中では危険だし、いったん中立区まで行こうか。」
そう言ったツバキに同意し、中立区まで戻っていく。さぁ、お仕置きタイムだ。