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魔物で始まる異世界ライフ  作者: 鳥野 肉巻
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76話 闘技大会

 翌日の早朝である。と言っても、まだ“深夜”かな。まだ日も昇っておらずに辺りも真っ暗で、人も全然居ない。

 

 まぁ簡単に言えば会場の下見である。大会が行われていない間は立ち入り自由なので、先に確認しておこうと思ったのだ。ザル過ぎるが、内部ではどんなことが起きても外部で復活するため、いくらでも仕切り治せると言うこともあってのフリー具合なんだろう。

 

 正直ザルで良かった。戦うフィールドは事前に確認しておいた方が確実に有利だ。足場の関係で負けるなんてザラにあるからね。私は昔から事前確認だけはしっかりするタチなんだ。


 ちなみに、今は大会に出るときと同じ格好だ。昔来ていたロングコートに、キュウビからのドロップ品の“霊狐の面”で顔を隠した姿。勿論目立ちたくないので、昨日も偽名で登録しておいた。


 人っ子一人居ないだろうと思い、この時間にしたが、どうやら先客アリのようだ。更にいえば、良く見慣れた人物が。


 彼女は真剣な顔で、地面を確認しながら双剣を振っていたが、私に気づいたようにこちらを向く。勇者様って結構フリーなんだろうか。


「おはようございます。早いんですね」


 なんと。声をかけられてしまった。だが、この霊狐の面、軽い隠蔽効果があって、存在は隠せないが性別や声はなんとかなる。まぁ格好や髪型的に女っぽいが。


「ええ。確かめておこうと思いまして。勇者様もですか?」

「そうなんですよ。友人からの受け売りなんです。事前確認はわすれるな!ってね」


 あぁそれ私の事か。そういえば以前にゲームやってたときに言ったなぁ。覚えてたのか。


「そうですか。ちなみに勇者様は何ブロックなんですか?」


 この大会は8ブロックに分かれており、その後に決勝トーナメントといった感じの大会だ。ちなみに私は8番。受付が遅かったからだね。


「1番です。受付早かったので」

「そう、じゃあ決勝で待ってるよ、雫」


 そう言ってヤバイと気づいた。お忍びなのに、なんで雫って呼んでしまったんだ。しかもタメ口で。クッソ私としたことがこんなミスを…いつもの癖で自体を見失うとは・・・。とりあえず逃げよう。


 走って逃げると不審者っぽいので、歩いて会場から出る。ちらっと後ろを見ると、雫はぽかんとして立っていた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 




 そんなこんなあったがキリエ達と合流。実はメインコロシアム以外にも小さなコロシアムがいくつかあり、予選はそこで行われるので移動しないとね。


 ツバキには雫の観察を頼んだ。勇者と言えばかなり強い印象があるし、危険な攻撃なんかを後で教えて貰おうという魂胆だ。セコいって?使える手は全て使うんだよ。


 キリエは私の試合が見たいと言うので、応援に来て貰うことにする。



 てな感じで第四コロシアムに来た。ツバキも今頃第一コロシアムに着いている頃だろう。ここでは7番と8番の予選が行われる。先に7で、間髪入れずに8だ。予選は午前中にちゃちゃっと終わるみたい。午後からはメインコロシアムで本戦だ。


 そういう訳でキリエとはここで分かれて控え室に行く。キリエは観客席だ。フードを着ているし、ナンパの心配も無かろう。


 控え室は勿論男女別で、ロッカーやベンチがある、着替え室兼用の所だ。まぁ市民プールの着替えるところを想像して貰えば良い。

 ちなみに私は朝のままの格好で来ているので、着替える必要は無い。出番を待つだけだ。


 なんだかこういう時って、緊張もあってか、お腹の辺りがざわざわするよね。しないかな…私だけかな…


 ベンチに腰掛けて出番を待っていると、かなり屈強な女性が入ってきた。外で噂されてたのを聞くと、この人は本戦の常連のマァラと言う方らしい。7番ブロックだ。彼女が入ってきたと共に控え室がざわついている。


 私は自分の番が来るまで精神統一でもして待っているとしよう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 キリエです。ツボミの代わりに私が観客席から、試合の情報を中継するよ。


 ツボミが出るのは8番。その前には7番がある。今はその入場が終わったところだ。


 予選は、1ブロック5人のサバイバル戦で行われ、勝ち残った一人が本戦に出場できるらしい。サバイバル戦だと、運も絡んでくるけど、本戦出場には運も必要と言いたいんだろうか。


『レディース&ジェントルメン!さあさあ始まりましたよ!予選試合!ここでは7番、8番ブロックの予選を行います!選手名簿はお手元のパンフレットをご覧下さい!』


 始まったね。選手名簿か。さっき貰ったなそういえば。でも愛しのツボミ以外全く興味ないからいいや。


『それでは早速7番ブロックの試合を開始しましょう!試合開始ィィィ!!』


 MCの合図でドジャーンと銅鑼が鳴る。それと同時に叫び声が会場に響き渡った。


「ウオォォ!!」という雄叫びと共に飛び出したのはゴリラみたいな女性。シーフっぽい男が反応するよりも早く鉄拳をみぞおちに抉り混ませ、吹き飛ばす。


 吹っ飛んだシーフは地面に衝突する前に消えた。即死だったんだろう。今頃は結界の外だ。


『流石はマァラ!早くも一人撃派だァァ!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』


 あのゴリラ、マァラって言うのか。でもそう甘くは無い。ヘイトを稼いだせいで、周りの三人が一斉にマァラに攻撃し始めた。


 一人は大剣を振りかぶるが、かわされる。もう一人の弓も、同じくかわされる。しかし、最後の一人が放った火の玉がマァラに直撃した。


 三人は顔を合わせて「やったか!?」って顔してる。だが、予想通り、マァラはなんともない表情で再び突進した。


 2番目の鉄拳の餌食は先ほどの魔道士。吹っ飛ぶ前に消えたのを見るに、脆かったんだろう。マァラの拳が強いのもあるが。


 マァラはそのまま間髪入れずにタックルし、弓使いを消滅させる。


『マァラ!!怒濤の2人撃派だァ!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』


 そんな凄いかな…。いや、私がツボミと行動していたせいで感覚が鈍ったんだろうな。普通ならあり得ないくらい強いもん。あのゴリラ。


 更に、残った大剣使いがやけくそで特攻するが、見極めて左ストレートのカウンター。一発KOだった。


『早くも決着!!勝者!マァラ!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』


 うむ。なかなか面白いゴリラだったな。次はお待ちかね、愛しのツボミの番だ。


 そういえば、ツボミは今回偽名で参加してる。セリアさんから言われた『クロユリ』を名前にしたみたい。だから、今回の大会、ツボミは『クロユリ』と呼ばれることになる。


 おっと。お待ちかねの8番の入場だ。この大会、武装は何でもありみたいで、一人重歩兵みたいなのが居る。まぁツボミも剣に銃に投げナイフだし、人のこと言える立場じゃ無いよね。


 そういえば今回、ツボミには作戦があるって言ってた。先日、色々練習してたし、きっと面白い戦い方をするんだろう。私はツボミの戦い方、なんか美しいから好きだな。やってることは悪魔の所行だけど。


 あちゃー。参加選手、ツボミ以外でメンチ斬り合ってるよ。ツボミは完全に蚊帳の外。初参加なんか怖くないってか。いや、違うぞ。君たちの前に居るのは正真正銘の死神なんだ。



『続いて!8番ブロックの予選試合を行います!!試合開始ィィィ!!』


 再び“どじゃーん”の音。それと同時にツボミの手の中に炎が生まれた。


「狐火」


 それは死刑宣告。いや、死亡宣言だ。地面に落ちた炎は、一瞬でコロシアムの大地を火の海に変える。およそ2秒。既に立っている者はツボミのみになっていた。


 一転して静まりかえる会場。ツボミ…やり過ぎ…。だが、少しすると、ひときわ大きな歓声に包まれた。


『ウオォォォォォォォォォッ!!!!!!』


『今、何が起こったのかはよく分かりませんが!ともかく決着!勝者は!今大会初出場!!クロユリだあァァァッ!!』


『ウオォォォォォォォォォッ!!!!!!』


 ツボミ…隠密にやるって言ったのに…超目立ってるよ…まぁ遅かれ早かれだしいいけど。でもコレは少し相手が可哀想だなぁ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 そんなこんなで私だ。ツボミだよ。今回の作戦は、炎属性魔法だけ使って火属性魔道士だと思わせる作戦だ。滅茶苦茶長いが、わかりやすい作戦名だろう?魔道士と言えば脆い。近距離対応出来ない。ってイメージがあるだろう?そこをつくんだ。それに、この作戦なら決勝まで私の武器を隠して戦える。


 まぁ実は服に改造が加えてあって、いつもの奴見たく剣も銃もナイフも刺しておけるんだが、とりあえず隠しておく。激しく動かなければ見えないはずだ。


 で、今何をしているかというと、メインコロシアムの控え室に居る。開始2時間前ある。なんかすることも無くてキリエ達と合流した後、すぐに来てしまった。まだ誰も居ない。仕方ない。精神統一してよう。


 さっきツバキと合流して貰った情報だと、雫は光の矢だけで無く、光魔法も扱うみたい。魔力が超多いみたいで、矢はほぼ無限。光魔法もかなりの物らしい。まぁ勇者っぽいな。


 うーん。暇だ。早く来すぎたなぁ…。そう思っていると、控え室の扉が開く。入ってきたのは勇者様。やっべ。無視しよ。


「あ、朝の人じゃ無いですか!ほんとすいません!無礼なことして!」


 は?何言ってんだこいつ。


「なにがです?」

「いえ、最後の言葉の所、あくびしちゃったせいで、聞こえなくて…。怒って帰っちゃったのかな、って」

「あぁ、違いますよ。私はもう行くんでお互い頑張りましょうって言ったんです」

「そうなんですか。安心しました。ええ、頑張りましょうね」


 チョロいな。なんと苦も無く騙せてしまった。詐欺とか絶対引っかかるぞこの子。


「まぁ初参加で無名の私が頑張ろうなんて、立場が違いすぎましたね。無礼をお許し下さい」

「そんな!頭上げて下さいよ!ここに居る間はみんな同じ選手なんですから。無礼も何も無いですって」


 カマかけてみたけど、やっぱ変わってないな。雫はこういう奴だ。


 ってか、今二人しか居ないんだし、色々話せるんじゃ無いか?どうやって切り出そうか。


「楽しそうじゃ無いか!アタイも混ぜておくれ!」


 後ろから豪快な声が聞こえてきた。さっきの7番のマァラさんだ。相変わらず強そうだ。


「あ、マァラさんこんにちは!」

「おお、雫ちゃん!元気かい?今日も優勝狙い?」

「まぁなんとか頑張ってみますよ」


 二人は知り合いみたいだ。


「ああ!!アンタ、さっきの炎の子じゃないか!!」


 唐突にマァラさんが私の方を見てそう言う。


「あ、どうも…」

「え?マァラさん、この人が噂の、2秒で予選終わらせた人なんですか!?」

「そうさ!私がね?次の8番は重歩兵のトニーが勝つかなぁとか思ってたら、一瞬で火の海に変わってね!そこに立ってたのがこの子さ!」


 二人の視線が怖い…。雫ってこんなに眼力あったっけ…。話そらそう。


「そういえば、今日の本戦は女性三人らしいんで、このメンバーだと思うんですけど、男性側ってどんなメンツなんですか?」

「ん?そうだねぇ。昨日決勝まで行った王国騎士団長のエドガーは居るみたいだよ?」

「あの人騎士団長だったんですか!?」

「アンタ、旅人かい?昨日と今日の大会は国王陛下が見に来なすってるから、勇者様も騎士団長様もいるんだよ」

「いえ。私は良くプライベートで参加してますが」


 陛下が見に来てんの!?ヤバくね?そういえば受付の所に「特別大会につきSランク以下お断り」って書いてあったなぁ…そういう事か。


「で?アンタの陣無し詠唱無し待機無しの、あの魔法について詳しく聞こうじゃ無いか」

「そうですよ!気になります!」


 あぁ……誰か…助けて…。話…そらせなかったよ…。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 なんとか誤魔化しきったぞ…乗り切った…。私を褒めてくれ。


 入場時間になったので、列になって入場する。国王陛下の挨拶とかあるみたい。


 コロシアムに入った私達はなんとなく等間隔に並ぶ。すると、MCが出てきた。


『さて!!皆様!!盛り上がってるかァイ!?早速本戦の開始だ!!開始宣言は皆様大好きなこの方だァァッ!!』


 そうして出てきたのは国王陛下。大丈夫なのか?無礼に当たらないのか?と思うが、会場の皆が、国王が出てきたとたんに歓声を上げたことからして、フレンドリーに慕われているんだろう。良い王様だな。


『どうも皆さん。フリード王国国王です。長ったらしい挨拶は嫌いなので、手っ取り早く済ませますが、まずは魔物も人間も関係なく楽しむことが重要です。と言うわけで、選手の皆様に拍手~!』


 国王の合図で、観客席から嵐のように拍手が起こる。この王様、人望あるんだなぁ。


『さて、では開始宣言しますね。フリード闘技大会!ここに開始!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』


 

 何かそんなこんなで選手達はいったん控え室に戻る。で、選手は、他の試合がどうなってるか全く分からないので、私は自分の番まで待つわけだ。


 ちなみに1回戦の相手はお隣に居るマァラさん。この人、道具屋の女将なんだって。それで雫とも面識あるみたい。


 ちなみに今は3試合目の途中。1試合目は雫が余裕で勝ったみたい。我々は4試合目です。


「お互い、正々堂々やろう。戦意喪失なんて野暮な真似したら許さんからね」

「言ってて下さいよ。逆にビビらせてやりますから」

「なんか、クロユリさんの言ってることが私の友人に似てるよー」


 そんなこんなで3試合目はエドガー勝利で決着。やっと私の出番だ。先にマァラさんの入場。私が後だ。


 ここまで来るとMCの声も聞こえてくるね。


『さてさて!!入場してきたのは皆様がよく知る!!道具屋の女将にして歴戦の傭兵!!マァラァァァ!!』


 おう。次は私だ。


『続いて入場してきたのは今回のダークホース!!コロシアムを炎に染め上げる狐の仮面!!クロユリィィ!!』


 何か恥ずかしいね。マァラさんは私と目が合うとにやっと笑う。


『さてさて、1回戦4試合目!!勝負開始ィィ!!』どじゃーん


 銅鑼の音と共に、マァラさんは雄叫びを上げ、突進してくる。ライトニングアクセルでも使いたいところだが、火属性しか使わないと決めたんでね。


「炎剣」


 以前とは違い、私は瞬間詠唱のおかげで一瞬で発動できる。突進していたマァラさんは回避に動くが、遅すぎる。


 私の腕に現れた炎の巨剣は、一降りでマァラさんの巨体を左右オサラバさせる。だが、ショッキングなことになる前に、マァラさんは光になって消えていった。


『ななな、何とォ!!あのマァラが一撃で倒されました!!勝者はクロユリィィ!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』


 なんだか、人を断ち切ったってのに、実感湧かないなぁ。この結界もあるんだが、一回死んだときに何か大切な物を置いてきてしまったような気もする。

 とりあえず2回戦の相手は騎士団長エドガーか。


 

 控え室に戻ると、マァラさんが居た。


「アンタ、化けもんだね。この私が軽くビビっちまったよ」

「言ったでしょう?逆にビビらせるって」

「ああ、ほんとだね。コレ終わったら、是非家によってくれよ安くしとくから」

「ええ。是非」


 控え室で、様子がつかめない雫は「え?何事?」見たいな顔をしている。


 次は2回戦。準決勝だね。雫が「行ってきます」って言って控え室を出て行く。



 しばらくして入り口から雫が戻ってくる。息切れしているが、勝ったようだ。


「お疲れ様」

「いえいえ、それより、次はエドガーですよね?頑張って下さい」

「勿論。騎士団長といえど、手加減する気は無いよ」

「ハハ…一応彼は私以外でこの国一の剣士なんですがね…」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



『まず入場してきたのは!この国の騎士団長!二つ名は鋼鉄の要塞!!だがこの場では別の顔!過去優勝経験アリの歴戦の戦士!!エドガー!!!』

『ウオォォォォォォオ!!!!!』


『続いて入場したのは!!予選、1回戦共に10秒以内での決着!!炎を自在に操る妖狐!!クロユリィィ!!』

『ワァァァァァァ!!』


 ん?何か目のせいかな…観客席の所に“クロユリ様親衛隊”って旗が見えるんだが。もしかしてファンって奴か…?仕事早すぎだろ!?


「俺の盾は炎をも消し去る。今までのようには行かないぜ?」

「その言葉は見てから言うと良い」



『さぁ!波乱の2回戦2試合目!試合開始ィィ!!』どじゃーん


 エドガーは昨日の決勝戦のように突進してくる。魔道士相手なら正しい判断だろう。

 何か盾に自信あるとか言ってたな…


「ドラゴフレアァ!!」


 私が手をかざすと、そこに現れたのは巨大な燃えさかる龍。そのまま手を振り下ろすことで、エドガーへと襲いかかる。


「防いでみせる!エナジーシールド!!」


 エドガーは足を止め、その場に光の盾を展開する。そして、どっしりと構え、受け止める準備をした。


「受けきれない攻撃も分らないのに盾職やるなアァァァ!!」


 私の魂の叫び。盾職ってのは長く生き残ることが仕事なんだ。後ろに誰も居ないのに、確実に死ぬ攻撃を無理矢理受けようとするのは愚の骨頂である。

 

 エドガーの障壁は少しも役に立たずに貫かれ、エドガー自身も炎に包まれる。


 龍が地面を焦がし、散っていった頃、エドガーはその場で倒れ込んでいた。まだ死んでないのか。これはあっぱれだ。


「俺の…負けだな…今度あったら…また戦ってくれ」


 そう言うとエドガーは消えていった。


『勝者!!クロユリィィ!!!』

『ワァァァァァァ!キャァァァァァ!!』


 なんか黄色い声援多くね?まぁ良いか。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 決勝の前には2時間程度の休憩が挟まった。そこで、選手も相手の情報を周りから聞くことが出来るわけだ。と言っても決勝に出る二人だけだが。


 まぁ、良いチャンスなのでキリエとツバキに情報を聞きに行く。


「見てたけど、特に目立った行動は無かったよ。本気出してないどころか、流してる感じだったね。」

「……ツボミ…格好良かった」

「そっか。もう一つ気になってるんだけど良いかな」

「「ん?」」

「アレ……何?」


 私の指さした先には“クロユリ様親衛隊”の旗を立て、黒地に赤い文字で“クロユリ様親衛隊”、後ろに“ILOVE黒百合”って書いてあるはっぴを着て、サラシ巻いて、鉢巻きする人々。

 私は今隠蔽フ-ドかぶってるが、アレは相当ヤバイ類いのもんだぞ。バレたら死亡する程度には。


「…アレ…何だろうね…多分ファンクラブだよ。きっとそうさ。」

「……ツボミ…人気者」


 男性3割女性7割なのは何でだろうか。まぁこれ以上ここに居てばれると怖いし、控え室もどろ…



 控え室に入ると、雫が居た。


「さっき聞いたんですけど…『受けきれない攻撃も分らないのに盾職やるな』って…私の友達もよく言ってて…」


 やっば。バレたか…


「貴方…何者ですか…?」


 なんて答えりゃ良いんだ畜生…


「誰だと思う?」

「蕾ちゃんなの…?」

「じゃあ教えておくけど、雫の知ってる“木下蕾”は車に轢かれて死んだよ」

「えっ?蕾ちゃんが…?って、なんで知ってるの?」


 ああ、もうヤケクソだ。


「本人だからじゃ無い?」


 私がそう言った瞬間、セリアさんも真っ青な速度で雫は私に抱きついてきた。


「ほんとに…ほんとに蕾ちゃんなの?」

「多分、違う。声も、顔も違うでしょ?」


 私はそう言って仮面を取る。


「どういうこと?」

「死んだら。生まれ変わった。それだけだよ。雫、そういうの好きでしょ?」

「異世界転生って事?確かに好きだけど…って事は、中身は蕾ちゃんなの?」

「一応ね。でも、私自身は既に人間ですら無いけど」


 そう言うと、雫は私の胸に顔を埋めて泣き出す。


「会いたかった…会いたかったよ…蕾ちゃん…」


 とりあえず泣いてる雫をよしよししとく。


「前はもうちょっと胸あったのにね」


 とりあえず泣いてる雫の頬をつねっとく。


「まぁ、私も雫についていろいろ聞きたいけど、試合の後にするわ。何か勇者って響きがムカつくから一回殺す」

「その理不尽な感じはまさしく蕾ちゃんだね。ちょっと安心したかも」

「ほら、そろそろ時間だ。行くよ」

「うん。勇者の力、見せてあげるよ」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



『さて、皆様、お待たせしましたッ!決・勝・戦!!開幕です!!では選手に入場して頂きましょう!!どうぞ!!』


 まずは雫の入場。それと同時に、客席から、歓声が起こる。


『まず入場してきたのは!我らの希望の星!!変幻自在のアーチャー!一撃必殺のトリックスター!!勇者のシズク・コハルカワだあァァァ!!』


 次は私の番か。


『続いて入場してきたのは!今大会のダークホース!美しき妖狐!!早速ファンクラブも出来ている模様の…クロユリィィ!!』


 またしても歓声が上がる。何でこんなに人気あるんだ私…色々看板持ってる人が居るけど、“踏んで下さい”は酷いんじゃねぇの?


『さて!決勝前に両者に意気込みを聞いてみましょう!』


 昨日はこんなの無かったな…。まずは雫からのようで、彼女の前にマイクを持ったおじさんがスタンバイする。


「あそこに居るのは、私の知り合いですが、正真正銘の化け物です。なので、負けても許して下さい。勿論、負ける気は全くありませんが」


 なに知り合い宣言してくれてんの…。そしてマイクは私の元に。


「…相手が勇者だろうが何だろうが関係ない。ただ良い戦いをするだけだ」


 少し格好つけておいた。キャラも立つし良いんじゃ無かろうか。


『それでは!!決勝戦開始いたしましょう!!スタートォォッ!!』



 さて、まずはこちらから仕掛けてみようか。ライトニングアクセル!私が帯電したのと同時に、雫の光の矢が飛んでくる。だが、この間便利なスキルを貰ったからな。


「絶影」


 私は、残像も残さずに雫の後ろに瞬間移動する。そのままグレイスオブクイーンを一閃。完全に不意を突いていたが、舞ったのは血では無く、火花。雫は、なんとかギリギリで弓を後ろに回し、ガードしたようだ。


「流石にこの程度じゃダメージ入らないか」

「十分すぎるよ…痛いぃ…」


 私はその場で再び撃ち込んでも良かったが、いったん距離を取る。ナイフバックステップだ。練習しておいた3本同時投げで距離を取る。

 雫は再び不意を突かれたようだが、双剣モードで打ち落とす。


「対応力は以前よりも上がってるんじゃ無い?」

「私もツb…クロユリちゃんに認めて貰えるように頑張ってるんだもん」

「そう、じゃあコレはどう?」


 私はカースオブキングでシャドウバレットを6連発する。雫はなんとか射線から外れ、カウンターに光の弓を放った。だが、ライトニングアクセル状態の私に当たるはずは無く両者の攻撃は空振りに終わる。


 こりゃあ、久しぶりに楽しめそうだ。

なんか長いです。予想以上に筆が進みました。

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